左から清水宏ホンダ・モータースポーツ部長、森山克英ホンダ執行役員ブランド・コミュニケーション本部長、ダニール・クビアト、ヘルムート・マルコ、ピエール・ガスリー、フランツ・トスト、山本雅史ホンダF1マネージング・ディレクター、アルファタウリ・ホンダ新車「AT01」発表イベントにてcopyright Getty Images / Red Bull Content Pool

期待して良い?アルファタウリ・ホンダ「AT01」… 技術責任者が明かす開発と今季の見通し

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モノクロームな雰囲気漂うアルファタウリのツートンカラーは早くもファンの心を掴んでおり、マシンにせよチームウェアにせよ「見栄え」は非常に”ハイレベル”だが、肝心のパフォーマンスについてはどうなのだろうか? 我々は新車「AT01」に期待して良いのだろうか?

トロロッソ「STR14」との違いは? 3年目を迎えたホンダとのパートナーシップによる恩恵は? 今シーズンの見通しは? マクラーレンに移籍したジェームス・キーの後任として、昨年よりファエンツァのチームの技術部門を率いる46歳のイギリス人テクニカル・ディレクター、ジョディ・エギントンが開発の裏側を語った。

車体性能の底上げ目指したAT01

レギュレーションが変更される場合、チームはその対処に多くのリソースを割くことになるが、今季は殆ど変更点がない。ジョディ・エジントンは2020年シーズンに向けての開発において、ウイークポイントの補強や特定領域の改善というよりは、クルマ全体の性能レベルを底上げするアプローチを取ったと説明する。

「技術レギュレーションに関する変更が非常に少ないため、アルファタウリとしての初めてのF1マシンであるAT01は、2019年モデルであるSTR14を強力に進化させたものと言える。(規約が安定しているため)根本的な見直しを必要とするものは何もなかった」とジョディ・エジントン。

「クルマを次のレベルに引き上げて空力の自由度を最大限に高めるために、パワーユニット(PU)のパッケージング、サスペンションのパッケージング、システム、インテグレーションといった点での優先項目すべてを更に推進する事に注力し続けている」

スクーデリア・トロロッソのテクニカル・ディレクターを務めるジョディ・エジントン
© Getty Images / Red Bull Content Pool、ジョディ・エジントン

2017年のレギュレーション変更によって、F1マシンはより幅広なフォルムとタイヤを手にした一方、ドラッグ=空気抵抗の増加を引き受ける事となった。前面投影面積(マシンを正面前方から見た際の面積)を減らすことでドラッグを低減できるため、チームは車体のパッケージングを見直してボディーワークを絞る努力を続けている。

「PUや他のメカニカルパーツをどのようにシャシーに統合するか。それが我々が集中的に取り組んでいる課題だ。それによってパフォーマンスアップに寄与しないシーズン中のアップデート投入を避ける事が出来るからコスト削減に繋がるし、空力部門に開発の自由度を与える事が出来るからね」とジョディ・エジントン。

「最も注力したのは、出来る限り全てをタイトにパッケージングする事。これは大きな挑戦だった。だがこれは同時に課題を生む。全てが本当にコンパクトにまとめられているため、メンテナンス性を確保するために幾つかの方法を試してみたのだが、最終的には優れたソリューションを考え出す必要に迫られた」

シェイクダウンを実施するアルファタウリ・ホンダ「AT01」、ミラノ・サーキットにて
© Getty Images / Red Bull Content Pool、ミラノ・サーキットでシェイクダウンを迎えたAT01

“3年目のホンダ”がもたらす優位性

「トロロッソ・ホンダ」の看板を掲げていた昨年、ファエンツァのチームは史上最多ポイントを稼ぎ出してコンストラクター6位の座を射止め、度々ミッドフィールドの先頭を駆け抜けた。昨年のリザルトについてジョディ・エジントンは「なるべくしてなった結果」だと語り、ホンダとの協力関係を続けることが今季、そして2021年以降の好成績に欠かせないとの考えを示した。

「パワーユニットに関して言えば、今年で3年目を迎えるホンダとの継続性がポイントだ。我々は2シーズン目に既に多くの成果を果たしているが、提携初年度にかなりの成功を収めていた事を思えば、あれは起こるべくして起こった事だと言えるし、3年目はそれを更に一歩前へと進めるチャンスとなる」

「ホンダとの(ワークス)関係によって我々は、PUとシャシーパッケージとの統合を最大化する機会を得ている。(ルノー以前のように)与えられたPUを何とかして車体側に配置するなどという事はない。ホンダやレッドブル・テクノロジーと協力して、可能な限りすべてが最も望ましく統合できるよう仕事を進めている」

ホンダF1の山本雅史マネージングディレクターとスクーデリア・トロロッソのフランツ・トスト代表
© Getty Images / Red Bull Content Pool、ホンダF1の山本雅史MDとフランツ・トスト代表

PUサプライヤーと共にクルマづくりを進める事ができる中団チームはアルファタウリのみだ。他のカスタマーチームは原則としてワークスチーム用に最適化されたPU一式を受け取るのみで、車体側の要望をPU開発にフィードバックするといった事は難しい。

新車「AT01」のデザインにおけるホンダのロゴの別格的な扱い(ホンダのみ基調色ではない赤色)を見ても感じられる通り、両者の関係性はシーズンを経る毎に密接となり、より強い絆で結ばれてきているように見受けられる。それは副次的に、クルマのパフォーマンスにも立ち表れる事だろう。

イタリア・ミサノサーキットを走行するアルファタウリ・ホンダAT01
© Getty Images / Red Bull Content Pool、ホンダのロゴのみが特別な扱いを受けている

レッドブルとの技術関係

密接なパートナーシップがもたらすアドバンテージとしては、ホンダ以外にレッドブルが挙げられる。両者は昨年に引き続き、ルールで許される限りパーツを融通し合う。

レッドブルは、レーシングチームを運営する「Red Bull Racing Limited」という名の企業の他に、「Red Bull Advanced Technologies(RAT)」というグループ会社を傘下に持っており、一部の基幹パーツについては、ここがレッドブルとアルファタウリ双方に供給する形を取っている。

「今年のクルマには2019年仕様のレッドブルRB15のリアエンドが採用されている。シャシーへの組み込みに際して適応させる必要があったが、これは他のチームから継承したものであっても、新しいパーツであっても毎年同じことで、それもゲームの一部だ」とジョディ・エジントン。

「インボード・フロントサスペンションとアップライトも昨年のレッドブルのものだが、サスペンションメンバーと関連ブラケットは我々アルファタウリが設計を製造している。これに関連する油圧系などもレッドブル製だ」

「2020年のレギュレーションの変更点の一つはブレーキダクトに関するものだ。前後のブレーキダクトが”リスティド・パーツ”に指定されたため、この部分もアルファタウリが設計と製造を行っている」

レッドブルRB15とアルファタウリ・ホンダAT01の比較画像
レッドブルRB15とアルファタウリAT01の比較

なおギアボックスもレッドブル・テクノロジー製だが、ホンダPUのパッケージングが変更された事に伴って一部に調整の手が入れられたため、ホモロゲーションを再度取得する必要があるという。

昨年のコンストラクターで3位を獲得したチームのマシンの足回りを持つというのは確かに利点だが、最も大きなメリットはその分のリソースを空力などの他の領域に向ける事が出来るという点だろう。予算が限られた中団グループの争いにおいて、これは少なくないアドバンテージとなりうる。

アルファタウリAT01技術諸元

2020年シーズンの目標と見通し

フランツ・トスト代表は遡ること3年前、ホンダとの初提携を前に「コンストラクターでのトップ5」を目標として掲げた。初年度は「PU開発の実験場」としての役割に徹したこともあり9位に終わったが、昨年は大手自動車部品メーカーの資本を持つルノーF1チームに肉薄。最終的に、僅か6点差でターゲットを逃すという大活躍を見せた。

トロロッソに限ったことではないが、小規模予算で運営されるチームは概ね、シーズン後半に差し掛かると競争力が低下する傾向にある。これは潤沢な資金がないためにシーズン中のアップデートが制限されるためだが、昨年のSTR14は後半戦に入ってもパフォーマンスを落とすことなく、それどころか調子を上げてさえみせた。

「12カ月前に我々が設定した目標の一つは、シーズン後半に入っても競争力のレベルを維持することだった」とジョディ・エジントン。AT01においても同様に、シーズンを通して一貫した競争力を確保する事が目標だと語る。

「実際我々は、昨年の後半にパフォーマンスレベルを向上させたが、あれはエアロアップデートとPUアップデートの組み合わせによるものだった。あれは重要なステップだった」

「我々は1年間を通して継続的にマシンを改良する力があることを証明した。今回のマシンでも同じアプローチを取る。だが、今年は2021年シーズンの規制にも目を向ける必要があるため、STR14の時と全く同じようにAT01の開発を進める事はできないだろう。そこが課題だ」

2位表彰台獲得に歓喜するトロロッソ・ホンダ、2019年F1ブラジルGPにて
© Getty Images / Red Bull Content Pool、2位表彰台獲得に歓喜するトロロッソ・ホンダ、2019年F1ブラジルGPにて

ジョディ・エジントンは「2020年の主戦場はエアロダイナミクスだ」と述べ、最も大きなカギを握る開発エリアは空気だと指摘するが、実際のレースではタイヤの扱いが決定的な意味を持つことが少なくない。ジョディ・エジントンは今季のタイヤについて次のように説明する。

「ピレリとしては、新しい仕様のタイヤを導入する計画だった。彼らがそれを望むのは論理的に妥当であったとは思うが、2020年シーズンは現行のタイヤ規制が適用される最後の年であるため、これまでとは異なる別のスペックのタイヤが導入される事になれば(チーム側にも)余計な作業が発生する事になる。2021年は確実にそれをやらなければならないというのにだ」

「またこのスポーツにとって好ましい事に、中団グループでは全6チームが信じがたいほどの大接戦を繰り広げている。だが新たなタイヤが導入された場合、このバトルに影響を与える可能性もあった。昨年のオースティンとアブダビでの行われたタイヤテストの結果を踏まえると、私は現行スペックを継続するという決断は正しいと考えている。”変更を目的とした変更”になってしまう可能性があったからね」

「それに、新しいサイズのホイールとタイヤは今年のFIA-F2選手権への導入が決まっているから、そこから知見とノウハウを学ぶ事ができるわけで、やはり現行タイヤを維持するというのは正しい決断だと言えよう」

ジョディ・エジントンは今シーズンの予想を求められると「今は何も言えない」と慎重な姿勢を示す一方で「全ては計画通り」と付け加えた。

「来たるべきシーズンを予測するには時期尚早だが、我々は出走回数という点でグリッドの中で最も経験豊富なドライバーラインナップを揃えているし、彼らは二人とも好調だ。これは本当に前向きな材料だ。それに両方のドライバーをよく知っているということは、予測不能な変数を減らせるということでもある。エンジニアリングチームに関しても殆ど一緒だ。些細な変更はあるが、全てが計画通りだ」