
17歳リンブラッドにF1参戦許可─FIAが初の特例措置を適用、待たずに動いたレッドブルの”狙い”とは
国際自動車連盟(FIA)は、17歳のイギリス人ドライバー、アーヴィッド・リンブラッドに対してF1参戦に必要なスーパーライセンスを発給するという、前例のない特例措置を承認した。これは2024年に改正されたFIA国際競技規則の「裁量条項」が初めて適用された事例となる。
FIA-F3からF2へ─急成長するリンブラッド
レッドブルの育成プログラムに所属するリンブラッドは、昨季のFIA-F3選手権ではルーキーながら4勝を挙げ、ランキング4位に入る活躍を見せた。今季はFIA-F2選手権にステップアップ。これまでに2勝を記録し、チャンピオンシップで現在3位につけている。
さらに、2025年2月にはフォーミュラ・リージョナル・オセアニア選手権でタイトルを獲得し、スーパーライセンス取得に必要な40ポイントの基準を満たした。
FIA「卓越した能力と成熟度」を評価
申請を承認した理由についてFIAは、「最近、かつ一貫してシングルシーター競技で卓越した能力と成熟度を示している」と説明した。
スーパーライセンスの取得によりリンブラッドは、F1世界選手権の公式戦のみならず、フリープラクティスへの出走資格も得ることとなった。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
バルセロナ・カタロニア・サーキットで開催されたFIA-F2選手権第6戦を戦うアーヴィッド・リンブラッド(カンポス・レーシング)、2025年6月1日
スーパーライセンスの発給には「18歳以上」が条件となるが、FIAは2024年の規則改正で、例外的な才能を持つドライバーに対しては年齢制限を緩和する裁量条項を新設。今回のリンブラッドへのスーパーライセンス発給は、この新制度が初めて適用されたケースとなる。
レッドブル申請の背景
なお、リンブラッドは2025年8月8日で18歳を迎える予定であり、以降であれば特例を使わずにライセンスを取得できる。しかしながら、レッドブルはその時期を待たずに申請を行った。その背景には何があるのか。
フェルスタッペンの出場停止リスク
マックス・フェルスタッペンは、次戦カナダGPおよびオーストリアGPをペナルティポイントなしで乗り切る必要がある。この2戦のいずれかで1点でも加算されれば、1戦の出場停止処分を受けることになり、チームは代役起用を余儀なくされる。
この場合、姉妹チームのレーシング・ブルズからアイザック・ハジャー、あるいはリアム・ローソンのいずれかが昇格し、その代役としてリンブラッドや岩佐歩夢がF1デビューを果たす展開が想定される。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
フリー走行を前にガレージに立つ岩佐歩夢(レッドブル・レーシング)、2025年4月11日(金) F1バーレーンGP FP1(バーレーン・インターナショナル・サーキット)
ルーキー起用義務の拡大─評価の場として
ルール改正により、2025年シーズンからは各チームに義務づけられるルーキードライバーのフリー走行(FP1)起用回数が、従来の「1台につき年2回」から「チーム全体で年間4回」へと変更された。
今回のスーパーライセンス申請が数ヶ月前に行われたと見られることを踏まえると、レッドブルの真の狙いは、レッドブルおよびレーシング・ブルズの両チームにおいてリンブラッドを早期にF1マシンに乗せ、その将来性と適応力を評価する機会を確保することにあると考えられる。
そのタイミングが偶然にもフェルスタッペンの出場停止リスクと重なったことで、結果的にリスクマネジメントとしての側面も備えることになったといえる。
角田裕毅の交代を想定?
昇格後7戦で7ポイントにとどまっている角田裕毅の交代をにらんだ動きという憶測もある。シーズン後半にハジャーを昇格させ、その空席にリンブラッドを起用するというシナリオが一部で取り沙汰されている。
だが、現時点では角田が2025年シーズン最終戦までシートを維持する見通しに変わりはない。
レッドブルのモータースポーツ・アドバイザー、ヘルムート・マルコは第9戦スペインGP後、独専門メディア『Speedweek』に対し「角田裕毅がなかなか調子を上げられていないことも関係しているが、我々はすでにコンストラクターズ争いを断念している」と語った。
一方で、「角田にとってはマシンがまだ“手に馴染んでいない”状態」であるとして、「彼には時間が必要であり、チームとしてもその時間を与えるつもりだ。我々としては、彼がシーズン終了までマシンに乗り続けると見ている」と述べている。
決勝を前に担当レースエンジニアのリチャード・ウッドと話す角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年6月1日(日) F1スペインGP決勝(カタルーニャ・サーキット)
FIAの制度改革─F4優勝者にもポイント付与
なお、今回のリンブラッドの特例措置に関連し、FIAはあわせてF4ワールドカップ優勝者にもスーパーライセンス・ポイント(2点)を付与する新方針を発表。F1へと至るキャリアパスの拡充を進めている。