1991年から90年までF1グランプリが開催されたポール・リカール・サーキット
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ポール・リカール・サーキット

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サーキットデータ
サーキット名ポール・リカール・サーキット
所在国フランス
住所2760 Route des Hauts du Camp, RDN8, 83330 Le Castellet, フランス
設立年1970年
設計ヘルマン・ティルケ(2002年改修)
全長 / コーナー数5,842m / 15
最大高低差31m
周回数53
ピット長 / 損失時間415.5m / 20.5秒
ターン1までの距離*1413m
平均速度219.8km/h
最高速度343km/h
エンジン負荷と全開率*2 65%
ブレーキ負荷
燃料消費レベルと量 2.08kg/周
フューエル・エフェクト 0.31秒/10kg
タイヤ負荷レベル
ダウンフォースレベル
変速回数42回/周
SC導入率50%
ウェット確率10%
WEBサイト www.circuitpaulricard.com
SNS

*1 ポールポジションから最初の制動地点までの距離
*2 全開率は距離ではなくタイムベースで算出

ポール・リカール・サーキット(仏:Circuit Paul Ricard)は、フランス・マルセイユ近郊のル・カステレ村にあるサーキット。1970年に設立され、1990年までのおよそ20年間に渡ってF1フランスGPの舞台を務めた。名前の由来は、同コースの資金調達を手がけた世界第4位の仏酒造メーカー”ペルノ・リカール”の創業者ポール・リカール。

2016年12月に2018年シーズンからのF1復帰が発表され、10年ぶりにフランスGPが復活した。契約は2022年までの5年間。ポール・リカールでのF1開催はアラン・プロスト(フェラーリ)が優勝した1990年以来28年ぶりの事となった。

ポール・リカール・サーキットを走行するアルピーヌA521、2021年6月18日F1フランスGPフリー走行1にてCourtesy Of Alpine Racing

ポール・リカール・サーキットを走行するアルピーヌA521、2021年6月18日F1フランスGPフリー走行1にて

コースレイアウト

ポール・リカールでのグランプリはこれまで、5.810km(1971~1985年)、3.813km(1986~1990年)、5.842km(2018年~)という3種類のレイアウトが使用されてきた。

2018年の復帰以降に採用されているのは、1.8kmのミストラス・ストレートの途中にシケインを設けた全長5.842kmのレイアウトだ。これは欧州最長のストレートの一つで、設立当初のオリジナルに準じている。

ポール・リカール・サーキットのコースレイアウト図2021年版copyright Formula1 Data

ポール・リカール・サーキットのコースレイアウト図

2018年のカレンダー復帰に際しては、超ロングストレートのハイスピード・レイアウトを望む声が多かったが、FIAはエンジンへの負荷を考慮してターン8・9から構成されるシケイン導入を決めた。とは言え復帰初年度は、8コーナー手前で時速337.5kmのスピードトラップを記録している。

なおコースの最も高い場所(ターン12)と最も低い場所(ターン6)では約31メートルの高低差があるものの、サーキット全体に渡って緩やかに傾斜しているため実際にはさほど目立たない。

ポール・リカール・サーキットの名物コーナーであるシーニュCourtesy Of Red Bull Content Pool

ポール・リカール・サーキットの名物コーナーであるシーニュ

特徴

あらゆる要素が試される総合的なサーキット

カタロニア・サーキットのようにクルマのあらゆる領域が試される総合的なコースで、実際、チームは中~高ダウンフォース・パッケージを持ち込む。

低速のタイトコーナーとミドルストレートで構成される最初のセクターは、ブレーキングやトラクション、低速でのバランスとダウンフォースを要求する。ミストラル・ストレートと高速のシーニュを含む第2セクターでは、エンジンパワーとエアロ効率が、そして第3セクターでは中速域でのダウンフォースと、クルマの敏捷性が必要となる。

15のコーナーのうち左回りは6つで右回りは9つだ。右コーナーの多くはロングコーナーであり、左フロントタイヤへの負担が大きい。

高効率のダクトが鍵

ターン8では1.5秒という僅かな時間で時速340kmから140kmへと一気に減速しなくてはならない。僅か1箇所のために冷却効率が高い、すなわち空気抵抗が大きいブレーキダクトが必要となるため、高効率のダクトの開発によって大幅なタイムゲインが可能となる。

ターン8を含めて0.4秒以上の間に渡って4G以上の制動力を記録する所謂ヘビーブレーキングゾーンは3箇所と多いが、各制動区間の間隔が十分に開いているため冷却的にキツイというわけではない。

2017年のELMS 4時間耐久、ポール・リカール・サーキットにて
© Morgan Mathurin

“強風”の名を持つバックストレート

ポール・リカールのバックストレートは「ミストラル・ストレート」と呼ばれている。”ミストラル”はフランス語で「フランス南東部に吹く強い北風の事」を意味する。

海抜400mに位置し海岸に近いためコースに吹き付ける風はかなり強く、天候が急激に変わる事もしばしばだ。

現代のF1マシンは複雑なエアロダイナミクスの上に成り立っているため、突発的な気流の変化に対して脆弱だ。ハイレーキのマシンは特にだが、走行中のマシンに与える強風の影響は大きく、ダウンフォースが不安定となりマシンの挙動が乱れる。

ランオフエリアに設置された赤と青のストライプ

青と赤のコントラストが美しいポール・リカール・サーキット
© circuitpaulricard、青と赤のコントラストが美しい

ランオフエリアは赤と青の2つのカラーで彩られている。これは単なる見栄えの良さを狙ったものではない。これらはグラベルに代わるランオフシステムで、減速機構を備えている。

両ペイントはアスファルトにタングステンを混ぜたもので、共にサンドペーパー(紙やすり)のような組成となっており、コース外に飛び出たマシンを減速させる。青よりも赤の方は摩擦係数が高い。

定期的に再舗装される黒い路面

テストコースであるが故に、他のF1サーキットとくらべて定期的に路面が再舗装されるのも特徴の一つと言える。

ここのターマックは非常に色が濃いため天候が良いと路面温度が劇的に高くなる傾向がある。50℃以上になる事も珍しくはない。

ターン4とターン5の間にある唯一のバンプを除けば路面そのものは非常に滑らかで、タイヤの消耗が少ない反面、温まりにくい。

オーバーテイクとリタイヤ統計

ミストラス・ストレートへのシケイン設置でオーバーテイクが困難になるのではと懸念されたが、2018年は計50回のコース上でのオーバーテイクが記録された。

デグラデーションが少なく、また、ランオフエリアが広いためにセーフティーカー導入の可能性は低く、戦略的にトラックポジションを上げる事は容易ではない。

オーバーテイク リタイヤ
通常 DRS 接触 機械的問題
2021年 14回 41回 0台 0台
2019年 6回 18回 0台 1台
2018年 15回 35回 2台 1台

テスト専用ハイテクサーキット

1999年を最後にロードレース世界選手権(現MotoGP)の舞台から退いたポール・リカールは、当時F1のトップを務めていたバーニー・エクレストンの関連企業エクセリス社によって買収され、以降テスト専用サーキットの道を歩む事となった。実際、2009年までの10年間はレースが一切開催されなかった。

2002年にヘルマン・ティルケの設計によって改修され、サーキット名も「ハイテク・テスト・トラック」へと改称された。同年トヨタは、ポール・リカールをトヨタF1の前線基地と位置づけ、エクセリス社と提携した。

ポール・リカール・サーキットの自動給水システム
© B. Asset

247通りのコースレイアウト

F1から市販車まで、幅広い車のテストに最適化された新しいコースは全247通りものレイアウトを備えており、マシン開発やレース競技など、用途に合わせて最短826mから最長5,861mまで変幻自在のレイアウトを可能にする。

その内の64レイアウトでは「ウルトラ・リファイン・ウォーター・システム」と呼ばれる人工ウェットコンディション再現装置や、高強度コンクリート及びポリエステル溝による高排水システム等を利用できる。自動給水システムには雨水を再利用している。

ポール・リカールを走るフェラーリF1マシン
© circuitpaulricard

改修の歴史

2002年の近代化とテストトラック化を経て、2009年にフランスの建築事務所、Architecture 54の協力の下、4400席のグランドスタンド席を新設するなどして1万人の観客を収容できるように再改修され、レース競技用のサーキットに復帰した。

以降、ヨーロピアン・ル・マン(ELMS)やブランパンGT、FIA WTCC等の開催コースに採用され、コース名称を「サーキット・ポール・リカール」に戻した。

また2018年のフランスGP復活に先立ち、オーバーテイク促進のために3つのコーナーが改修され、また一部が再舗装されたほか、新たな歩行者用通路や観客用アクセスゲート、グランドスタンドに46,000席の常設席が設けられた。またパドック・メディアセンターも新たに建設された。

復帰初年度のフランスGPで安全性への懸念が発生した事を受け、2019年大会ではピットインの方法が変更された。従来はメインストレートから直接ピットレーンに入る形であったが、ターン14の右側から進入する形となった。この変更によりピットストップに伴うロスタイムが約1秒短縮された。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響で中止を強いられた2020年を経て、2021年のF1グランプリ開催に向けてコースの大部分及びピットレーンの入り口付近が再舗装された。

ポール・リカール・サーキット
© Morgan Mathurin

フランスGP開催の7つのコース

ポール・リカールはフランスGPが開催された7番目のサーキットで、2021年現在、最多18回のマニクールに次いで2番目に多い17回のグランプリを開催してきた。過去にF1世界選手権フランスGPを開催した事のあるコースは以下の通り。

サーキット 開催数 開催年
マニクール 18回 1991-2008
ランス・グー 12回 1950, 1951, 1953, 1954, 1956, 1958-1961, 1963, 1966
ポール・リカール 18回 1971, 1973, 1975, 1976, 1978, 1980, 1982, 1983, 1985-1990, 2018, 2019, 2021, 2022
ディジョン・プレノワ 5回 1974, 1977, 1979, 1981, 1984
ルーアン・レゼサール 5回 1952, 1957, 1962, 1964, 1968
シャレード 4回 1965, 1969, 1970, 1972
ブガッティ 1回 1967

なお1950年より前の非世界選手権時代を含めるとフランスGPを主催した事のあるコースは16箇所に及ぶ。

コースレコード

2018年のF1カレンダーの復帰までは、1985年にケケ・ロズベルグ(ウィリアムズ・ホンダ)が記録した1分39秒914が決勝レースで計測される史上最速の”ラップレコード”となっていたが、復帰初年度に5秒近く更新された。

タイム ドライバー チーム
ラップレコード 1:32.740 セバスチャン・ベッテル フェラーリ 2019年
コースレコード 1:28.319 ルイス・ハミルトン メルセデス 2019年

サーキットの場所と地図

プロヴァンスの中心都市マルセイユから東へ約40kmの山々に囲まれたル・カステレ村に位置する。10km程南下すると地中海が広がる。

過去10年間の環境保全活動を評価するFIA環境認証の最高レベル(3つ星)を2019年に取得するなど、サント・ボーム地域自然公園の中心に位置する事などから環境に配慮したサーキット運営を行っている。

F1フランスGP歴代ウィナーとポールシッター

ポール・リカール・サーキットで開催されたF1世界選手権フランスGPの歴代勝者とポールシッター。

開催年 ドライバー チーム タイム
2021 優勝 マックス・フェルスタッペン レッドブル・ホンダ 1:27:25.770
ポールポジション マックス・フェルスタッペン レッドブル・ホンダ 1:29.990
2019 優勝 ルイス・ハミルトン メルセデス 1:24:31.198
ポールポジション ルイス・ハミルトン メルセデス 1:28.319
2018 優勝 ルイス・ハミルトン メルセデス 1:30:11.385
ポールポジション ルイス・ハミルトン メルセデス 1:30.029
1990 優勝 アラン・プロスト フェラーリ 1:33:29.606
ポールポジション ナイジェル・マンセル フェラーリ 1:04.402
1989 優勝 アラン・プロスト マクラーレン・ホンダ 1:38:29.411
ポールポジション アラン・プロスト マクラーレン・ホンダ 1:07.203
1988 優勝 アラン・プロスト マクラーレン・ホンダ 1:37:37.328
ポールポジション アラン・プロスト マクラーレン・ホンダ 1:07.589
1987 優勝 ナイジェル・マンセル ウィリアムズ・ホンダ 1:37:03.839
ポールポジション ナイジェル・マンセル ウィリアムズ・ホンダ 1:06.454
1986 優勝 ナイジェル・マンセル ウィリアムズ・ホンダ 1:37:19.272
ポールポジション アイルトン・セナ ロータス・ルノー 1:06.526
1985 優勝 ネルソン・ピケ ブラバム・BMW 1:31:46.266
ポールポジション ケケ・ロズベルグ ウィリアムズ・ホンダ 1:32.462
1983 優勝 アラン・プロスト ルノー 1:34:13.913
ポールポジション アラン・プロスト ルノー 1:36.672
1982 優勝 ルネ・アルヌー ルノー 1:33:33.217
ポールポジション ルネ・アルヌー ルノー 1:34.406
1980 優勝 アラン・ジョーンズ ウィリアムズ・フォード 1:32:43.420
ポールポジション ジャック・ラフィティ リジェ・フォード 1:38.880
1978 優勝 マリオ・アンドレッティ ロータス・フォード 1:38:51.920
ポールポジション ジョン・ワトソン ブラバム・アルファロメオ 1:44.410
1976 優勝 ジェームス・ハント マクラーレン・フォード 1:40:58.600
ポールポジション ジェームス・ハント マクラーレン・フォード 1:47.890
1975 優勝 ニキ・ラウダ フェラーリ 1:40:18.840
ポールポジション ニキ・ラウダ フェラーリ 1:47.820
1973 優勝 ロニー・ピーターソン ロータス・フォード 1:41:36.520
ポールポジション ジャッキー・スチュワート ティレル・フォード 1:48.370
1971 優勝 ジャッキー・スチュワート ティレル・フォード 1:46:41.680
ポールポジション ジャッキー・スチュワート ティレル・フォード 1:50.710