2021年型F1マシンの風洞モデルが初公開、オーバーテイクを阻害する後方乱気流を大幅に抑制
F1と、その統括団体であるFIA国際自動車連盟は8月22日、2021年シーズンのF1マシンの風洞モデルを初公開した。一年半後に施行される新しいレギュレーションが目指すのは、コース上でのバトル回数とオーバーテイク数の増加。白熱したホイール・トゥ・ホイールの接近戦を容易にするためのマシンデザインが検討されている。
画像と動画:2020年F1マシンの風洞モデル
2020年仕様のF1マシンで最も目を引くのは、有機的なラインを持つシンプルなエアロと、ピレリの新しい18インチ扁平タイヤの上部を覆うカバー。ユニバーサル・エアロキットが導入されたインディカー・マシンを彷彿とさせる。後方乱気流を発生させ得る複雑なパーツ類は一掃され、後続マシンの上方へと流れるように設計されたリアウイングは鋭く立ち上がっている。
© Formula One World Championship Limited
フロア前部からディフューザーにかけては流れるようなラインが描かれ、ベンチュリ効果によってグラウンド・エフェクトを高め、より多くのグリップを引き出すように設計されている。
© Formula One World Championship Limited
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参考:2020年導入予定のインディカーマシン
後方乱気流が10分の1に減少
近年のF1でオーバーテイクを困難にしている要因の一つが後方乱気流だ。複雑奇怪なエアロパーツと幅広なボディ、そしてワイド化されたタイヤによって、マシン後方へと流れる気流は大きく乱れ、これが後続車のダウンフォースを低下させ、前走車への接近を難しくしている。
オーバーテイク改善のためには、マシン後方へと流れる”ダーティーエア”を減少させる事が必要不可欠だ。現時点でその成果は出ているのだろうか?
FIAのシングルシーター技術部門を率いるニコラス・トンバジスは「現在の水準が50%であるのに対して、2021年モデルの風洞実験では、後方乱気流によるダウンフォースの減少が5-10%に収まっている」と語り、従来と比較して、乱れた空気の流れを10分の1から5分の1程度まで減少させる事に成功したと述べた。
無論、全てが徹底的に管理された風洞という状況下での限定的な結果ではあるものの、期待の持てる数値と言える。F1のチーフ・テクニカルオフィサーを務めるパット・シモンズは「プロジェクト開始時点での予想を遥かに超える成果であり、桁外れの結果だ」と述べた。
風洞テストはザウバーの施設を利用
F1を所有する米リバティ・メディアとFIAは2018年秋に、2021年シーズンのF1マシンのコンセプトカーを発表。その後、F1中継でクラウドサービスを提供しているAWSの協力のもと、コンピューターを使った擬似的なシミュレーション=数値流体力学(CFD)を駆使しての研究開発を経て、実物の風洞を使った実験が行われた。
風洞とは、巨大な扇風機に似たタービンで人工的に風を発生させ、それを模型にあてて空気の流れ方などを再現・観測する装置ないしは施設のことで、F1においてはマシンの空力開発のために用いられる。F1は今年1月に60%のスケールモデルを、そして3月には13インチホイールを使った2021年F1マシンのテストを実施。そして、7月のF1ドイツGPに先立って、ザウバーが持つ風洞で様々なテストを実施した。
© TOYOTA MOTOR CORPORATION / ザウバーと並び高い評価を受けるトヨタの風洞施設
ザウバー(アルファロメオ・レーシング)が持つスイス・ヒンウィルにある風洞設備は世界最先端とされ、無数のピトー管から構成されるエアロレイクを自由自在に動かせるロボットを備えており、空間の任意の地点における気流の方向や圧力、そして流速などを測定する事ができる。
ザウバーの風洞では、実車の60%の大きさのモデルを使っての実験を行う事が出来るが、今回採用されたのは50%スケール。無論、実車サイズに近い方が計測精度が向上するものの、風洞のサイズは限られているため、小さなサイズのモデルを使うことで、マシンからより遠く離れた地点の後方気流を計測することを優先した。
テスト結果は全チームに共有されるが、アルファロメオ以外のチームが不利益を被らないように、ザウバーとは独立したコンサルタントグループが風洞でのテストを監督した。
F1とFIAは、現役ドライバーたちの意見を取り入れながら、今年10月末までに2021年シーズン以降のレギュレーションの最終決定を目指している。