F1引退か続行か…セバスチャン・ベッテルのメルセデス移籍の可能性
セバスチャン・ベッテルの今季限りでのF1引退を予想する声が大きいが、驚きの移籍ニュースが誌面を賑わす可能性は決してゼロではない。少なくともメルセデスAMGのトト・ウォルフ代表は、ドイツの英雄がシルバーアローに加わる可能性を除外してはいない。
フェラーリからの離脱を知らせる声明の中でベッテルは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が引き起こした危機は個人の価値観を再考させるインパクトがあったとして、引退を仄めかすかのような一文を忍ばせた。来季の計画については明らかにされていないが、2021年のF1は1990年以来初めて、ドイツ人ドライバー不在のシーズンを迎える可能性がある。
そのシナリオに1票投じるのはマクラーレンのザク・ブラウンCEOだ。ベッテルとは交渉せず、カルロス・サインツの後任としてダニエル・リカルドを選んだマクラーレンのトップは、移籍先として魅力的なレッドブル・ホンダとメルセデスには4度のF1王者が座れるようなシートは残っていないとして、ルノーで走る事を望まない限りベッテルはこのスポーツを去るだろうと予想している。
ルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタスの両契約が今シーズン末で満了を迎えるため、2021年シーズンに向けてメルセデスには理論的に2つの空席があるが、ハミルトンに関しては金額面のすり合わせ次第だと見られており、マーケットに出るとすれば、単年の契約更新で食らいついてきたボッタスのシートとの見方が大勢を占めている。
この程オ-ストリア国営放送の番組に出演したウォルフ代表は、ベッテルはまだ最前線で戦う力を失っていないとした上で「ドイツ人ドライバーがドイツチームで走る事はマーケティング上素晴らしいストーリー」だと認めた。
ただし、「我々がドライバー選定でより重視するのはパフォーマンスだ。セバスチャンは本当に素晴らしいドライバーだが、我々が過去数年においてそうしてきたように長期的な戦略を追求する必要がある」とも述べ、マーケティング的観点のみでラインナップを決める事はないと強調した。
メルセデスF1の指揮官は更に、「言わずもがなセバスチャンは本当に優秀であり、全ての糸は彼が引いている。辞めるも、他チームに移籍するも彼次第だ。今もなお、興味深い幾つかのチームが残っている」と続け、跳馬からの離脱を含め、ベッテルは現在の状況の”全てをコントロールしている”との考えを口にした。
一見成り行き任せの展開を招いたかに思われるベッテルの決断だが、同郷の先輩にして元F1ドライバーのラルフ・シューマッハもまたウォルフ代表と同じように、ベッテルが代替案なしにフェラーリを去る決断を下すとは考えられないとの見解を示している。
現実問題としてベッテルがメルセデスに座れるかどうかについては、まずはシートが空くことが第一条件だが、その上で育成傘下のジョージ・ラッセル(ウィリアムズ)の動き次第と言えそうだ。ウォルフ代表はRTLとのインタビューの中で「ジョージ・ラッセルをどうするかが問題だ。それは一つの選択肢だ。セバスチャン・ベッテルという選択肢もあるだろうが、これは優先議題ではない」と語っている。
新型肺炎の世界的流行によるロックダウンとシャットダウンの最中、思いも寄らぬタイミングでフェラーリのサインツ起用とマクラーレンのリカルド移籍が発表され、シーズンが開幕していないにも関わらずF1ドライバーマーケットは急騰し、シリーシーズンの方が先に幕を開ける事となった。
先の2チームは来季以降のドライバーラインナップを早急に決する事を望んだが、ウォルフ代表は「来季、別のチームで走る事が決まっているドライバーと共にシーズンを進めるのはマネジメントの観点で課題が多いため、少なくとも我々は自分たちをそのようなポジションに置くつもりはない」と語り、メルセデスのシートが決定するのはまだ当面先の事になると説明した。