トロロッソ・ホンダのガレージ内で腕を組み微笑む山本尚貴、2019年F1日本GPフリー走行にて
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山本尚貴へのFIAスーパーライセンス発給の舞台裏…3度の申請、変更されたレギュレーション

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山本尚貴のF1デビュー走行は、本人の強い意志と努力はもちろんの事、様々な人達・組織の尽力の上に実現した。F1で出走するためには、FIAスーパーライセンスが必要となるが、取得の道のりは平坦ではなく、3度目の申請でようやく発給が承認される事となった。

山本尚貴は、”自身の庭”とも言うべき鈴鹿サーキットで開催されたF1日本GPのFP1で、ピエール・ガスリーに代わってトロロッソ・ホンダSTR14をドライブ。初のF1マシンでの走行にも関わらず、同じマシンを駆ったダニール・クビアトの0.098秒落ちという遜色ないパフォーマンスを残した。2014年の小林可夢偉以来初めてとなる日本人ドライバーの走行だった。

F1スポーティング・レギュレーションでは「選手権に参加するすべてのドライバーは、FIAのスーパーライセンスを所持している事」と定めており、その申請は、ASN(FIAが指定する各国のモータースポーツの管轄団体、日本ではJAFがこれに該当)を通じて行う事が決められている。

ライセンスが発給されたのは10月4日。ドイツ・ケルンで開催された世界モータースポーツ評議会(WMSC)において、本来であれば担当部署が取り仕切るところを、FIA事務局が直接審査を担当し、ジャン・トッドFIA会長が直々に最終決断を下した。JAF曰く、これは異例の対応だという。その3日後、ホンダは鈴鹿での山本尚貴の出走を発表。10月7日に行われた金曜フリー走行1で、山本尚貴は念願のF1マシン初走行を体験した。

スーパーライセンスには通常版の他に、予選や決勝を除いたプラクティスのみ走行が許される”フリー走行限定スーパーライセンス”と呼ばれるものがある。当初JAFは、この限定ライセンスで申請を行ったものの、規約で定められた要件を満たしていないとして却下された。

認められなかった理由は、走行経験不足。限定ライセンスの取得のためには、申請日から180日以内に、現行型あるいはこれに準ずるF1マシンで300km以上を走り込む必要があるが、パワーユニットサプライヤーのホンダには、これに該当する車両を用意する事は難しく、JAFはその後、通常版スーパーライセンスの取得を目指す事となった。

通常版の取得のためには、規約で定められたシリーズに参戦し、年間成績に応じて与えられるライセンスポイントを、3年間で計40点以上獲得する必要がある。山本尚貴はこの時点で、2016年と2017年のスーパーフォーミュラで獲得した4点と、2018年のスーパーフォーミュラ及びSUPER GTで獲得した35点を合わせて、計39点を所持していた。

申請に際してはこれに加えて、ペナルティポイントなくシーズンを終えた場合に付与される2点のボーナスポイントを合算して41点とし、これを根拠に発給を取り付けようとしたものの、そもそもスーパーフォーミュラとSUPER GTは2点付与の対象外シリーズであり、また、この時期にアントワーヌ・ユベールがF2ベルギー大会で事故死した事もあり、審議は棚上げとなってしまった。

だが、ホンダやレッドブル・レーシングからの熱心な働きかけに応じ、FIAは再審査を承諾。3回目の申請に際しては、FIA側から「2017年と2018年で獲得した36点に、2019年の見込み獲得ポイントを合算して40点以上とし、これを根拠として申請してはどうか」との提案があり、この内容にて申請。無事に発給へと至った。

恐らくは、山本尚貴への今回の特別対応を”特例”としないための措置だろう。ライセンス発給から4日後の10月8日付で、レギュレーションの当該部分が変更された。これまでは「申請日前日から遡って3年以内に累積40点以上」と定められていたものの、変更後は「申請日前日から遡って2年以内の獲得ポイントに加えて、今季見込みポイントを合算して40点以上」でも良し、とされている。