
F1界に激震…クリスチャン・ホーナー電撃解任、ローラン・メキーズがレッドブルF1チーム代表に就任
レッドブル・レーシングの絶対的指導者として君臨してきたクリスチャン・ホーナーが、チーム代表兼CEOを即時退任することが2025年7月9日、発表された。辞任ではなく解雇だった。後任にはレーシング・ブルズのチーム代表ローラン・メキーズが、メキーズの後任にはアラン・パーメインが就任する。
栄光の20年間、突然の終焉
Courtesy Of Red Bull Content Pool
スプリントでのチャンピオン獲得後に写真を撮るレッドブルのマックス・フェルスタッペンとクリスチャン・ホーナー、2023年10月7日(土) F1カタールGP(ロサイル・インターナショナル・サーキット)
ホーナーは、レッドブル・レーシングそのものと言っても過言ではない存在だ。2005年のレッドブルF1参戦当初から20年にわたってチームを率い、セバスチャン・ベッテルによる2010年から2013年の4連覇、そしてマックス・フェルスタッペンによる2021年から2024年の4連覇という、F1史に刻まれる2つの黄金時代を築き上げた。
だが、2024年以降、その栄光には明らかな陰りが差し始めた。急速に勢力を拡大したマクラーレンが、今季はドライバーズ及びコンストラクターズの両選手権で圧倒的な競争力を誇示。第12戦イギリスGP終了時点で、かつて絶対王者と称されたレッドブルは、ランキング4位という屈辱的な状況に追い込まれている。
相次ぐ人材流出と内部対立
競争力低下の萌芽、チーム混乱の兆候は、すでに2022年に始まっていた。レッドブルGmbHの総帥ディートリッヒ・マテシッツが死去すると、ホーナーとモータースポーツ・アドバイザーのヘルムート・マルコとの間で権力闘争が勃発。昨年にはホーナー個人のセクハラスキャンダルが表面化し、事態はさらに深刻化した。
以降、フェルスタッペンの父ヨスとホーナーの対立を皮切りに、チームは不協和音に包まれていき、技術部門の中核を担ってきた天才エイドリアン・ニューウェイや、スポーティングディレクターのジョナサン・ウィートリーといった要人たちが次々とチームを離脱。長年にわたり築き上げられてきた組織の屋台骨が、音を立てて揺らぎ始めていた。
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ホスピタリティで会議をするクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)とヘルムート・マルコ(レッドブル・レーシング コンサルタント)、2025年4月18日(金) F1サウジアラビアGPフリー走行
フェルスタッペン陣営の”最後通達”か
退任の理由は公式には明かされていないが、パドックでは興味深い憶測が上がっていた。メルセデス移籍が取り沙汰されているフェルスタッペン陣営が、ホーナーの権限縮小または更迭をレッドブル残留の条件として提示しているのではないか、というのだ。
複数の要因が今回の決定の背景にあることは確かだろうが、それでもなお、今回の決定の”唐突さ”は注目に値する。サマーブレイクを前にした突然の決定であったことを踏まえると、フェルスタッペン絡みが決定的要因となった可能性は十分にありそうだ。
ホーナーの解任発表を受け、フェルスタッペンのマネージャー、レイモンド・ファルムーレンは声明を通して、レッドブルGmbHの経営陣から事前に通達を受けていたと明かし、決定の理由を説明する責任はレッドブルにあると強調。本人事と距離を保つ姿勢を示した。
新体制への期待と不安
レッドブルGmbHの企業プロジェクト・新規投資部門CEOを務めるオリバー・ミンツラフは、ホーナーに対する感謝の言葉を述べた。
「クリスチャン・ホーナーの20年にわたる傑出した功績に心から感謝したい。彼の絶え間ない献身、経験、専門性、そして革新的な発想は、レッドブル・レーシングをF1で最も成功し、最も魅力的なチームの一つへと押し上げた。クリスチャン、本当にありがとう。あなたはこれからもチームの歴史において、重要な存在であり続けるだろう」
また、フェルスタッペンと角田裕毅もSNSを通して感謝と別れのメッセージを公表した。
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レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表とレッドブル社の企業プロジェクト・新規投資部門CEOを務めるオリバー・ミンツラフ、2023年5月26日F1モナコGP
メキーズは、これまでレーシング・ブルズのチーム代表を務めていたが、今回の人事によりレッドブル・レーシングのチーム代表兼CEOに就任。新たな挑戦に意欲を見せている。
「この1年半、ピーター(CEOのバイエル)とともにレーシング・ブルズを率いることができて、本当に光栄だった。チームの立ち上げに携わり、優れた人材と共に歩んだこの冒険は素晴らしいものだった。チーム全体のスピリットは信じられないほどで、これはまだ始まりに過ぎないと確信している。アランは初期の成功を支え、このチームを知り尽くした要の存在であり、後任として理想的な人物だ」とメキーズは語った。
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ピットレーンからガレージを見守るRBフォーミュラ1のアラン・パーメイン(レースディレクター)とローラン・メキーズ(チーム代表)、2024年6月22日(土) F1スペインGP予選(カタロニア・サーキット)
一方、メキーズの後任としてレーシング・ブルズの新代表に就任したスポーティング・ディレクターのパーメインは次のように述べ、責任の重さに言及しつつも前向きな姿勢を示した。
「チーム代表という役職を引き受けることができて、本当に光栄に思う。私に信頼を寄せてくれたオリバーとヘルムート(モータースポーツ・アドバイザーのマルコ)に感謝している。ピーターと協力し、彼とローランが築いてきた基盤をさらに強化していきたい。これは私にとって新たな挑戦だが、チーム全員が支えてくれると心強く感じている」
混乱必至の新章開幕
今回の人事変更が長期的にどのような影響をもたらすのかは不透明だ。ホーナーという絶対的な存在を失ったレッドブル・レーシングは、更なる崩落へと進むのか、それとも新体制のもとでかつての栄光を取り戻すのか。そして、フェルスタッペンの去就は…。
少なくとも短期的には、レッドブル・レーシングおよびレーシング・ブルズの双方にとって、一定の混乱は避けられないだろう。新体制での船出は決して平坦な道のりではなく、さらに2026年には車体とパワーユニットの両面で大幅なレギュレーション変更が控えている。