F1がアンドレッティの参戦を拒否した「5つ」の理由、”2028年再挑戦”の裏に潜むものとは
F1は何故、アンドレッティの2025年から参戦を拒否したのだろうか? F1が暗に示唆する2028年の”再挑戦”がアンドレッティに強いるものとは何なのか?
F1は2月1日(木)、ゼネラル・モーターズ(GM)と提携するアンドレッティ・グローバルの2025年からの新規参戦申請を退けた。
統括団体の国際自動車連盟(FIA)がアンドレッティに対し、F1参戦に足る財務および人的リソース、経験やインフラ、そして一定の競争力を期待できるだけのバックグラウンドがあるとのお墨付きを与えたにも関わらず、だ。
FIAの承認を経てF1は2023年10月10日、商業的評価を実施する際の評価プロセス、考慮事項と意思決定プロセスの詳細を含めた書簡をアンドレッティに送った。アンドレッティは同月24日に回答を提供した。
F1はその後、12月12日に改めて書簡を送り、自社オフィスでの会議を打診したが、F1によるとアンドレッティはこの申し出に応じなかった。
1:見込めない競争力
新規参戦チームについてF1は、当該チームが競争力を持つ場合に限り「価値をもたらす」として、単に「11番目のチーム」が誕生しただけではチャンピオンシップにとって無価値と結論づけた。
根拠の一つとして挙げられたのはレギュレーションだ。2025年と2026年に2つの異なる技術規則に合わせてクルマを製造するという難しい課題に直面するだろうとしてF1は、アンドレッティが「競争力あるチーム」になるとは思えないと主張した。
現行技術規則の最終年である2025年に関しては、既にルールを熟知し、クルマを熟成させたライバルを相手にしなければならないため、競争力を発揮できないという見通しは理解できる。
ただ新規参戦のタイミングとして、レギュレーションが刷新され全てが白紙となる2026年以上に適当なシーズンは考えにくい。つまり拒否した理由の最たるものは、レギュレーション云々ではないと考えられる。
2:カスタマーエンジン契約
些か不可解なことにF1は、アンドレッティがカスタマーエンジン契約を強いられる状況は「チャンピオンシップの威信と地位を傷つける」と主張した。
その意味を正確に理解する事は難しいが、これは裏を返せば、新規参戦チームは常にワークスチームであるべきとのF1のスタンスを表すものと言える。
アンドレッティがタッグを組むGMがパワーユニット・サプライヤーとして参戦するのは2028年であり、参戦が認められたとしてもそれまでの間は他のメーカー、おそらくルノー(アルピーヌ)から供給を受けなければならない。
後にGMから供給を受けるアンドレッティに対して一時的なPUサプライヤーは、知的財産やノウハウの流出懸念から、その協力関係を「必要最小限」に抑えるだろうとF1は指摘した。
このような状況は特段、珍しいものではない。レッドブル(現在はホンダだが2026年以降はフォードと提携して自社PUを搭載)とアストンマーチン(現在はメルセデスだが、2026年よりホンダPUを搭載)は今まさに、F1が指摘するような状況にある。
3:ブランド価値
「アンドレッティ」はアメリカン・モータースポーツを代表する一族の名であり、同国において高い知名度と輝かしい歴史を誇る。
F1プロジェクトを率いるマイケル・アンドレッティは元F1ドライバーにして、CARTで成功を収めた人物であり、1978年のF1ワールドチャンピオン、マリオの息子でもある。
アンドレッティはインディカーやフォーミュラEなど、数々のカテゴリーに参戦するモータースポーツ・チームであるが、F1はその名前の価値を高く評価しなかった。
「アンドレッティ」という名前についてF1は「F1ファンにある程度認知されている」としながらも、「むしろ逆にF1がアンドレッティ・ブランドに価値をもたらすだろう」との独自の調査結果を引き合いに出した。
つまり、アンドレッティの参入はアンドレッティにとっては利益となるが、F1にとってはさほど利益にはならないというわけだ。
4:オペレーションの問題
新たなチームの追加についてF1は「レースプロモーターに運営上の負担をかけ、一部にはかなりのコストを発生させ、他のチームの技術的、運営的、商業的なスペースを減少させる」と主張した。
皮肉にもF1はブラッド・ピット主演のF1映画の撮影のために、別個にガレージを割り当てるなど、幾つかのコースで11番目のチームの存在を認めている。
5:商業価値へのプラス影響
アンドレッティの参戦はチャンピオンシップの財務指標に有意なプラスの影響を与える事はないと判断された。つまり、幾つかのリスクを負って参戦を承認しても、結局のところF1に価値をもたらす可能性はないということだ。
F1は「チャンピオンシップの純粋な商業的価値を示す重要指標」として「CRH」なるモノサシを持ち出し(Championship Revenue Healthなのか、何の略かは不明)、「期待される重大なプラス効果を確認できなかった」と説明した。
2028年への再挑戦を求められたアンドレッティ
F1は、GM製PUの搭載を前提とした2028年シーズンへの申請が行われれば、今回とは「異なる見方をするだろう」として含みをもたせた。これは言い換えれば、アンドレッティは2028年への再挑戦を求められているということだ。
一見すると好ましいある種の提案のように聞こえるが、2028年に参戦する場合、アンドレッティは今参戦する以上に膨大なコストを支払わなければならなくなるだろう。
F1と既存チームは2021年、新規参戦チームに対して、2億ドル、日本円にして約292億円の支払いを義務付ける規定をコンコルド協定に設けることで合意した。目的の一つは、新規チームの誕生による分配金の減少により、チームが受ける財政的ダメージを補完することにある。
しかしながら、F1人気の世界的な高まりや、チーム運営費の低減に繋がる予算上限ルールの導入などを背景に、F1チームの価値は現在、過去最高水準に達しており、F1と既存チームはこの”参入障壁税”を少なくとも3倍、つまり6億ドル(約879億円)に引き上げる事を目論んでいる。
現行のコンコルド協定は2025年末に満了を迎える。2026年以降の新たな協定に増額が盛り込まれる可能性は高く、2028年に参戦した場合アンドレッティは、2025年に参戦した場合と比べて3倍もの金額を支払わなければならなくなるだろう。
今回の決定についてF1は、現行グリッドに並ぶ10チームとは協議していないとする一方、11番目のチームの参戦が「あらゆる利害関係者」に及ぼしうる影響について考慮したと説明している。