イギリス・ブリックスワースにあるメルセデスF1のパワーユニット開発拠点「メルセデスAMGハイパフォーマンス・パワートレイン」copyright Daimler AG

メルセデスF1とロンドン大、100時間で呼吸補助装置を開発…新型コロナの治療現場導入へ

  • Published: Updated:

F1パワーユニットの製造・開発を手掛けるメルセデスAMGハイパフォーマンス・パワートレインズ(HPP)と、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のエンジニア及びUCL病院(ULCH)の臨床医によって共同開発された呼吸補助装置のプロトタイプが完成した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療現場への導入が間近に迫っている。

F1世界選手権に参戦する7チーム(レッドブル・ホンダ、メルセデス、マクラーレン、レーシングポイント、ルノー、ウィリアムズ、ハース)は、VentilatorChallengeUKコンソーシアムの一員として「プロジェクト・ピットレーン」なるグループを結成し、新型コロナウイルスの感染拡大による人的被害を最小限に抑えるべく英国政府に協力しているが、その具体的な成果が早くも上がり始めている。

睡眠時無呼吸症候群の治療に使われる事でも知られる「CPAP(シーパップ)」と呼ばれるこの装置は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者の呼吸を補助するために使われているものの、イギリス国内では今後更なる感染者の急増が予想されており、十分な数が確保できていない事が問題となっている。

深刻な被害が出ているイタリア北部のロンバルディア州からの報告によると、CPAPを使用した患者の約半数が人工呼吸器を使用せずに済んだとされる。十分な数のCPAPを確保する事で限られた資源である人工呼吸器の使用を抑え、真に必要な重篤患者に対してリソースを残す事が可能になる。

HPPとUCLの技術者達は3月18日より、イタリアや中国の病院で使用されている既存のCPAP装置をリバースエンジニアリングして量産化する作業に着手した。UCLによれば「最初の会議から最初の装置の製造までかかった時間は100時間弱だったという」という。

リバースエンジニアリングとは、既存の特許切れのCPAP装置を解析してその設計をコピーし、大量生産用に適応させることを指す。

新たに開発された40個のデバイスがULCHを含むロンドン市内の3つ病院に届けられ、臨床試験が開始された。既に英国医療製品規制庁(MHRA)から認可が降りているとの事で、上手く行けば1週間以内にメルセデスAMG HPPによって1日あたり最大1,000台のCPAPデバイスが製造される事になる。

メルセデスHPPのマネージングディレクターを務めるアンディ・コーウェルは「支援を求める声に対し、F1コミュニティは素晴らしい反応を示してくれた。最高水準のCPAPプロジェクトを最速で実現するために、我々はUCLのサービスに我々のリソースを投入する事を決めた。誇らしく思う」と語った。

UCLの機械工学科のティム・ベイカー教授は「この緊急事態にあって、通常であれば何年もかかる恐れがあったプロセスを、僅か数日にまで短縮することができ感謝している。依頼を受け、我々は一日中に渡って特許侵害の恐れがない装置を分解し、これを分析する作業を行った。コンピュータシミュレーションを活用する事で装置をさらに改良し、大量生産に適した最先端のバージョンを作成した。緊密な連携によって、F1の能力を活用することができた」と述べた。

UCLの副学長を務めるデイビッド・ロマース教授は今回の共同研究について「大学、産業界、病院が国益のために力を合わせる事で何が達成できるのかを明らかにした」と付け加えた。