チャンピオンを獲得したチーム無限の野尻智紀、2021年10月17日全日本スーパーフォーミュラ選手権第6戦ツインリンクもてぎ決勝レースにて
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野尻智紀「下手でごめんなさい」苦節8年…スーパーフォーミュラ王者が涙を浮かべ明かした”劣等感”と感謝の想い

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8シーズン目の挑戦で初の全日本スーパーフォーミュラ選手権チャンピオンに輝いたTEAM MUGENの野尻智紀はキャリアを通して”劣等感”を感じ続けてきた事を明かし、これでもかという程にチームやファンへの感謝の言葉を重ねた。

同じもてぎを舞台とした第5戦から1ヶ月半を経て、スーパーフォーミュラ第6戦の決勝レースが10月17日(日)に栃木県のツインリンクもてぎで開催された。野尻智紀はタイトル争いを繰り広げる関口雄飛と平川亮(carenex TEAM IMPUL)に対し、35周のレースを”コンサバ”に、そして見事に戦い抜いた。

ツインリンクもてぎを走行するチーム無限の野尻智紀、2021年10月17日全日本スーパーフォーミュラ選手権第6戦決勝レースにてCourtesy Of Honda Motor Co., Ltd

ツインリンクもてぎを走行するチーム無限の野尻智紀、2021年10月17日全日本スーパーフォーミュラ選手権第6戦決勝レースにて

レースは気温14度、路面17度のウェットコンディションという難条件でスタートした。

サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)のスピンを経てタチアナ・カルデロン(ThreeBond DragoCORSE)がクラッシュに見舞われ2度目のセーフティーカーが導入されると、その再開時に多重アクシデントが発生。終わってみれば計5台がリタイヤを余儀なくされる厳しいレースとなった。

野尻智紀は「かなりドライ寄りのセットアップ」を使っていたために、序盤のウェットコンディションではペースを上げ切れず、曰く「コンサバ」な走りに終始した。だがそれはタイトル争いという点で混乱を徹底的に回避する完璧な走りでもあった。

ズルズルと後続に抜かれ序盤に8番手にまで後退した際は「素直にヤバイ」と感じ、関口雄飛が牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)を抜き去りトップ2に迫った瞬間に「弱気」になったと言うが、ファンのサポートとチームの想いを思い出し「負けてはいけない」とプッシュ。5位フィニッシュによって関口雄飛に32.5ポイントという大差をつけ悲願のタイトルを手にした。

2021年10月17日全日本スーパーフォーミュラ選手権第6戦ツインリンクもてぎ決勝レースの様子Courtesy Of TOYOTA MOTOR CORPORATION

2021年10月17日全日本スーパーフォーミュラ選手権第6戦ツインリンクもてぎ決勝レースの様子

レース後のチャンピオン会見の中で野尻智紀は、カート時代を含めて「良い走りをする事が少なかった」として、これまで「劣等感」を抱え続けてきたと明かし、念願のタイトルを獲得できたのは「チームが僕を盛り立ててくれて、みんなに助けて貰った」からであり「ここまで辿り着く事ができて本当に嬉しく、そして何よりもたくさんの人々に感謝しなければいけないと思います」と涙を拭った。

2008年にホンダが主催する鈴鹿サーキット・レーシングスクール・フォーミュラ(SRS-F)を首席で卒業した野尻智紀は翌年にシングルシーター・デビューを果たし、全日本F3選手権を経て2014年にDOCOMO DANDELIONからスーパーフォーミュラにステップアップした。

初年度のスポーツランドSUGOでキャリア初優勝を果たすも、DANDELION時代のシーズン最高成績は2015年と2018年の7位に留まった。

DOCOMO TEAM DANDELION RACINGの野尻智紀、2014年11月8日スーパーフォーミュラ第7戦鈴鹿サーキットにてcopyright Formula1 Data

DOCOMO TEAM DANDELION RACINGの野尻智紀、2014年11月8日スーパーフォーミュラ第7戦鈴鹿サーキットにて

2019年にTEAM MUGENに移籍。鈴鹿で2勝目をマークしてランキング4位につけると、翌2020年にはオートポリスで3勝目を挙げランキング5位を手にした。

そして迎えた無限での3年目。開幕戦の富士、第2戦鈴鹿で2連勝を挙げ、第5戦で再び表彰台の頂点に立った。キャリア通算6勝の内の半分は今年手にしたものだった。何が変わったのか? そう問われた野尻智紀は「周りの力が全て」だと答えた。

32歳の野尻智紀は「自分はとても弱い人間」であり「まだ強くなり切れていない」とした上で「それだけたくさんの人に助けて貰い、支えて貰った事でここまでやってこれたし、それが自分の強さに繋がっているのかなと思います」「強くしてもらっているという感じ」であり「周りの力が全て」だと語った。

タイトル争いの重圧を感じながらのレースだった。前日も「1時半位まで寝れなくて、寝たと思っても4時半に起きてしまった」と言う。とは言え「悲観的に捉えてもしょうがない」と割り切って朝食を採り、「心臓がずっとドキドキ」する中でレースを迎えた。過去にチャンピオン争いをしてきたドライバーの「凄さを身を以て知った」と先人を讃えた。

数年前を振り返り「自分がこの場に立てる選手だとは思っていなかった」と言う野尻智紀。「信じられない」という想いでウイニングランを走った。今回のレースの主役はキャリア初優勝を飾ったチームメイトの大津弘樹であり「邪魔をしては悪い」とウイニングランを早々に切り上げた。

レース後にはSNSに次のメッセージを寄せた。

「下手でごめんなさい。カートを卒業して以降そんな劣等感を感じる毎日でした」

「大きな支えがあったから前を向き続けられたのは言うまでもなく、みなさんが今日もたくさん力をくれました」

「とにかくとにかく感謝を伝えたい。ありがとうございました。次はチームタイトル獲り!」

タイトル獲得直後に「浮き沈み」を今後の課題に挙げた野尻智紀は「真価が問われるのはこれから」だとして「更に強く鈴鹿を戦いたい」と述べ、10月30~31日の最終第7戦を見据えた。