レッドブル初のハイパーリンクRB17の発表会見でインタビューに応じるエイドリアン・ニューウェイ(チーフ・テクニカル・オフィサー)、2022年6月28日(火)英国ミルトンキーンズにて​​
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エイドリアン・ニューウェイ「新たな挑戦」へ、2025年1Q限りでレッドブルF1退社「永遠に感謝」し続けるとホーナー

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レッドブル・レーシングはF1第6戦マイアミGPを週末に控えた2024年5月1日(水)、最高技術責任者を務めるエイドリアン・ニューウェイとの早期契約解除を発表した。稀代の天才デザイナーは2025年の第1四半期を以てレッドブル・テクノロジー・グループを去る。

ニューウェイはF1プロジェクトに関わる設計業務から退き、レッドブル初のハイパーカー「RB17」の最終開発に専念する。その傍ら、2024年シーズン終了までは特定のレースでチームに帯同。トラックサイドからサポートする。

現行契約は2025年末までだが、弁護士を通した交渉の結果、早期契約解除で合意に至った。即時のF1プロジェクト離脱は12ヶ月間のガーデニング休暇入りを意味するものと思われる。

エイドリアン・ニューウェイ、2018年F1モナコGPにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

エイドリアン・ニューウェイ、2018年F1モナコGPにて

空力の鬼才、新たな挑戦へ

チーム創設初期から18年に渡って過ごしてきたレッドブル・レーシングとの別れについてニューウェイは、後進に業務を引き継ぎ「自分自身のために新たな挑戦を求める好機」だと説明した。

「私は幼い頃から速いクルマを手掛けるデザイナーなりたいと思っていた。夢はF1のエンジニアになる事だったが、幸運にもそれを実現することができた」

「20年近くに渡ってレッドブル・レーシングで重要な役割を担ってこれて本当に名誉に思う。この間にチームは、新規参戦者という立場から複数回のタイトルを獲得するにまでに成長した」

「だが、今はそのバトンを他の人たちへ手渡し、自分自身のために新たな挑戦を求める好機だと感じている。チームを去るまでの間は、最終局面を迎えるRB17の開発に焦点を当てる事になる」

2021年F1ワールドチャンピオン獲得を喜ぶマックス・フェルスタッペン、エイドリアン・ニューウェイ、ヘルムート・マルコ、セルジオ・ペレス、クリスチャン・ホーナー代表、2021年12月12日F1アブダビGPにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

2021年F1ワールドチャンピオン獲得を喜ぶマックス・フェルスタッペン、エイドリアン・ニューウェイ、ヘルムート・マルコ、セルジオ・ペレス、クリスチャン・ホーナー代表、2021年12月12日F1アブダビGPにて

「この18年間に渡って、レッドブルで共に仕事をしてきた多くの素晴らしい人々の才能、献身、ハードワークに感謝したい。本当に光栄に思う」

「4年という期間が設定された現行レギュレーション下において我々のエンジニアリングチームは、マシンの最終進化に向けた作業に関して十分な準備ができているはずだ」

「個人的なことではあるが、故ディートリッヒ・マテシッツ氏とチャルーム・ユーウィッタヤー氏の両株主に対し、レッドブル在籍中の揺るぎないサポートについて感謝したい」

「そしてビジネス・パートナーであるだけでなく、お互いの家族にとっての友人でもあるクリスチャン(ホーナー)、オリバー・ミンツラフ、そして親友でありマネージャーでもあるエディ・ジョーダンにも感謝している」

永遠に感謝し続ける、とホーナー

マックス・フェルスタッペンの優勝を経てトロフィーを手に笑顔を見せるレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表とエイドリアン・ニューウェイ、2023年5月28日F1モナコGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

マックス・フェルスタッペンの優勝を経てトロフィーを手に笑顔を見せるレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表とエイドリアン・ニューウェイ、2023年5月28日F1モナコGP

ニューウェイとの別れについてチーム代表のホーナーは、「過去20年間における最高の瞬間はすべて、エイドリアンの手によってもたらされた。彼のビジョンと才気によって我々は、この20シーズンで13のタイトルを獲得することができた」と述べ、感謝を意を示すと共に、その才能を改めて高く評価した。

「彼にはF1の枠を超え、より幅広いインスピレーションをグランプリカーのデザインに反映させるという卓越した能力と、そしてルールの中で最も大きなゲインがある領域を見出し焦点を当てるという驚くべき才能、そして勝利へのあくなき意志があった。これが故ディートリッヒ・マテシッツの想像を超える大きな力をレッドブル・レーシングにもたらす事となった」

「それ以上にエイドリアンとのこの19年間は本当に楽しかった。レッドブルに彼が加わった時から既に、エイドリアンは私にとってスーパースター・デザイナーだった。それから20年。13回の選手権制覇を経て、彼は真のレジェンドとして名を残すことになった」

「それに加えて彼は私の友人でもある。彼が我々のパートナーシップにもたらしたものすべてに、私は永遠に感謝し続けるだろう」

「彼が残した遺産はミルトンキーンズのホールに響き渡り、RB17は彼が我々と過ごした時間を物語るにふさわしい証、そして遺産になる事だろう」

レッドブル、更なる激震の可能性

ニューウェイの離脱はレッドブルに更なる地殻変動をもたらす可能性がある。

チームの絶対的エース、マックス・フェルスタッペンは不安定なチーム状況に不満を抱いている事で知られており、2028年末までレッドブルとの契約があるにも関わらず、メルセデスのトト・ウォルフ代表はラブコールを送り続けている。

フェルスタッペンは、競争力あるクルマがある限りチームを去るつもりはないとの旨の発言を繰り返してきた。既に来季のマシン開発は始まっており、規定も変わらない事から、2025年もレッドブルが引き続きタイトル争いを繰り広げる可能性は高いが、2026年以降は未知数だ。

フェルスタッペンの契約には、恩師と崇めるマルコあるいは、特定の首脳陣がチームを去った場合に有効となる契約解除条項が存在すると見られている。

16年間で13回の選手権制覇

ニューウェイはクリスチャン・ホーナーに口説き落とされ、2006年にマクラーレンからレッドブルに移籍。以降、その類まれなる技術的知識と経験を以てエンジニアリングチーム、そしてチーム全体を牽引してきた。

この間に残したF1ドライバーズタイトルはセバスチャン・ベッテルとマックス・フェルスタッペンを合わせて7回に及び、6度のコンストラクターズタイトルをレッドブルにもたらしただけでなく、姉妹チームであるトロロッソ(現RB)を含めて優勝118回、ポールポジション101回という記録を積み重ねてきた。

ニューウェイがレッドブルで初めて手掛けたRB3は、2007年のヨーロッパGPで表彰台を獲得。翌年のイタリアGPではベッテルがトロ・ロッソとともにグループ初優勝を飾り、2009年の中国GPではRB5がレッドブルに初勝利をもたらした。

2010年のRB6はチーム初のダブルタイトル獲得を成し遂げ、この偉業は4年間に渡って繰り返された。

2014年に1.6リッターV6ハイブリッド・ターボエンジンが導入されるとニューウェイは、アストンマーチンのハイパーカー「ヴァルキリー 」の開発に専念するため、F1の現場から一歩退いた。

しかしながら2019年にホンダがチームのパワーユニット・パートナーに加わると情熱を再燃させ一線に復帰。2021年のRB16Bは8年ぶりとなるチャンピオンシップをチームにもたらした。

2022年に現行のグランドエフェクトカー規定が導入されるとニューウェイは再びマシンコンセプトの立案において大きな役割を果たし、今日まで続く新たな覇権時代の礎を築いた。

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