
同士討ちの陰で炸裂、メルセデスの“まぐれ”ではない衝撃的速さの正体―カナダが無力化した2つの弱点
マクラーレン勢の同士討ちが起きたまさに瞬間、2025年F1第10戦カナダGPの真の主役は陰に隠れてしまった。その主役とは、圧倒的な速さでライバルを寄せ付けなかったジョージ・ラッセルだ。
予選から決勝まで一貫して主導権を握り、完勝を収めたラッセル。世界の注目がオスカー・ピアストリとランド・ノリスの接触劇に集まる中、その陰でメルセデスは、静かに、そして確かに復活の狼煙を上げていた。
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
表彰台の上でガッツポーズを取る優勝者ジョージ・ラッセル(メルセデス)、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)
“正真正銘”の勝利
ラッセルは予選でマックス・フェルスタッペン(レッドブル)に0.160秒の差をつけてポールポジションを獲得。決勝でもスタートからトップを守り抜き、フェルスタッペンがDRS圏内に迫る場面でも、冷静にペースを引き上げて差を維持し、レースを完璧にコントロールした。
この結果に対し、メルセデスのチーム代表であるトト・ウォルフは「正真正銘の勝利」と称賛の声を贈った。
確かに、メルセデスは今大会に向けて空力アップグレードを投入していた。だが、今回の勝利はそれだけに帰するものではない。投入されたのは、主にブレーキダクトの冷却性能の向上とフロアエッジの小幅な改良といった、いわば“微調整”にとどまるものだった。
テクニカルな側面での真の勝因は、W16の持つ弱点をジル・ビルヌーブ・サーキットの特性が完璧に相殺した点にある。
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メルセデスの1-3フィニッシュを喜ぶジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリ、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)
すべての“足かせ”が外れたW16
カナダGPの舞台、ジル・ビルヌーブ・サーキットの特徴は、タイヤのオーバーヒートが起きにくい点にある。路面が滑らかであり、タイヤの冷却に有効なストレートがこまめに配置されている一方、タイヤの温度上昇に繋がる横Gの大きなコーナーがほとんどないのだ。
つまり、メルセデスの”2大ウィークポイント”のひとつが完全に消滅することになる。イモラで大敗した後、ラッセルは「W16」について「暑いときは遅く、寒いときは速い――これは昨年も見られた傾向だけど、今年もまったく同じだ」と述べ、高温下におけるタイヤのオーバーヒートの問題が、今もなお解消されていないと認めている。
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2025年F1第10戦カナダGPの決勝レースでマックス・フェルスタッペン(レッドブル)を抑えてリードを守るジョージ・ラッセル(メルセデス)、2025年6月15日 ジル・ビルヌーブ・サーキット
W16が抱えるもう一つの弱点、つまりバランスの問題もここでは表面化しない。モントリオールには高速コーナーが事実上存在せず、すべてのコーナーがほぼ低速域で構成されているため、バランス調整が容易なのだ。
結果、すべての“足かせ”が外れたメルセデスが、本来の潜在力を発揮した格好だ。
さらに、W16は低速コーナーと短いストレートが続くこのコースにおいて求められる性能、すなわち、ブレーキング及びトラクション性能に長けているという側面もあった。
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ジル・ビルヌーブ・サーキット(F1カナダGP)のコースレイアウト図
マネジメントとドライバーの貢献
一方で、ここではタイヤのグレイニングが問題となる。これは特に左側、主にフロントタイヤに集中する。これに対してメルセデス陣営は、「右コーナーで無理に攻めない」というシンプルな戦略で対処した。
ラッセルは終始安定したラップを刻み続け、フェルスタッペンのプレッシャーにも微動だにせず、W16の強みであるブレーキングとパワーデリバリーを最大限に活かした。
また、今回の勝利が単なるクリーンエアによる恩恵ではなかったことは、アンドレア・キミ・アントネッリの3位表彰台が雄弁に物語っている。
これは、2009年の日本GPでトヨタのヤルノ・トゥルーリが2位に入って以来となる、イタリア人ドライバーによる表彰台登壇という快挙でもあった。
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表彰台の上で喜ぶウィナーのジョージ・ラッセル(メルセデス)と自身初の3位を獲得したチームメイトのアンドレア・キミ・アントネッリ、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)
一過性か、それとも本格的復活か
今回の勝利は、コース特性との相性が完璧に合致した“地の利”による面が大きいことは否定できない。だが、それでもエンジニアリング・ディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは手応えを得ている。
「サーキット特性が我々に有利に働いた面もあるが、それでも学びの多い週末だったことは確かだ」
いずれにせよ、今回の勝利が単なる“まぐれ”ではなかったことは疑いない。今後、気温や路面、レイアウトの異なるサーキットでメルセデスが同様のパフォーマンスを再現できるかが注目される。
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ジョージ・ラッセルの優勝とアンドレア・キミ・アントネッリの3位表彰台を祝うメルセデスのチームメンバー、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)
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表彰台に上がった3位アンドレア・キミ・アントネッリとメルセデスの桑原克英パフォーマンスエンジニア、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)