
総帥ペンスキー、“インディ500優勝車疑惑”と利益相反懸念に応答―不正改造騒動を受け
インディカー・シリーズの”総帥”とも言うべきロジャー・ペンスキーが、自身の名を冠するチーム・ペンスキーによる技術違反問題について初めて公の場で言及した。米『FOX Sports』のインタビューで語られたのは、単なる謝罪の言葉ではなく、シリーズを取り巻く構造的な問題への厳しい現状認識と、抜本的な改革への強い決意だった。
「我々は組織的な失態を犯してしまった。それも一度ではなく、二度だ」──相次ぐ不祥事を受け、ペンスキーはそう切り出し、「信じてほしい。本当に胸が痛む。必要なのは信頼だ。我々のチーム、このスポーツ、そして各々個人としての誠実さ。我々は皆さんを失望させてしまった」と語った。
「組織としての機能不全」への決断
一連の事態を受けペンスキーは、長年チームの中枢を担ってきたインディカー部門社長ティム・シンドリックを含む幹部3名の退団を発表した。本国では広く「解雇」と報じられている。ペンスキーは「組織としての機能不全」という厳しい表現でその判断を説明した。
背景にあるのは、5月19日の第109回インディ500「トップ12予選」で発覚した、ジョセフ・ニューガーデンとウィル・パワーのマシンに搭載された不正改造アテニュエーター(衝突時衝撃吸収装置)の問題だ。両ドライバーには最後列からのスタートが命じられ、チームには予選ポイントおよびピット選択権の剥奪、さらに20万ドルの罰金が科された。
だが、ペンスキーが「二度目」と言及したように、チーム・ペンスキーは前年にも「プッシュ・トゥ・パス」システムの不正使用で処分を受けていた。今回の幹部解雇は、こうした反復的な違反に対する組織責任を明確にする意味があった。
Courtesy Of Penske Entertainment
ウィル・パワーのマシンのアテニュエーターを確認するチーム・ペンスキー、2025年5月18日第109回インディ500予選2日目(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)
前年優勝車への疑念に対する反論
さらにペンスキーは、2024年のインディ500で優勝したジョセフ・ニューガーデンのマシンにも、今回と同様のアテニュエーターが使用されていたという疑念に対し、それが事実であることを認めつつも、シャシーサプライヤーであるダラーラの関与を示唆した。
「2024年初頭の時点で、ダラーラが手を加えたアテニュエーターが9個あり、それらを15か月にわたって各車、順番で使用してきた。さらに新しいアテニュエーターも購入しており、それらと併せてローテーションさせていた。だからマクラフリンのクルマには問題がなかったのだ」とペンスキーは説明した。
チーム・ペンスキーの3台目、スコット・マクラフリンのマシンには今回、ニューガーデンとパワーのマシンとは異なり、不正改造されたアテニュエーターが搭載されていなかった。
「アテニュエーターに関しては、私としてはこう問いかけたい──我々に何ができたのか?と。オフィシャルの見解として、“適切ではなかった”というのは理解している。だが2024年のレース後に、あのクルマは分解され、詳細な検査が行われた上で合法とされたんだ」と強調し、ニューガーデンの栄誉ある勝利を守ろうとする、チームオーナーとしての強い意志を示した。
なお、ペンスキーが言及した「ダラーラが手を加えた」に関する詳細はハッキリしないが、2024年初頭にダラーラは、アテニュエーターの剛性強化を目的に再設計を行い、内部および外部にカーボンパネルを接着する仕様変更を加えている。
この変更によって外観が損なわれたことに対し、チーム・ペンスキーの上層部が不満を抱き、新たなパネルとの接合部を目立たなくするよう指示したとの噂もある。
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優勝したジョセフ・ニューガーデンとロジャー・ペンスキー、2024年5月27日(月) インディアナポリス・モーター・スピードウェイでのインディ500フォトシュート
なお、問題視されているアテニュエーターは、インディ500だけでなく、2024年シーズンを通して何度か使用されていたと報じられている。
インディカー・シリーズにおける過去の前例を見ると、技術規則違反が発覚した場合でも、すでに確定した勝利が取り消されないケースは珍しくない。
たとえば2022年のIMSロードコースでは、アレクサンダー・ロッシのマシンが最低重量規定を満たすためにドリンクボトルをバラスト代わりに使用していたことが判明したが、罰金およびポイント減点の処分にとどまり、勝利自体は公式記録として残された。
ニューガーデンの2024年優勝車両をめぐっては、インディカー・シリーズの社長ボウルズが、結果を覆すことはないとの立場を示している。
利益相反懸念への真摯な応答
今回のインタビューで特に注目されたのは、ペンスキー自身の立場をめぐる利益相反への疑念に対する応答だった。
ロジャー・ペンスキーは、チーム・ペンスキーのオーナーであると同時に、ペンスキー・エンターテインメント社を通じて、インディカー・シリーズ、インディ500の開催地インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)、ロングビーチ及びデトロイトのレースイベント主催企業を所有するという複雑な立場にある。
「外部からの見え方という点で、良い対応ができていなかったのは明らかだ」──ペンスキーは率直にこの構造的問題を認めた。だが同時に、自身の競技運営への関与を強く否定した。
「この4年半にわたって、私はピットボックスに立っていないし、レースコントロールにもいなかった。検査にも関与していないし、特にルールに関する審理には一切関与していない」
「私は自分自身を鏡で見て、『正しいことをしてきた』と言える」
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インディアナポリス・モーター・スピードウェイのピットレーンに停車するインディカーマシン、2024年5月20日(月)第108回インディ500プラクティス8
統治改革への具体的コミット
今回、チーム・ペンスキーの2台に対する処分を科したのは、同チームの親会社傘下にあるインディカー・シリーズのオフィシャル部門だった。
たとえばF1では、シリーズを商業的に運営するフォーミュラ・ワン・マネジメント(FOM)と、レース運営や技術規則を統括する国際自動車連盟(FIA)が明確に分離されており、運営と規制の独立性が保たれている。一方、インディカーではその構造が重なっていることから、中立性や透明性をめぐる議論が以前からくすぶっていた。
ペンスキーはこうした懸念に応える形で、すでに統治構造の見直しに着手していることを明らかにし、その進捗についても具体的に語った。
「実はここ6ヶ月ほど、インディカー内部でも議論を重ねてきた。マーク・マイルズ(インディカー及びペンスキー・エンターテインメントのCEO)やダグ・ボウルズ(インディカー・シリーズ及びIMSの社長)、外部の意見も交えながら、検査やレースコントロールなど、運営面の独立性を高める方法について検討している」
「インディカーとペンスキー・エンターテイメントのチームがこの件にしっかりと取り組み、今後何らかの対応を講じることになると、私自身も期待している」とペンスキーは続け、改革への強いコミットメントを示した。
ペンスキーの発言から浮かび上がったのは、問題の深刻さに対する彼自身の強い危機感だった。「信頼を取り戻す責任が私にはある」という言葉は、単なる形式的な謝罪を超えた、構造改革への強い決意を込めたものと受け取れる。