ザウバー、アウディF1参戦を前に遂に英国へ―“エンジニアの聖地”に技術拠点開設を計画
2026年にフルワークスチームとしてF1に参戦予定のアウディは、傘下のザウバーを通じて英国に新たな技術拠点を設立する計画だ。これには、F1業界最大のエンジニアリング人材プールを持つ「モータースポーツ・バレー」に拠点を築き、優秀な技術者を確保する狙いがある。
ザウバーの英国進出、その狙いとは?
スイス・ヒンウィルに本拠を置くザウバーは、これまで地理的な制約により優秀な技術者の確保に苦戦していた。一方、英国にはオックスフォードシャー、ノーサンプトンシャー、ベッドフォードシャー、サリーなど、多くのF1チームが拠点を構える地域があり、技術者の流動性が高い。
この地に「ザウバー・モータースポーツ・テクノロジーセンターUK」を設立することで、生活環境を大きく変えることなく転職できる選択肢をF1エンジニア達に提供することが狙いだ。
ザウバーのCEO兼CTOであるマッティア・ビノットは「ヒンウィルは引き続きエンジニアリング業務の中心であり、最も多くのチームメンバーが集まる拠点となる。しかし、英国への進出により、世界で最も活気あるモータースポーツのエコシステムに近づくことができる」と述べた。
「我々のビジョンは、ヒンウィルと英国をつなぐ強力なネットワークを構築し、イノベーションとパフォーマンスを推進することだ」
ザウバーの英国進出に伴い、英国に拠点を持たないF1チームはフェラーリのみとなる。
具体的な計画と今後の展望
新しい英国拠点の候補には、レーシング・ブルズのサテライトオフィスがあるビスターや、アストンマーチンが本拠を構えるシルバーストーン、レッドブルのファクトリーがあるミルトンキーンズなどが挙げられている。
アウディとザウバーは2025年夏までの稼働を目指し、新たな「テクノロジーセンター」をチームの設計部門の一部として運営する計画だ。なお、エンジン開発は引き続きドイツ・ノイブルクの施設で行われる。
FIAの「コストキャップ補正」とスイスの高コスト問題
F1では、2026年に向けた「コストキャップ補正」の導入が議論されている。これは、スイスのような高コスト国に拠点を置くチームに対し、一定の補助を行う制度だ。
FIAのシングルシーター部門を率いるニコラス・トンバジスは「スイスのような国では人件費が30〜40%高く、その分、チームの人員が減るという不公平が生じている」と述べ、公平性の観点から何らかの対策が必要との認識を示している。
ザウバーの英国拠点設立は、単にリクルーティング面でのメリットにとどまらず、コストキャップの枠内で人件費を抑え、より競争力のある体制を築く狙いがあると言える。
2024年のコンストラクターズ選手権で最下位に沈んだザウバーは、現在アウディのF1参戦に向けた大きな変革の時を迎えている。英国拠点の設立は、その一環として、チームの戦闘力向上の鍵を握る重要な施策となるだろう。