エアロスクリーンを搭載したチップ・ガナッシ・レーシングのマシンを駆るマーカス・エリクソン
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ヘイローよりもエアロスクリーンの方が高性能…F1に切り替えを勧めるマーカス・エリクソン

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元F1ドライバーにしてチップ・ガナッシ・レーシングのマーカス・エリクソンは、インディカー・シリーズで今季より採用されたエアロスクリーンヘイロー(Halo、ハロ)の上位互換であり、将来的にF1がエアロスクリーンに切り替える事を期待している。

2014年のF1日本GPでのジュール・ビアンキ、そして2015年のインディカー第15戦ポコノでのジャスティン・ウィルソンの頭部損傷による事故死を受け、モータースポーツ界では2015年よりコックピット保護のための安全装置導入に向けた議論が本格化した。

F1においては当初、レッドブル・レーシングが推進するキャノピー型とメルセデスが主導するヘイロー型で研究開発が進められていたが、F1と国際自動車連盟(FIA)は最終的に3本のチタンパイプから構成されるヘイローを採用。2018年シーズンより全車への搭載を義務付けた。

レッドブルのキャノピー型はその後アメリカへと渡り、ダラーラとの共同開発の末に「エアロスクリーン」へと進化し、2020年シーズンよりインディカー・シリーズに採用された。構造としてはヘイローと同様のチタンフレームにスクリーンを取り付けたものであり、ヘイローが防げない小さなデブリなどからもドライバーの頭部を保護する事が可能とされている。

エアロスクリーンのチタンフレーム部分
© Getty Images for INDYCAR

エリクソンは、ヘイローとエアロスクリーンの両方デバイスでの実戦および、その恩恵を受けたという点で世界で最も経験豊富なドライバーと言える。29歳のスウェーデン人ドライバーは2018年末を以てザウバーのシートを喪失。翌年よりインディカー・シリーズに参戦している。

ヘイローに救われたのはザウバー時代の2018年だ。モンツァで行われたF1イタリアGPのフリー走行中、DRSのフラップにトラブルが発生。ダウンフォースを失ったままでブレーキングを強いられたエリクソンは、何回転も横転した後に地面に叩きつけられた。車体は大破し、ヘイローはエリクソンに代わって傷を受けた。

今月18日に行われたアイオワ・スピードウェイでのレースでは、コルトン・ハータ(アンドレッティ)がリーナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター)に追突。マシンに乗り上げる格好となったハータが宙高く舞い上がる大きなクラッシュが発生した。

エリクソンは2人のマシンとは直接交錯しなかったものの、衝撃で飛び散ったデブリの一部がイン側を走行していたエリクソンのエアロスクリーンに衝突した。

「エアロスクリーンはヘイローの進化型だと思う。将来的にはF1やヨーロッパのカテゴリーも同じ道を行くかもしれないね」とエリクソン。The Raceとのインタビューの中でアイオワでのレースを振り返った。

「ヘイローは大きな破片には対しては効果的だけど、小さなデブリに関してはエアロスクリーンよりも明らかに保護性能が劣っている」

「ヴィーケイとハータのクラッシュが起きた時、僕は事故に巻き込まれないように集中していた。チームにはデブリがぶつかったと伝えたんだ。大した事はないと思っていたし大丈夫だと思っていた」

「でもレース後にリプレイを見たら、彼のウイングか何かだと思うけど、かなり大きな塊がエアロスクリーンに衝突していた事が分かったんだ。エアロスクリーンがあって良かったよ」

「(エアロスクリーンを導入するという)インディカーの決断が正しかったという事が改めて証明された」

インディカーマシンに搭載されたエアロスクリーンのティアオフ
© Getty Images for INDYCAR

エアロスクリーンがヘイローに対して構造的に劣りうる唯一の要素はスクリーンであり、視界性や冷却性という点で問題が生じる可能性がある。

スクリーン外側にはティアオフ(透明フィルム)が貼られているが、バイザーとは異なり、例えオイルや埃などによって視界が悪化したとしてもティアオフを剥がす作業はピットストップ時に限られる。また、コックピット内の冷却に関しては、アイオワでのプラクティス中に新たなダクトのテストが行われるなど、すでに課題が浮かび上がってきている。

だがエリクソンは、これまでのところエアロスクリーンには視界性を含めて大きな問題は何も起きていないと説明する。

「これまでに(エアロスクリーンを搭載して)6戦を戦ってきたが、エアロスクリーン自体には何も問題がなかったし、今回の状況においては僕もリーナスもハータもその恩恵を受けた」

「エアロスクリーンはすでに、その存在価値を示していると思う」