ブルツ提案の「モナコ改修案」に波紋、7名のF1ドライバーが語る可能性と限界

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アレックス・ブルツが提案したモンテカルロ市街地コースの改修案が注目を集めている。現役F1ドライバーたちはこれをどう評価しているのか。その反応は多様だが、一様に、モナコGPという特異な舞台が抱える構造的課題を更に浮き彫りにするものだった。

恒常化する課題、ブルツの提案

モナコGPは「F1カレンダーで最も退屈なレース」と評されることも多く、特に2025年大会では、3セットのタイヤ使用義務が導入されたにもかかわらず、本質的な問題は解決されなかった。

この新たなルールにより、ポイント争いを繰り広げるドライバーが意図的にペースを落とし、チームメイトに有利なピットストップの機会を作り出すといった戦略が横行した。これは、モナコにおけるオーバーテイクの困難さを一層、印象付けるものとなった。

こうした状況を受け、GPDA(グランプリ・ドライバーズ・アソシエーション)会長のブルツは3つのコース改修案を提案した。ブルツが提案した改修は以下の3点に集約される。

  • 1. ヘアピンの拡幅
    フェアモント・ヘアピンのコース幅を拡張し、攻防のチャンスを広げるとともに、続くヌーベル・シケインで追い越しの機会を創出。
  • 2. シケインの再配置
    ヌーベル・シケインを後方に再配置することで、先行車の守備を困難にし、唯一のオーバーテイクチャンスを拡大する構想。
  • 3. ラスカスの微調整
    コース幅を調整し、ドライビングラインの選択肢を増やす。

アレクサンダー・ブルツが提案するモンテカルロ市街地コースのヌーベル・シケイン(ターン10・11)改修案、2025年5月26日copyright wurz_alex@Instagran

アレクサンダー・ブルツが提案するモンテカルロ市街地コースのヌーベル・シケイン(ターン10・11)改修案、2025年5月26日

特に注目されるのはヌーベル・シケインの再配置案だが、港湾部の大規模な工事が必要となるため、3案の中では最も効果が期待されるものの、同時に実現可能性のハードルは最も高い。

提案に対するドライバーたちの評価

スペインGPの開幕を翌日に控え、ドライバー達はブルツの提案について意見を表明した。

改善期待は「1~5%程度」

GPDAの理事を務めるカルロス・サインツ(ウィリアムズ)は、今回の提案によって一定の改善がもたらされることは確かだと認めつつも、現状の問題は「1〜5%程度」しか解決されないだろうと評価した。

その主因として挙げたのが、現行マシンの幅の広さだ。「たとえ今回の改修が実施されたとしても、コースの中央を時速30kmで走っても追い抜かれることはないと思う」と述べ、物理的な限界が極めて大きいことを強調した。

「今のマシンは幅がありすぎて、どれだけゆっくり走っていても追い抜くのは不可能だ。だからこそ僕らは先週末、4〜5秒もペースを落として走っていたんだから」

現実案としての「妥当」との評価

一方で、英専門誌『Autosport』によるとサインツのチームメイトであるアレックス・アルボンは、現実的なレイアウト変更案としては「すごく妥当」と評価した。

「問題の大部分は、トンネル出口に向かう下り坂でのブレーキングにあると思う。あそこは路面がバンピーだから、追い抜きを仕掛けるのがすごく難しい場所なんだ」

「今のような下り坂でブレーキを遅らせると、車体がピッチしてリアが抜けてしまい、大クラッシュのリスクが高まる。ブレーキング区間を80メートル余分に確保できれば、ドライバーはもっと自信を持ってアタックできるはずだ」

さらにアルボンは、ポルティエからのDRS使用を許可する案を提案。トンネル内およびシケイン突入までDRSを開き続けるかどうかは、「ドライバーの判断に委ねればいい」とし、新たな検討材料になり得ると語った。

モンテカルロ市街地コースのトンネルを抜けるピエール・ガスリー(アルピーヌ)、2025年5月24日(土) F1モナコGPCourtesy Of Alpine Racing

モンテカルロ市街地コースのトンネルを抜けるピエール・ガスリー(アルピーヌ)、2025年5月24日(土) F1モナコGP

伝統と変革の間で揺れる地元ドライバー

モナコ出身のシャルル・ルクレール(フェラーリ)は、港湾部分を除く2つの改修案については実現可能性が高く、「興味深い提案」と評価しながらも、伝統への愛着と改善への期待の間で揺れる複雑な心境を吐露した。

「レースの展開が劇的に変わるかと言えば、そうは思わない。でも、改善に向けてあらゆる努力をすべきかと聞かれたら、それは間違いなく“イエス”だと思う」

「ただ、モナコGPは昔からこういう展開だった。そしてドライバーの立場から言えば、予選でのスリルは他のどのサーキットにもない特別なものがある。レースを改善するための変更は歓迎するけど、モナコは常に“そういう場所”だった」

2026年規則変更への期待

ピエール・ガスリー(アルピーヌ)は、2026年に導入されるテクニカル・レギュレーションによって車幅が2.0メートルから1.8メートルへと縮小されることに触れ、改善への期待を示す一方で、それだけでは十分とは言えず、コース側の改修も必要だと指摘した。

「サイド・バイ・サイドになったとき、40センチのスペースが広がるのは前向きな要素だ。でも、F3のレースを見れば分かるように、それだけでは根本的な解決にはならない。やっぱり、一部のコース改修も検討すべきだと思う」

一方、サインツと同じGPDA理事のジョージ・ラッセル(メルセデス)は、同じく2026年に導入予定の「マニュアル・オーバーライド・モード」への期待を口にした。この新システムは、一時的に電動パワーを上乗せすることで車速を引き上げるもので、DRSに代わる新たなオーバーテイク支援機構となる見込みだ。

ラッセルは、「マニュアル・オーバーライドは解決策になるかもしれない」と期待を寄せた。ただ同時に、「結局のところ“モナコはモナコ”って割り切るべきなのかもしれない」とも説いた。

「予選はシーズンの中で一番スリリングだし、決勝はいつも退屈だけど、そのぶん他のレースの面白さが際立つ。正直、よく分からないというのが本音かな」

2026年型F1マシンのレンダリングイメージ、2024年12月12日 (2)copyright FIA

2026年型F1マシンのレンダリングイメージ、2024年12月12日 (2)

理想と現実、そしてユーモア

エステバン・オコン(ハース)は理想と現実のギャップの大きさを直視している。

「方向性としては正しいと思うけど、十分かと言われると、たぶん違う。ただ、現実的な提案に留めている点は評価できる」

「個人的には、シケインを全部取り払って、ターン12まで一気に走るレイアウトにするのがベストだと思う。トンネル出口にDRSゾーンを設けてね。ただ、ターン12にはランオフが必要になるし、アレックス(ブルツ)の案が最も現実的な選択肢だと思う」

一方、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)は、さらに極端な提案をユーモアを交えて語った。

「オーバーテイクを促進する唯一の方法は、コースを根本的に変えるか、クルマのサイズを半分にすることだと思う。来年から少し小さくなるけど、それじゃまだ足りない。いっそカートでレースをするのもアリかもね(笑)」

「でも結局のところ、現実的な方法はコースの微調整くらいなんだよ。ピットストップを増やしても意味がないっていうのは、この間のレースで証明されたしね」

「ただ、そもそも改修できる余地も限られているし、正直、良いアイデアは思い浮かばない。ただ、速いクルマで前からスタートできるなら、今のままでもOKだけどね」

競争性向上と伝統の狭間で

モンテカルロ市街地コースのターン1及びタバココーナー付近の様子、2025年5月23日F1モナコGP FP1Courtesy Of Red Bull Content Pool

モンテカルロ市街地コースのターン1及びタバココーナー付近の様子、2025年5月23日F1モナコGP FP1

ドライバーたちの証言は、モナコGPの改革が一朝一夕には成し得ない複雑な課題であることを明確に示すものだった。ブルツの提案が、現実的かつ前向きな第一歩であることは間違いないが、それ単体で劇的な改善が期待できるというものではない。

2026年に予定されている車幅の縮小やマニュアル・オーバーライドの導入、段階的なコース改修の組み合わせによって、モナコGPのレース内容が徐々に改善される可能性はある。とはいえ、即効性のある抜本的な変化を期待するのは難しいかもしれない。

それでもなお、モナコGPが「F1の宝石」としてカレンダーに残り続けるためには、歴史と格式、そしてスポーツとしての競争性の両立という難題に、F1全体が向き合い続ける必要があるのは確かだろう。

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