
レッドブルからアウディへ─ウィートリー新代表が語る「再出発」の哲学と改革の青写真
2025年シーズンよりザウバー(アウディF1プロジェクト)のチーム代表に就任したジョナサン・ウィートリーが、第4戦バーレーンGPで初の公式会見に臨んだ。34年にわたるF1キャリア、レッドブルでの19年間を経て、彼はアウディで何を成し遂げようとしているのか。そのビジョンと哲学に迫る。
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
ピットレポーターを歩くザウバー(アウディ)のジョナサン・ウィートリー新チーム代表、2025年F1バーレーンGP
再出発への情熱「エネルギーに満ちた変革期」
「ザウバーからアウディF1プロジェクトへの移行の中にある今、会社は活気に溢れており、まさに自分が身を置くべき場所にいると感じている」
ウィートリーは2025年4月1日付で、チーム代表としてザウバーに着任した。これに伴い、慣れ親しんだイギリスを離れ、家族とともにザウバーの本拠があるスイスに移住した。
F1で長年にわたり成功を収めてきた人物の一人として知られるが、マネジメント畑の出身ではない。キャリアの出発点は1991年のベネトンF1でのメカニック職。その後、ルノーF1では3年間にわたってチーフメカニックを務めた。
技術職としてチーフエンジニアの道に進むか、マネジメントに進むか迷った時期があった――ウィートリーはそう振り返る。
最終的にウィートリーは、技術職としてのキャリアに終止符を打ち、2006年にスポーティング・ディレクターとしてレッドブルに移籍した。マネジメントの道を選んだ理由は「人を活かし、チームを創る」ことへの情熱だった。
「チームとして働くこと、チームを創り上げることが面白いと思ったんだ。それに向けて、自分なりのやり方を確立してきた」とウィートリーは語る。
「チーム代表という役割は、人それぞれスタイルが違うように見えるが、そういった立場の人は誰もが、チームというものがどのようにして成り立っているかを理解しているように思う」
Courtesy Of Red Bull Content Pool
レッドブルのチームマネージャーを務めるジョナサン・ウィートリー、クリスチャン・ホーナー代表と話をするセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)、2015年F1シンガポールGP
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
ピットストップ練習を見守るザウバー(アウディ)のジョナサン・ウィートリー新チーム代表、2025年F1バーレーンGP
ウィートリーは、現場感覚と人間関係を重視するマネジメントスタイルを築いてきた。トップダウンではなく、現場との双方向の信頼関係構築を基盤にしたこのやり方を、彼はアウディF1の変革期に生かそうとしている。
レッドブル時代には、過去20年間で最も成功したF1チーム代表、クリスチャン・ホーナーの仕事ぶりを間近で見てきたが、アウディでは「自分なりのやり方」でチームを作り上げていきたいとウィートリーは言う。
「この業界で34年間やってきた中で、関わったすべての人から学んできた。誰か特定の個人ではなく、毎日が学びの連続だ」
「前職では19年を過ごしたが、私は自分なりのスタイルで、マッティア(ビノット)と共にチームを率いていきたい。自分の考えには確信を持っているし、チームをどう変革していくかのビジョンもある。そして、最も大切なのは“人”だと信じている」
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
ガレージ内で会話するアウディ・ザウバーのマッティア・ビノットCEOとジョナサン・ウィートリー代表、2025年F1バーレーンGP
成長期の熱量― 新天地ザウバーの“空気”
着任からわずか2週間ながら、ウィートリーはザウバーに対し、「小規模ながら成長への野心に満ちたチーム」という好印象を抱いている。スタッフ一人ひとりの目線に真摯さと前向きさを感じるといい、「こういう時期こそチーム文化を築く好機」だと評価する。
一方で「まだ耳と目を使って吸収する段階。つまり、しっかり見て聞いて、あまり喋りすぎないようにしている。今のところはファクトリーより飛行機の中にいる時間の方が長いくらいだからね」と語り、拙速に変革を起こすつもりはなく、中期的な目標を定めるための取り組みの最中だと説明した。
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
ジェームズ・ヴァウルズ(ウィリアムズ代表)とジョナサン・ウィートリー(ザウバー・アウディ代表)とアンドレア・ステラ(マクラーレン代表)、2025年4月12日F1バーレーンGP FIA公式記者会見
組織統合の難しさと可能性「文化の融合が成否を分ける」
ザウバーという30年の歴史を持つスイスの独立系チームと、アウディという巨大ドイツメーカーの融合。この複雑な組織文化の統合こそが、プロジェクト成功のカギの1つであることは間違いない。
ウィートリーは「ドイツ語を勉強するつもりだが、しばらくの間は試さないでほしい(笑)」と冗談を交えつつも、両組織の文化の違いに言及し「変化を心地よいものとして受け入れられるチーム文化」を作ることが重要だと語る。
「今は、小さなチームがフルワークス体制へと移行していく途上にある。その中で“人と人をつなぐ”役割が自分の仕事の1つだと思っている。現時点では言語や文化の壁は感じていない。チーム全体に“学びたい”という空気がある。そこにこのプロジェクトの可能性を感じている」
人とチームの可能性を信じるウィートリーにとって、アウディF1の中核を担うことは、自身の哲学を具現化する挑戦ともいえる。アウディとしての再出発を迎える2026年シーズンに向けて、低迷するチームをどのように立て直し、どのように”融合”させていくのか。注目される。
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
ザウバーのニコ・ヒュルケンベルグとガブリエル・ボルトレート、2025年4月10日F1バーレーンGP
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
ジェームズ・ヴァウルズ(ウィリアムズ代表)とジョナサン・ウィートリー(ザウバー・アウディ代表)、2025年4月12日F1バーレーンGP FIA公式記者会見