予選後のパルクフェルメでヘルメットを脱ぐポールポジションのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年7月5日(土) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)
Courtesy Of Red Bull Content Pool

「月まで行きそう」から一夜で逆転ポール!フェルスタッペンとレッドブルが見せた驚異の修正力

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「”月まで行きそう”なほどアンダーステアが酷かった」——マックス・フェルスタッペンがこう振り返るほど、 金曜プラクティスを終えた段階でのRB21は、バランスに酷い問題を抱えていた。誰が、その24時間後に彼がポールポジションを獲得すると予想できただろうか。

7月5日、シルバーストン・サーキットで行われた2025年FIA-F1世界選手権第12戦イギリスGP予選。フェルスタッペンはオスカー・ピアストリ(マクラーレン)をわずか0.103秒差で下し、マイアミGP以来となる今季4回目のポールポジションを獲得した。そこには、チーム一丸となった見事な修正劇があった。

崩壊寸前からの大逆転劇

初日のレッドブルRB21はマシンバランスに深刻な問題を抱え、フェルスタッペンは5番手に沈んだ。順位以上に、この日最速を刻んだランド・ノリス(マクラーレン)との「0.498秒」というギャップが事態の深刻さを物語る。4度のワールドチャンピオンですら手を焼く「崩壊」っぷりだった。

「F1では特にアンダーが出ちゃうと速く走れないからね」と語るフェルスタッペン。この危機的状況を打開すべく、レッドブルの技術陣は土曜日に向けて大胆な賭けに出た。

チームが選択したのは、さらにダウンフォースを抑えたリアウイングへの変更。これにより高速コーナーでの安定性がさらに失われるリスクがあったが、フェルスタッペンの卓越したドライビングスキルと適応力がそれを補った。

「エンジニア陣が一晩で素晴らしい仕事をしてくれた」と、チーム代表のクリスチャン・ホーナーが絶賛したように、ドライバーとエンジニアの完璧な連携が功を奏した形だ。

予選後のパルクフェルメに並ぶマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)、ランド・ノリス(マクラーレン)のマシン、2025年7月5日(土) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

予選後のパルクフェルメに並ぶマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)、ランド・ノリス(マクラーレン)のマシン、2025年7月5日(土) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)

風との戦い、そして劇的な最終アタック

土曜日の予選も決して楽な戦いではなかった。RB21は風に対して脆弱で、この日はQ1からQ3まで風向きが絶えず変化する悪条件。「ストレートですらマシンが動くほどだった」と、フェルスタッペンは振り返る。

トップ4チームによる激戦となった予選Q3。最初のアタックを終えた段階でフェルスタッペンは4番手と出遅れ、ピアストリが暫定ポールを握る展開だった。

だが、ここからが世界王者の真骨頂。コースインのタイミングをギリギリまで遅らせ最後のアタックに向かうと、セクター1・2で全体ベストを記録。最終的に1分24秒892を叩き出し、ピアストリに0.103秒差をつけて劇的な逆転ポールを決めた。

「まさかコンマ4〜5秒も改善できるなんて思っても見なかった。うまくいって嬉しい」と、フェルスタッペン自身も驚きを隠せない。ゲインの程度は分からないとしつつも、新型フロアの効果も効果を発揮したと説明した。

予選を通してもクルマの調整作業を続けた。「コックピット内のツールで対処しなきゃならなかった。でも運が良かったみたい。その方向性は正しかった」とフェルスタッペンは明かす。

予選後のパルクフェルメでガッツポーズを取るポールポジションのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年7月5日(土) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

予選後のパルクフェルメでガッツポーズを取るポールポジションのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年7月5日(土) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)

タイトル争いを忘れ、レースを楽しむ心境

興味深いのは、フェルスタッペンの心境の変化だ。「この結果はチームにとっても大きな後押しになる」と語る一方で、「特に(タイトルを懸けた)バトルをしているわけじゃないし、兎に角、レースを楽しみたい」と、タイトル争いから距離を置く姿勢を見せた。

アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)に追突されリタイヤした前戦が響き、フェルスタッペンはシーズンの折り返し地点を前に、ランキング首位のピアストリから61ポイント遅れの3位に甘んじている。

それでも、今回の予選のように一瞬で流れが変わるのもF1の面白さだ。タイトル争いの行方を予想することもまた、誰にもできない。

予選後にインタビューを受けるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年7月5日(土) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

予選後にインタビューを受けるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年7月5日(土) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)

決勝への期待高まる超接戦

今回の予選では、6番手のシャルル・ルクレールまでがポールから0.229秒以内に収まる超接戦となった。これは決勝でも激しいバトルが展開されることを予感させる数字だ。

鍵となるのはタイヤマネジメント。加えて、雨の可能性も取り沙汰されており、天候次第では大波乱も十分に考えられる。

「もちろん、後ろを見ながらのレースになると思う。激しいバトルになるのは間違いないね。ロングランで速いクルマはたくさんあったし、予選もかなりの接戦だった。各スティントでタイヤをどれだけ持たせられるかが鍵になると思う」とフェルスタッペンは展望を口にする。

予選では功を奏したが、低ダウンフォース構成は諸刃の剣であり、タイヤマネジメントが要求される決勝では、この選択が仇となる可能性もある。

「うまく踏ん張ってくれたから、今日はそれでいくことにした。明日のレースでどうなるかはやってみないと分からない」

金曜の絶望的状況から一夜にして蘇ったレッドブルとフェルスタッペン。高い修正力と集中力が光ったこの予選を経て、決勝はさらなるドラマの舞台となるだろう。シルバーストンの日曜日、見逃せない戦いになりそうだ。


2025年F1イギリスGP予選では、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がポールポジションを獲得。これに続いたのはマクラーレン勢で、2番手にオスカー・ピアストリ、3番手にランド・ノリスが入った。

決勝レースは日本時間7月6日(日)23時にフォーメーションラップが開始され、1周5891mのシルバーストン・サーキットを52周する事でチャンピオンシップを争う。レースの模様はDAZNフジテレビNEXTで生配信・生中継される。

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