ルワンダで計画中の新設F1サーキットのイメージ画像
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”千の丘”を駆けるF1か、伝統のキャラミか? アフリカGP誘致争いが白熱するルワンダと南アフリカ

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F1のアフリカGP復帰をめぐり、ルワンダと南アフリカが激しい誘致競争を繰り広げている。ルワンダは新設サーキットの建設を計画し、南アフリカは伝統のキャラミ・サーキットでの開催を目指している。両国の計画と課題を詳しく見ていく。

ルワンダ:千の丘を駆けるF1サーキット

ルワンダ・キガリ市庁舎展望室からの景色、2013年11月4日creativeCommons Gwendolyn Stansbury

ルワンダ・キガリ市庁舎展望室からの景色、2013年11月4日

「千の丘の国」と称されるほど山や丘が多いルワンダは、その特徴的な地形を活かしたF1サーキットの建設を計画している。

このサーキットは、通算69戦のF1参戦経験を持つアレクサンダー・ヴルツが設計に関与しており、首都キガリから約25kmの地点に建設を予定している。劇的な高低差や鋭角なコーナーを取り入れ、森林を抜け、美しい湖の周囲を駆け巡るダイナミックなレイアウトが特徴であるという。

2023年12月のFIAアワードでルワンダを訪れたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は「素晴らしい」と評し、シャルル・ルクレール(フェラーリ)もオーバーテイクが豊富なレースになるとの期待を寄せた。

ルワンダの首都キガリ西部のテテロの町並み、2023年8月17日creativeCommons Lonni Friedman

ルワンダの首都キガリ西部のテテロの町並み、2023年8月17日

このサーキットの建設には推定2億7000万ドル(約408億円)の費用がかかるとされるが、ルワンダ政府はF1開催による観光業の活性化に期待を寄せている。

ルワンダの観光収入は2023年に6億2000万ドル(約938億円)を記録した。F1の開催はさらなる成長を後押しすると見込まれる。

ルワンダは環境政策にも力を入れており、使い捨てプラスチックの禁止や再生可能エネルギーの活用を推進している。F1が掲げる「2030年カーボンニュートラル目標」との親和性が高い点も、誘致成功の鍵となるかもしれない。

南アフリカ:キャラミ・サーキットでF1復活へ

南アフリカは、かつてF1の開催地だったキャラミ・サーキットでのレース復活を目指している。

キャラミは1967年から1993年まで23回のグランプリを開催しており、歴史的なレースの舞台となってきた。既存の施設を活用できるため、新設サーキットよりもコストが抑えられる点が強みだ。

南アフリカ・ヨハネスブルグのキャラミ・サーキットでレッドブルRB7を駆るデビッド・クルサード、2024年10月4日(金)Courtesy Of Red Bull Content Pool

南アフリカ・ヨハネスブルグのキャラミ・サーキットでレッドブルRB7を駆るデビッド・クルサード、2024年10月4日(金)

南アフリカ政府によると、F1の開催費用は約1億600万ドル(約160億円)と試算されているが、すでにホスピタリティ関連のスポンサー収入だけで民間企業から2000万ドル(約30億円)以上の申し出があるという。

スポーツ担当大臣のゲイトン・マッケンジーは「F1の開催は南アフリカに莫大な経済効果をもたらす」と述べ、開催に向けて強い意欲を示している。

ホンダのF1マシン「RA273」を駆るジョン・サーティース、1967年南アフリカGP、キャラミGPサーキットにて (1)Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

ホンダのF1マシン「RA273」を駆るジョン・サーティース、1967年南アフリカGP、キャラミGPサーキットにて (1)

「スポーツウォッシング」批判と国際問題

ルワンダ政府は近年、スポーツを活用した国家ブランド戦略を展開している。サッカーのアーセナルやパリ・サンジェルマン、バイエルン・ミュンヘンと提携した「Visit Rwanda」キャンペーンや、バスケットボール・アフリカリーグの開催などがその一環だ。

しかし、一部の人権団体は、ルワンダ政府がスポーツを利用して国際的な批判をかわそうとしていると指摘しており、ヒューマン・ライツ・ウォッチのルイス・マッジは「ルワンダでは表現の自由や政治的自立の空間が縮小している」と主張する。

さらに、隣国コンゴ民主共和国(DRC)では、ルワンダ政府の関与が指摘されている反政府武装勢力「M23」が急速に勢力を拡大しており、アントニオ・グテーレス国連事務総長はルワンダに対し、M23への支援停止を求めた。

ルワンダ政府はこれを否定しているが、F1がルワンダでの開催を決定すれば、人権問題への対応について批判にさらされる可能性がありそうだ。

F1アフリカ開催への道のり

両国は異なるアプローチでF1の誘致に取り組んでいるが、いずれもクリアすべき課題が山積している。

F1の年間レース開催権料は1500万ドル(約23億円)から5000万ドル(約76億円)程度とされており、サーキットの維持費としても年間1500万ドル程度が必要となる。さらに、観客向けの宿泊施設や交通インフラの整備も求められる。

それでも、両国にとってF1の開催は大きな魅力を持っている。ルワンダは自然を活かした新たな挑戦を、南アフリカは歴史と実績を武器にF1復活を目指す。

どちらの国がチェッカーフラッグを先に手にするのか、今後の動向に注目が集まる。両国は2027年の開催を目指している。