
AI=人工知能がF1マシン設計を支援する時代へ、知られざるレーシング・ブルズの取り組み
中団上位争いを目指すレーシング・ブルズが、スイスのソフトウェア企業、ニューラル・コンセプト社と提携し、AIを活用したマシン開発を進めている。この取り組みにより期待されるのは、設計プロセスの迅速化と空力性能の最適化だ。
ニューラル・コンセプトが開発した独自のAIプラットフォームは、従来の数値流体力学(CFD)に代わる高速予測シミュレーションを提供する。これにより、空力、熱、振動、構造変形といった複数の物理要素が複雑に絡み合う「マルチフィジックス」環境において、仮想マシンモデルを用いた数千パターンもの設計評価が可能となる。
従来であれば数時間かかる計算が数分で終わるため、設計サイクルを週単位から日単位に短縮できる。チーム代表のローラン・メキーズは、「F1ではミリ秒単位の差が勝敗を分ける。設計段階での革新は、先頭集団に留まれるか、後方に沈むかの分かれ道になる」と語り、AIの活用によるスピードの優位性を強調する。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
ファエンツァのファクトリーで設計業務に取り組むレーシング・ブルズのスタッフ、2024年5月13日(月)
ニューラル・コンセプトの技術は、製品開発時間を最大75%短縮し、エンジニアの作業効率を最大10倍に向上されるとされ、 レーシング・ブルズの他にも、ウィリアムズを含む3つのF1チームが採用している。
また、ボッシュやゼネラル・モーターズ(GM)、エアバスなど70社以上のOEMや一次サプライヤーにも採用されており、NVIDIAやSiemensとの技術統合も進められている。
ニューラル・コンセプトのピエール・バケCEOは、「F1はエンジニアリング・インテリジェンスの究極の試練場。目指すはAIと人が持つ専門知識の新たな共生関係の実現だ。AI主導の設計プロセスの導入により、数週間に及ぶ作業は数日に短縮される。これによりチームはより迅速に、より広範な設計探求が可能になる」と語る。
F1におけるAIの活用は、年々その範囲と精度を広げている。
たとえば、ある中団チームでは、限られたリソースを最大限に活用するため、数年前からAIを用いた性能解析に注力。機械学習モデルを導入し、各種センサー情報とドライバーの操作ログを学習させることで、ドライビング挙動のパターン認識や戦略提案に活用している。
さらに、過去のレースデータを基にセーフティーカーの出動確率やライバルチームのピット戦略を予測し、レース中の判断材料とするAIシステムも導入されている。
加えて、ピットインのタイミングに関しても、AIがピットロスとタイヤのデグラデーションによるラップタイム損失をリアルタイムで比較・計算し、最適なピットイン周回を提案するシステムの存在が知られている。