第109回インディ500恒例祝賀会に参加する佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)と息子の佐藤凛太郎、2025年5月26日(月) JWマリオット・インディアナポリスにて
Courtesy Of Penske Entertainment

佐藤琢磨、注射でインディ500”強行”出場「ChatGPT」に尋ねた分水嶺―明かされた16回目の挑戦の舞台裏

  • Published:

2025年第109回インディ500で佐藤琢磨は、3度目の栄冠獲得という絶好のチャンスを逃した。51周という最多リードラップを記録しながらも、ピットストップでのオーバーシュート(停止位置の行き過ぎ)により17番手まで順位を落とし、最終9位に終わった。

決勝の翌日、インディアナポリス中心部のJWマリオットで開催された恒例の祝賀会で、佐藤は舞台裏を披露した。そこでは、骨折を押しての強行出場であったことが明かされ、さらにOpenAIが開発した生成AIを活用したユーモラスなエピソードも披露され、観客の笑いを誘った。

第109回インディ500恒例祝賀会に参加する佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年5月26日(月) JWマリオット・インディアナポリスにてCourtesy Of Penske Entertainment

第109回インディ500恒例祝賀会に参加する佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年5月26日(月) JWマリオット・インディアナポリスにて

肋骨骨折を押しての挑戦

佐藤は、4月に行われたオープンテスト中のクラッシュで肋骨を骨折していたことを告白した。94Gという猛烈な衝撃により、体重約60kgの佐藤の身体には実に3.6トンもの力が加わったという。

「肋骨を折っちゃったんです」と苦笑いを浮かべながら振り返る。「寝返りするだけでも凄まじい痛みで、くしゃみでもしようものなら地獄のようでした」

大破したマシンを見つめる佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年4月24日第109回インディ500オープンテスト2日目(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)Courtesy Of Penske Entertainment

大破したマシンを見つめる佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年4月24日第109回インディ500オープンテスト2日目(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)

プラクティスから決勝まで、佐藤は毎日インディカーのメディカルチームから痛み止めの注射を受けながらステアリングを握っていた。

「ジュリアという素敵なドクターがいて、彼女が毎日注射を打ってくれたんです。レース当日を含めて、毎日メディカルセンターに通っていました」

「副作用で胃に影響が出る可能性があるから、5日以上は続けないようにと言われていたのですが、『僕は大丈夫だから気にせず打ってくれ』ってお願いして。彼女が応えてくれたおかげで、何とかレースに出ることができました」

佐藤の軽妙な語り口に、会場は温かい笑いに包まれた。

完璧な展開から一転、運命の「6フィート」

2番手からスタートし、序盤から中盤にかけて安定した走りで51周をリードした佐藤。だが、スタートから約80分後、87周目のピットストップで事態は一変する。

「最初の2回のピットストップは良かったのですが、3回目に僕がやらかした。6フィート、行き過ぎちゃったんです」

このわずか約1.8メートルのミスが、17番手への転落を招き、最終的には9位でのフィニッシュに繋がった。

ピットストップを終えてコースに戻る佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年5月25日第109回インディ500(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)Courtesy Of Penske Entertainment

ピットストップを終えてコースに戻る佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年5月25日第109回インディ500(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)

ChatGPTが導き出した「0.07秒」の真実

興味深いのは、そのミスの分析方法だった。今後の糧とするために、佐藤は”何となくの答え”では満足せず、より現代的なアプローチを選んだ。

「みんな『1秒早くブレーキ踏めばよかったんじゃない?』って思ったでしょうし、僕も『まあ確かに』って思ったんですけど、やっぱり細かく突き詰めたくて」

「でも自分じゃ計算できなくて、ChatGPTに聞いてみたんです」

「時速60マイルのピットレーンで6フィート行き過ぎた場合、どれくらい早くブレーキを踏めばいい?って尋ねたら、彼女(ChatGPT)は『0.07秒早く』って返してきた。まさに求めていた答えでした」

「ちょっと早めに、少し弱くブレーキを踏めば完璧に止まれるって。だから、次はそうするつもりです!」

このユーモラスなエピソードに会場は再び沸いたが、佐藤の言葉には深い洞察が含まれていた。

「ミリ秒単位という、ほんの一瞬の判断が、1位と17位を分ける――それがこのスポーツの本質です。そして、それこそが僕を何度も挑戦させ続けている理由なんです」

ラップをリードする佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年5月25日第109回インディ500(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)Courtesy Of Penske Entertainment

ラップをリードする佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年5月25日第109回インディ500(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)

”全て”はチームのおかげ

優勝したアレックス・パロウとチップ・ガナッシ・レーシングへの祝福を述べた後、佐藤は、スポット参戦ながらもフロントロウ2番手を獲得し、最多リードラップを記録する素晴らしいレースを展開したことについて、「全てはチームのおかげです」と感謝を示した。

「僕のチームはワンオフ参戦なので厳しい状況でしたが、ここまでやれたのは、ドニーや翔太、デレクやリコ、細部まで完璧な仕事をしてくれた”ドリームチーム”あってこそです」

「だから、チームのみんなに心からの感謝と敬意を表したい。彼らは本当に素晴らしい仕事をしてくれました」

ChatGPTにより導かれた0.07秒という数字は、48歳のレジェンドと彼の”ドリームチーム”を再び挑戦へと駆り立てることだろう。

フロントロウ記念撮影に臨む佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年5月19日(月) 第109回インディアナポリス500(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)Courtesy Of Penske Entertainment

フロントロウ記念撮影に臨む佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、2025年5月19日(月) 第109回インディアナポリス500(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)