
液体は全面NG、一方でFIAが示した“唯一の例外”―タイヤ冷却巡るF1技術戦争~レッドブルに活路か
2025年のF1第7戦エミリア・ロマーニャGPでレッドブルのマックス・フェルスタッペンが優勝を飾ったことで、マクラーレン優位の勢力図に揺らぎが生じた。その裏では、タイヤ冷却技術を巡る両陣営の見えざる攻防が再び熱を帯びている。
国際自動車連盟(FIA)はエミリア・ロマーニャGPに先立ち、2通の技術指令を発行した。ひとつはスキッドブロック、もうひとつはタイヤ冷却手法に関するもので、いずれも既存の技術規則の明確化を目的としたものだった。
勢力図変化の兆しが見えたタイミングと重なったことで、パドック内では「マクラーレンが何らかの車体変更を余儀なくされたのではないか」との憶測が一部で浮上した。
だが、これに対しマクラーレンは、スキッドブロックに関する通達は他チームを対象としたものであり、MCL39に変更を加える必要はなかったと明言したとされている。さらにタイヤ冷却に関しても、エミリア・ロマーニャGPの週末を前にFIAが詳細な調査を行い、その結果として合法であるとの結論を下している。
Courtesy Of McLaren
ランド・ノリスがドライブするマクラーレンMCL39のホイール及び足回り、2025年F1エミリア・ロマーニャGP
レッドブルの照会、浮かび上がる“冷却案”の数々
FIAが技術指令を発行するに至った背景には、レッドブルによる”探り”があった。FIAに対して複数の冷却手法に関する技術的照会を行い、その合法性について見解を求めたのだ。
こうした行動は一般的に、他チームの潜在的な違法行為を牽制するとともに、自らが将来的に導入を検討している技術の是非を見極める意図がある。
英専門メディア『The Race』によると、レッドブルが照会した案には、以下のような斬新かつ際どい手法が含まれていた。
- ホイールボディワークの表面を構成するカーボンファイバー層の内部に冷却液を密封。これにより外気やブレーキ熱によって発生する温度変化を低減。
- ホイールボディワークに冷却液を貯めたリザーバーを設置。規則違反回避のために、車体の加速力(慣性)などを使用して冷却水を循環。
- ドリンクボトル内の液体を冷却用途に転用。
- ホイール周辺の”パーツ内に液体を格納”し、それを冷却に利用。
報道によると、これらはすべて液体を用いた冷却であることから、F1技術規則第11条5項(液体によるブレーキ冷却の禁止)に抵触し、さらにその手法によっては第10条8項4号d(タイヤ温度制御を目的とする装置の禁止)にも違反するとされ、FIAによって明確に違法と判断されたという。
唯一の“グレーゾーン”―ペルチェ素子
一方、一つだけ完全には却下されなかった案がある。それが、ペルチェ素子と呼ばれる半導体熱電素子を利用した冷却モジュールの使用だ。
ペルチェ素子は、直流電流を流すことで片面が冷え、もう片面が熱くなるという性質を持つ。電流の向きを変えると、冷却面と加熱面が入れ替わる。
copyright Formula1 Data
ペルチェ素子を利用した熱制御モジュールの図
可動部が一切存在しない完全な固体構造であることから、F1の技術規則においては「剛体」として扱われ、その点において規則に適合する。
この技術は、一般家庭用のワインセラーや小型冷蔵庫、発熱を抑える必要のある高性能PC、さらには車載用のシートクーラーなど、静音性や省スペース性が求められる製品に広く応用されている。
FIAはこのアイデアに対し、現在の技術規則においては明示的な記述が存在しないとの見解を示しつつ、2026年に向けては使用を禁止する方向で検討すると説明した。
開発レースの新たな火種に?
FIAによる今回の曖昧な説明は、レッドブルが照会したようなペルチェ素子の使用が現行ルール上では違反に当たらないことを示唆するものであり、各チームのデザイナーにとっては、技術規則の“隙間”として利用可能な余地が残された形と言える。
それだけにこれは、F1における次なる技術開発のトリガーとなる可能性を秘めている。レッドブルをはじめとする各陣営が、ペルチェ素子を利用した冷却システムの実戦投入に向けて既に開発に着手していたとしても不思議はない。