ピットウォークから見守るフェラーリのフレデリック・バスール代表、2025年F1サウジアラビアGP(ジェッダ市街地コース)
Courtesy Of Ferrari S.p.A.

フェラーリ代表、伊メディアを痛烈非難し記者に警告―何がそこまでバスールを憤慨させたのか

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スクーデリア・フェラーリのチーム代表フレデリック・バスールが、イタリアメディアに対して異例とも言える痛烈な批判を展開した。

きっかけは、今週相次いで報じられた「バスール解任説」だ。イタリア最大の発行部数を誇る新聞『コリエーレ・デッラ・セーラ』をはじめとする複数の同国メディアが、2025年シーズンの不振を理由に、バスールの進退に関する憶測を含む幾つかの報道を繰り返したことで、ついに堪忍袋の緒が切れた。

ハミルトンも擁護、バスール怒りの矛先は

この件は2025年F1第10戦カナダGPの開幕前からパドックを賑わせており、週末に先立ちルイス・ハミルトンはバスールを熱烈に擁護。自身のフェラーリ移籍を実現させた「立役者」への信頼を公の場で表明した。

「まずは冷静でなければならない。そうでないと、あとでスチュワードのところに行かなければならないからね」

金曜の記者会見でバスールは、FIAが最近導入した暴言への罰則制度を皮肉った。だが、その表情に笑みはなかった。バスールが何より憤っていたのは、自身が批判されたからではない。

『ガゼッタ・デロ・スポルト』紙は、ハミルトンの合流に先立ってメルセデスから移籍してきたテクニカルディレクター、ロイック・セラについても「期待を下回っている」とする内部評価があると報じた。

「私のことは問題ではない。自分のことは自分で対処できる。だが、問題はチームメンバーへの影響だ」と、バスールは語気を強めた。彼の怒りの矛先は、根拠のない憶測がチームの士気に及ぼす深刻な影響にあった。

「彼らの名前をこんな風に投げ捨てるように扱うのは、本人にも家族にも失礼だ。昨年もエアロ部門のチーフ(アストンマーチン移籍が決まったエンリコ・カルディーレ)の件で同じようなことがあったし、今シーズンも他のメンバーの名前が何度か挙がっている」

スクーデリア・フェラーリのシャシー担当テクニカル・ディレクターに任命されたロイック・セラcopyright Ferrari S.p.A.

スクーデリア・フェラーリのシャシー担当テクニカル・ディレクターに任命されたロイック・セラ

最も深刻な被害者はチームメンバー

チーム代表という立場上、自身が批判の対象になることは覚悟のうえだとしながらもバスールは、一般のチームメンバーが不当に巻き込まれることには強い憤りを隠さない。

「この仕事に就く前から、自分が晒される立場になることはよくわかっていた。でも本当の問題は、チームメンバーへの影響だ。私はそのほうがよほど気になる」

「あらゆるF1チームには、懸命に働くスタッフがいる。彼らは日々汗を流し、ときには家族との時間を犠牲にしている。そんな中で、突然名前を紙面に出されるのは、本当に酷なことだ」

「ある記者が『このポジションに新しい人物が就任する』と書けば、今その役職にある人間は『ということは、明日には自分の職を失うかもしれない』と考えるようになる。その現実を、メディアは理解すべきだ」

ガレージ内でチーム代表のフレデリック・バスールと話をするルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年F1マイアミGPCourtesy Of Ferrari S.p.A.

ガレージ内でチーム代表のフレデリック・バスールと話をするルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年F1マイアミGP

タイトル争いへの現実的影響

F1の頂点を目指すフェラーリにとって、メディアの憶測報道は単なる雑音にとどまらない。バスールは、その現実的な悪影響を次のように指摘する。

「狙いが何なのか、サッパリ理解できない。チームを貶めたいのかもしれないが、その意味がわからない。それが彼らにとって、存在するための唯一の手段なのかもしれない。だが、チームにとっては本当に有害だ」

「このような状況では、集中力を失うことになる。チャンピオンシップ争いにおいては、ほんの些細な違いが勝敗を分ける。にもかかわらず、週末の始まりに、我々はこの話ばかりしている」

さらにバスールは、「もし彼らの目的が、チームを混乱させることだとすれば、それは達成されたことになる。だが、それではタイトルは獲れない。少なくとも、こんなジャーナリストたちが周囲にいては不可能だ」と言い切った。

ジル・ビルヌーブ・サーキットを走行するルイス・ハミルトンのフェラーリSF-25、2025年6月13日F1カナダGP フリー走行Courtesy Of Ferrari S.p.A.

ジル・ビルヌーブ・サーキットを走行するルイス・ハミルトンのフェラーリSF-25、2025年6月13日F1カナダGP フリー走行

フェラーリとイタリアメディアの関係は、まさにジェットコースターのように激しく揺れ動く。勝てば英雄、負ければ容赦ない批判が待つ――それが「赤き跳ね馬」の宿命であり続けてきた。

だが、バスールは「日常の一部」として容認されてきた現状に対し、明確な警鐘を鳴らす。

「イタリアでは、こうした報道が日常のようになってしまっているが、限度を超えている。本当にフェラーリに成功してほしいと願うのであれば、まずはチームがクリーンな環境で働けるようにするべきだ。今は、そうなっていない」

勝利への道を阻むもの

フェラーリが最後にコンストラクターズタイトルを獲得したのは2008年。それ以降、低迷期を経て、ようやく優勝争いの舞台に復帰しつつある現在、メディアの不確かな報道は思いのほか大きな障害となっているようだ。

今回のバスールの発言は、単なる愚痴ではなかった。タイトル獲得という至上命題を実現するために、あらゆる妨げを排除しようとする、強いリーダーの意思表示だった。

フェラーリはこれまで、チーム代表を代え、技術部門を刷新し、ドライバーラインナップを見直すなど、さまざまな改革を重ねてきた。バスールはおそらく、唯一変わっていないのがイタリアメディアとの関係だと考えている。

長年にわたりマラネッロのチーム内政治に大きな影響を与えてきたイタリアメディアとの関係再構築は、フェラーリが勝利への道を再び歩み始めるうえで、避けては通れない試練となりそうだ。

ただ、イタリア語を話さないフランス人チーム代表であるバスールにとって、それはなおさら容易な道ではない。文化的背景や言語の壁が、相互理解の妨げとなり、誤解や軋轢を生む要因にもなりかねないからだ。

フェラーリのガレージに入るシャルル・ルクレールとルイス・ハミルトン、2025年6月13日F1カナダGPCourtesy Of Ferrari S.p.A.

フェラーリのガレージに入るシャルル・ルクレールとルイス・ハミルトン、2025年6月13日F1カナダGP

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