
我が子を手放すようだった─角田裕毅が明かす「唯一の後悔」とシート喪失の裏側。内戦と契約の足枷、そして見据える未来
2026年のF1レギュラーシート喪失という非情な通告を受けた角田裕毅。失意の中にいながらも、彼は今季を振り返り、レッドブル昇格に伴う「唯一の後悔」を率直に語った。それは、精魂を傾け開発を進めながらも、わずか2戦でステアリングを置くこととなった古巣VCARBのマシンへの想いだった。
「まるで自分の子供、赤ん坊を手放すような気分でした」
Courtesy Of Red Bull Content Pool
ピットレーンで角田裕毅の22号車VCARB 02の作業に鳥生k無メカニック、2025年3月21日(金) F1中国GPスプリント予選(上海インターナショナル・サーキット)
手塩にかけ育てたVCARB
角田はカタールGP決勝後の夜、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコから2026年のシート喪失を告げられた。「失望した」と振り返るが、本当に悔やんでいるのは、レッドブルへの挑戦そのものではない。
第3戦日本GPを前に、リアム・ローソンに代わってトップチームへの昇格を果たした角田を待ち受けていたのは苦難の道のりだった。一方で、彼が去った古巣レーシング・ブルズ(VCARB)のマシンは、皮肉にも素晴らしいパフォーマンスを発揮していた。
「以前、後悔はないと言ったかもしれませんが、一つだけあるとすれば、あの”めちゃくちゃ良いVCARBのマシン”に乗れなかったことです」
角田は、その複雑な胸中を独特の表現で語る。
「まるで自分の子供、赤ん坊を手放すような気分でした。今のレギュレーションになってから、僕がチームと一緒に何年もかけて開発してきたマシンなので。間違いなく、そこには僕のDNAも刻まれているはずです」
「それを手放したこと、そして僕らが望んだレベルに最後まで辿り着けないまま終えることになってしまったことが心残りです。とは言え、レッドブルに加わるという決断自体は、今でも後悔していません」
何年もかけて築いたチームとの関係、積み重ねたフィードバックが形になったクルマとセットアップ、開花寸前だった可能性──それらを手放さなければならなかった無念さが滲む。
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角田裕毅の22号車レッドブルRB21をリードするリアム・ローソンの30号車レーシング・ブルズVCARB 02、2025年9月7日(日) F1イタリアGP決勝(モンツァ・サーキット)
昇格のタイミングは「内戦状態」
角田が直面した困難は、扱いづらいRB21の特性だけではなかった。レッドブルに加入したタイミングは、後のクリスチャン・ホーナー代表の交代劇などを含め、チームが極めて不安定な時期と重なっていた。
「僕の状況について言えば、内部がまさに戦争状態にあるようなタイミングでチームに加わることになりました。あれはかなり難しい環境でした」
迫られる新たなチームへの適応、トップチームのドライバーとしての重圧、それに加えて内紛という余計な負荷がのしかかった。
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ガレージに立つクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)と角田裕毅、2025年6月14日(土) F1カナダGP予選(ジル・ビルヌーブ・サーキット)
さらに、絶対的エースであるマックス・フェルスタッペンとの比較、そして4度のワールドチャンピオンを優先するチーム方針も高い壁となった。
「グリッド上で最高のドライバーであるマックスが隣にいることは、セカンドドライバーにとって助けにはなりません」と角田は語る。
「歴史的に見ても、チームはタイトルを争うドライバーを優先するものです。それは理解できますが、セカンドドライバーにとってはプレッシャーが増す厳しい状況を生むんです」
見栄えの悪さと「ギャップ」への手応え
予選リザルトとしてはフェルスタッペンに大きく離されたものの、タイム差という観点で見れば、角田の感覚では絶望的なものではなかったという。
今季は現行レギュレーションの最終年ということで、歴史的に見てもフィールド全体が拮抗する状況が続いていた。わずかな差がQ1落ちとQ3進出という劇的な結果の差となって表れ、見栄えを悪くしてしまったと角田は分析する。
「結果だけ見ると悪く映るかもしれませんが、終盤戦のギャップに注目してみれば、彼に対してコンマ5秒、コンマ45秒引き離されたのがいつだったか、正直思い出せないくらいです」
「それは、ここ数年ずっとセカンドドライバーが苦しんできたギャップと同じようなレベルだと思います。なので、自分がやってきたことには誇りを持っています」
イモラの悪夢と「契約の足かせ」
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クラッシュした角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年5月17日(土) F1エミリア・ロマーニャGP予選Q1
自身のミスも響いた。特にイモラ・サーキットで行われたエミリア・ロマーニャGP予選でのクラッシュは、自信を喪失させただけでなく、アップグレードパーツの投入遅れを招き、致命的な後退につながった。
「イモラの件は、今振り返っても本当に悔しいです。あれは全く不必要なクラッシュでした。あれが原因でパーツの面で後退したことは確かです」
そして、ハースやアルピーヌ、ザウバーといったライバルチームと接触があったと報じられながらも、なぜ移籍できなかったのか、あるいはなぜ移籍という選択肢を取らなかったのか。その理由を、初めて明かした。
「契約があったので、あまり動くことができませんでした。外部からいくつか関心は寄せられていましたが、契約上、他チームと話すことさえ許されていませんでした」
「だからこそ、レッドブルに全力で集中していました。何しろレッドブルは僕が育った場所ですし、ここ数年の最優先事項でしたしね」
最後まで全力で…アブダビへの覚悟と未来
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パドックを移動する角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年12月4日(木) F1アブダビGPメディアデー(ヤス・マリーナ・サーキット)
最終戦アブダビGPを前に、角田は「まだ来年レースを走らない実感が湧かない」と語る。それでも通告の翌朝にはすでに気持ちを切り替えていた。
「翌朝にはわりと大丈夫で、頭の中はアブダビのことだけでした」
「僕がやるべきことは、カタールの時と変わりません。できる限りの競争力を発揮して、マックス(フェルスタッペン)を助けられれば理想的ですし、自分とチームのためにも可能な限り上位でフィニッシュしたいと思っています」
来季のレッドブルでは、アイザック・ハジャーが角田の後任を務める。インディカーなど、別カテゴリーへの転向の可能性を問われると、角田は迷いなく答えた。
「F1は僕の人生です。他を考えるにはまだ早すぎます。今の僕のモチベーションはF1だけ。他のカテゴリーのことは考えていません」
「来年は僕にとって新しい経験です。ここ数年はずっとレースをしていたので、確かに寂しい気持ちはありますが、同時にレッドブルとレーシング・ブルズの両チームの内部に身を置くことで、新しい視点がたくさん見えてくると思います。想像もしなかったことを学べるはずです」
2026年、角田裕毅はレギュラードライバーとしてF1グリッドにいない。だが、リザーブドライバーとして、いつか訪れるかもしれない復帰の機会を信じて、戦い続ける。