早々に2021年にシフトしたメルセデス、対照的に来季の「真剣勝負」を見据えて今季開発を継続するレッドブル・ホンダ
今季11戦を終えて9勝という圧倒的な強さでシーズンを進めているメルセデスは、2020年型F1マシン「W11」の開発を既に停止してリソースの全てを来シーズンに注いでいるというが、レッドブル・ホンダは最後まで今季型「RB16」の改善を続けていくという。
メルセデスのトト・ウォルフ代表はニュルブルクリンクで開催された前戦アイフェルGPの週末、W11の開発を「遥か昔に終わらせた」と語り、これがレッドブル・ホンダとのタイム差が縮まってきている要因だと主張した。
メルセデスの開発中止はライバルチームにとって中長期的には悲報だが、短期的には朗報と言える。黒光りしたブラック・アローが今季残り6戦でこれ以上後続とのギャップを拡大させる事がないという事を意味するからだ。
アイフェルGPでは予選3番手のマックス・フェルスタッペンが2番手ルイス・ハミルトンに0.037秒に迫るなど、大規模なアップグレードが投じられたRB16がメルセデスを脅かさんとするパフォーマンスを発揮した。決勝での両者のギャップも4秒差という僅差だった。
メルセデスのトラックサイド・エンジニアリング・ディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは、レッドブル・ホンダが競争力を向上させて接近している現状は予想の範囲内であるとしながらも「仮にこの傾向が続くようであれば、残りのレースは更に厳しいものとなり、予選でポールポジションを獲得してレースで勝利する事は難しくなるだろう」と述べている。
アイフェルGP決勝を終えて互いの健闘を称えるフェルスタッペンとハミルトン / © Red Bull Content Pool
とは言え、ドライバーズランキング首位を走るハミルトンは3位フェルスタッペンに対して83ポイント差をつけている。これは仮にフェルスタッペンが3勝を挙げてハミルトンが3度のレースでリタイヤしたとしても埋まらない大きな溝だ。よほどの事がない限り、ハミルトンの連覇は疑いない。
メルセデスのアップグレードプログラム終了の決断がこうした事情を踏まえてのものである事は確かだが、同時に来シーズンをより有利に進めようとするものである事も疑いない。だがこれとは対照的に、ホンダワークスとしての時間が限られている英国ミルトンキーンズのチームが今季の開発の手を緩める事はない。
レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコはMotorsport-Magazinとのインタビューの中で「来年も同じクルマを使う事になるため、我々の今年の開発はこれからも続く。我々の哲学はシーズン中の改善にあるが、これらはすべて来年に持ち越すことができる」と語った。
国際自動車連盟(FIA)の同意を得た上でトークン制による車体開発を行う事は可能だが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる財政的影響への対策として新レギュレーションの導入が2022年に延期された事で、各チームは基本的に来季も今季マシンを使う事になる。
改訂された2020年の残りのカレンダーにはアルガルベ、イスタンブール、イモラという目新しい3つサーキットが並んでいるが、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、こうしたサーキットでRB16の弱点を全て洗い出して来シーズン型マシン「RB16B」に繋げていきたいとの考えを明らかにしている。
今季の開発継続は、あくまでも来季を見据えてのものであり、今季の逆転チャンピオンシップを狙ったものではない。開発を停止させたメルセデスと、継続するレッドブル・ホンダ。手法は異なれど狙いは同じだ。
アルガルベ・サーキットのホームストレート / courtesy of MotoGp
メルセデスがシーズン開幕から中盤にかけてフィールドを支配する傾向があるのとは対照的に、レッドブル・レーシングは序盤に遅れを取り徐々にスピードを向上させていく傾向がある。2020年序盤のパフォーマンス赤字の原因は何であったのだろうか?
ヘルムート・マルコはシャシー側に関して、風洞との相関に問題があった事が今季の苦戦の一因だとした。例年とは異なり、トリプルヘッダー続きの異例の今シーズンでのキャッチアップは容易ではない。
また、パワーユニット側に関しては「ホンダは我々への約束を守り、計画していたものをもたらしてくれた」として、堅実な進化があった事を認めたが、同時に「メルセデスは多大な努力を支払い、ホンダよりも遥かに多くの改善を成し遂げた」とも語った。メルセデス王朝を崩壊させるには、車体とエンジン双方の大幅な進化が求められる。
2021年シーズンの目標についてヘルムート・マルコは今季同様に世界選手権制覇だと語るが「今回は真剣だ。2021年に向けて、これほど良い条件が揃った事は今までにない」と息巻いている。ホンダはF1参戦ラストイヤーとなる2021年に、開発を一年前倒しして新型エンジンを投入する意向を明らかにしている。