決勝後のパルクフェルメに立つ12位の角田裕毅(レッドブル)、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)
Courtesy Of Red Bull Content Pool

過酷な挑戦は「チャンス」と角田裕毅、”理不尽なペナ”を跳ね返す執念のカナダドライブ

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「意味不明なペナルティ」——レースを終えてなお角田裕毅は、吐き捨てるようにスチュワードの判断を非難した。だが、この逆境は、角田の不屈の走りを一層際立たせる結果となった。

6月16日にジル・ヴィルヌーヴ・サーキットで行われた2025年F1第10戦カナダGP。アップグレード導入初戦で直面した信頼性トラブル、そして容赦ない10グリッド降格処分。数々の試練に直面しながらも、角田は果敢に前を追い、入賞圏内目前まで迫る奮闘を見せた。その走りは、単なる結果以上に、彼の闘志を印象づけた。

ドライバーズパレードでアレックス・アルボン(ウィリアムズ)とフランコ・コラピント(アルピーヌ)と会話する角田裕毅(レッドブル)、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝前(ジル・ビルヌーブ・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

ドライバーズパレードでアレックス・アルボン(ウィリアムズ)とフランコ・コラピント(アルピーヌ)と会話する角田裕毅(レッドブル)、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝前(ジル・ビルヌーブ・サーキット)

新兵器投入も、容赦なき鉄槌

土曜日、レッドブルは遅ればせながらも、角田の22号車に待望のアップグレードを投入。だが、初めて新パーツを装着したFP3では、フロントブレーキ周辺の信頼性トラブルと見られる原因により、わずか14周しか走行できず最下位に沈んだ。

さらに追い打ちをかけたのが、赤旗提示中の追い越し行為による10グリッド降格ペナルティだった。予選11番手の健闘も水の泡となった。

ただし、本来であれば最後尾スタートとなるはずだったが、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)とリアム・ローソン(レーシング・ブルズ)がピットレーンスタートを選択したことで、角田は18番グリッドからの発進となった。数少ない朗報と言える展開だった。

「昨日は本当に厳しい1日でした。10グリッド降格という、意味不明なペナルティもありましたしね」

レースを終えてなお、角田の言葉にはスチュワードの決定への憤りが滲んでいた。

18番手から始まった反撃の狼煙

だが、角田は日曜のモントリオールで真価を発揮する。多くの後方勢と同じくハードタイヤを選択し、”逆張り戦略”で勝負に出た決勝レース。オープニングラップでランス・ストロール(アストンマーチン)を早々に仕留めると、そこから怒涛の追い上げが始まった。

22周目には、タイヤのグリップ低下に苦しむアレックス・アルボン(ウィリアムズ)をオーバーテイク。一時は10番手まで駆け上がり、おぼろげながらも入賞圏内を視野に入れ始めた。

だが、レースは甘くない。29周目にフレッシュなハードタイヤを履くフェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)に抜かれ、49周目には、同じ1ストップ戦略を採ったニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)にも先行を許した。

フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)をリードする角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)をリードする角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)

最後まで諦めない不屈の走り

残り14周、角田は本レースで唯一のピットストップを敢行し、ミディアムタイヤに交換。15番手でコースへ復帰したことで、前走車が生み出すダーティーエアーに苦しめられる展開となった。

それでも角田は、フレッシュタイヤのグリップを信じ、持ち前の攻撃的な走りを発揮。残り8周でアイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)を、さらに残り5周でフランコ・コラピント(アルピーヌ)を立て続けに攻略した。

入賞圏内まであと一歩。だが、終盤のセーフティーカー導入により、最後の追撃は封じられた。最終順位は12位。ポイント獲得にはあと一歩届かなかった。

セーフティーカー先導ラップのピットレーンでフランコ・コラピント(アルピーヌ)の前を走行する角田裕毅(レッドブル)、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

セーフティーカー先導ラップのピットレーンでフランコ・コラピント(アルピーヌ)の前を走行する角田裕毅(レッドブル)、2025年6月15日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)

「もっと上を目指したい」更なる高みへの決意

「今日はこれが精一杯でしたが、もっと上を目指したい」とレース後に語った角田。その言葉には、悔しさと同時に次戦への強い意欲がにじむ。

史上最強のチームメイト、マックス・フェルスタッペンと常に比較される重圧。アップグレードの優先権、開発の方向性——すべてが世界王者中心に回る現実の中で、角田は自分なりの道を見つけようとしている。

「このチームで走ってる以上、できるだけ上位を争いたいと思っています。プレッシャーは大きいですし、正直、時にはそれを楽しめない時もありますが、それでもこの挑戦を楽しんでいます。それに、こういう時こそ成長し、自分を証明するチャンスだと思っています」

理不尽なペナルティを跳ね返し、新しいアップグレードパッケージの可能性を確認したカナダGP。角田裕毅の不屈の精神は、必ずや次戦以降の飛躍につながるはずだ。

決勝前にパドック入りする角田裕毅(レッドブル)、2025年6月15日(日) F1カナダGP(ジル・ビルヌーブ・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

決勝前にパドック入りする角田裕毅(レッドブル)、2025年6月15日(日) F1カナダGP(ジル・ビルヌーブ・サーキット)


2025年F1第10戦カナダGPでは、ジョージ・ラッセル(メルセデス)がポール・トゥ・ウインで通算4勝目を飾り、メルセデスに今季初優勝をもたらした。2位はマックス・フェルスタッペン(レッドブル)。3位にはアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)が続き、キャリア初の表彰台を獲得した。

次戦はレッドブル・リンクを舞台に開催される第11戦オーストリアGP。現地時間6月27日(金)のフリー走行1でレースウィークが幕を開ける。

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