
ペンスキー、名将シンドリックら幹部3人が退団―”インディ500不正スキャンダル”を受け
2025年の第109回インディ500を目前に控え、不正行為の発覚を受けチーム・ペンスキーが重大な決断を下した。名将ティム・シンドリックを含む幹部3名の退団を発表。名門チームは前代未聞のスキャンダルに揺れている。
今回組織からの離脱が明らかにされたのは、インディカー部門社長のシンドリック、マネージングディレクターのロン・ルゼウスキー、ジェネラルマネージャーのカイル・モイヤーの3名。それぞれがチーム・ペンスキーの中核を担ってきた幹部であり、加えて3台体制で参戦する各マシンのストラテジストも兼任していた。
中でもシンドリックは、1999年よりチーム・ペンスキーに所属。2005年にペンスキー・パフォーマンスの社長に就任し、2025年2月まで全レース部門の実務を統括する立場にあった。組織内では“ロジャー・ペンスキーの後継者”と目される存在だったが、今年2月にインディカー部門へ専念する形で他のカテゴリーからは離れていた。
シンドリック体制下において、チーム・ペンスキーはインディカー、IMSA、NASCAR、WECといった複数カテゴリーで活躍し、通算400勝以上、タイトル31回という輝かしい成績を残している。その中にはインディ500での10勝も含まれており、ニューガーデンのストラテジストとしては2017年、2019年、2022年の3度にわたってインディカー・シリーズチャンピオン獲得に貢献した。
Courtesy Of Penske Entertainment
チーム・ペンスキー社長のティム・シンドリック、2024年5月31日(金) シボレー・デトロイトGP(デトロイト市街地コース)
問題の発端となったのは、ジョセフ・ニューガーデンとウィル・パワーのマシンに施されていたアテニュエーターの違法改造だった。クラッシュ時の衝撃吸収を担う重要な安全パーツに対し、規定違反となる加工が施されていたことが、予選2日目を前に競合チームの指摘で発覚した。
これにより両車は予選出走が認められず、決勝レースでは最後尾となる32番手と33番手からのスタートが科された。チーム・ペンスキーには10万ドルの罰金に加え、予選ポイントの剥奪およびピット選択権の喪失という重い制裁が下された。
このスキャンダルがより深刻なのは、問題が今回だけにとどまらない点にある。2024年にも、同チームは「プッシュ・トゥ・パス」システムに関する不正が発覚し、シンドリックとルゼウスキーが出場停止処分を受けていた経緯がある。
さらに、違反行為が過去1年以上にわたり見過ごされていた可能性も浮上しており、2024年のインディ500を制したニューガーデンのマシンにも、同様の改造が施されていたと報じられている。
相次ぐ不正と検査体制の不備に対し、関係者の間ではインディカー・シリーズの運営体制や技術検査の透明性を疑問視する声が高まっており、独立した統治機関の設置を求める動きも出始めた。
チームとしては、シンドリックら3名の「離脱」という形で今回の人事を発表しているが、実際には事実上の解雇と見られる。
チーム・ペンスキーのオーナーであり、ペンスキー・エンターテインメントを通じてインディカー・シリーズ、インディ500の開催地であるインディアナポリス・モーター・スピードウェイを所有するロジャー・ペンスキーは、「組織としての機能不全」の結果として「避けては通れない変更を決断しなければならなかった」と明言している。
「このスポーツ及びこのスポーツに参戦するチームにとって、何より重要なのは“誠実さ”だ。この2年間で組織としての機能不全が発生しており、避けては通れない変更を決断しなければならなかった。ファン、パートナー、そしてチーム全体に対し、このような事態を招いたことを深くお詫び申し上げる」と、ペンスキーは声明を通して述べた。
Courtesy Of The Goodwood Estate Company Limited
ロジャー・ペンスキー、2021年グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード
なお、2023年・2024年と連覇を果たしたニューガーデンは今年、史上初の3連覇に挑む立場にあるが、今回の処分により最後尾スタートを強いられることとなった。なお、100年以上の歴史を持つインディ500において、29番手以下から優勝を果たしたドライバーは、過去に一人もいない。
2025年の第109回インディ500は5月25日(日)23時より、スポーツ専門チャンネル「GAORA SPORTS」にて生中継される。「スカパー!」を通して視聴可能で、月額料金は1,320円(税込)となる。
佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、2度目のインディ500制覇を果たした2020年以来となる最前列を確保し、2番グリッドから伝統の500マイルレースで自身3度目の優勝を狙う。