セバスチャン・ベッテルの横顔、2019年F1ハンガリーGPにて
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ゲルマン的手法は伊と対極…元同僚が考えるベッテルのフェラーリ離脱の理由

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セバスチャン・ベッテルは何故、夢半ばにしてスクーデリア・フェラーリを去るのか? かつての同僚であるマーク・ウェバーは、32歳のドイツ人ドライバーがイタリアチームの変革の取り組みに疲弊したためだと考えている。

2009年から2013年までレッドブルでベッテルのチームメイトを務めたウェバーはこの程、ポッドキャスト「At The Controls」の中で次のように述べ、問題の核心はチーム作りの頓挫にあるとの考えを示し、その背景にある文化的な文脈を指摘した。

「フェラーリ内での次の本命に躍り出た事で、今や全てのチャンスはシャルル・ルクレール側のコーナーにあると言える。セバスチャンはチャンピオンシップを制覇するために過去数年に渡ってチーム作りを進めてきた。彼は最大限の事をやってきたと思う。でもそれは実現していない」

「イタリアの文化に溶け込みきれなかった事で彼の自信は大きく揺らいでいたと思う。これは軽視できない大きな事さ」

「知っての通り、ゲルマン的なやり方は機械的なところがある。その対極にあるのがイタリア人で、イギリス人、オーストラリア人、ニュージーランド人、南アフリカ人はその中間に位置している」

ロス・ブラウンやジャン・トッド、ロリー・バーンと言った多国籍な顔ぶれが並んでいたミハエル・シューマッハ=フェラーリ黄金時代とは異なり、今のスクーデリアの上級職の大半はイタリア人だ。

チーム代表のマッティア・ビノットはスイス生まれとは言えイタリア国籍の持ち主で、空力部門を率いるエンリコ・カルディーレは中世美術で著名なアレッツォの出身。そしてパワーユニット部門を統括するエンリコ・グアティエーリはお膝元モデナで生まれ育った。

ベッテルはレッドブルと共に4連覇を成し遂げた後、フェルナンド・アロンソの後任として、復権を掲げながらも結果が出ずに苦しむフェラーリに移籍した。2015年からの以降5シーズンに渡ってチーム作りとマシン開発に奔走してきたが、マラネロは昨年、2024年末までと言う異例の長さでルクレールとの契約を更新した。

昨年ザウバーからフェラーリへと昇格したイタリア語を流暢に話す若きモナコ人ドライバーは、エンジン不正疑惑が囁かれたとは言え、時に圧倒的なスピードを誇ったSF90を駆り、スパ・フランコルシャンとモンツァで2連勝を飾った。程度はさておき、SF90のパフォーマンスにベッテルの貢献があった事は確かだが、マラネロはチームに加わったばかりの新人を今後の大黒柱に据える決断を下した。

ウェバーは「結婚によって彼は本当に疲れ果ててしまったんだと思う。今や彼は年に見合わず老けて見えるかもしれない。僕は彼に何度もそう言ってきたけどね」と続ける。

「実際、彼は苦労しながらもそれなりに良くやってきた。でも疲れてしまったんだと思う。または、我々よりもマシンの開発状況や見通しをよく知っている事が(チームを去るという決断に)影響しているのかもしれない。1年このスポーツから離れるかもしれないし、今後彼がどうするのかは誰にも分からない」

ライバルのメルセデスが緻密かつ周到にチーム体制と戦略を組み立てる一方で、フェラーリはその両面で失敗を繰り返してきたとの評価が専らだ。批判の中にはフェラーリが持つイタリア文化的な行動原理に言及する声もあるが、当のベッテルは5月の離脱発表前、フェラーリが伝統を重んじている事を認めつつも、過去の栄光や慣例に囚われて硬直化しているとの批判は誤りだ訴えた。

ベッテルの2021年シーズンはどうなるのか? メルセデスのトト・ウォルフ代表はルイス・ハミルトンあるいはバルテリ・ボッタスのチームメイトとしての契約の可能性を除外していないものの、ベッテルはあくまでも予備のオプションだと考えており、可能性は高くない。

ウェバーは「トロロッソでの最初のシーズンを除けば、彼はキャリアの大部分で表彰台を争ってきた。ルノーに行くとは全く想像できない」と述べ、中団チームへの移籍は疑わしいとした上で「リタイヤするには余りにも若すぎるけど、彼のキャリアのスタートは早かったから、既にトロフィー用のキャビネットは充実している。辞めたとしても驚きはないが、彼にはまだ辞めて欲しくない」と付け加えた。