表彰台の上でレゴ製の3位トロフィーを見つめるニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP決勝(シルバーストン・サーキット)
Courtesy Of Sauber Motorsport AG

それってどうなの?16年の苦労の末に手にしたF1トロフィーは「LEGO製」ピアストリの素朴な疑問にヒュルケンベルグは…

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2010年のウィリアムズでのデビューから数えて苦節16年、キャリア通算239戦目――F1史上最長の「表彰台なし記録」を持つニコ・ヒュルケンベルクが、ついに悲願の3位入賞を果たした。だが、表彰台で手にしたトロフィーは…レゴブロック製だった。

初めてレース後トップ3会見に出席した37歳の大ベテランに対し、3年目のF1シーズンを送る24歳、2位フィニッシュしたオスカー・ピアストリから、素朴な疑問が寄せられた。

決勝後のドライバープレスカンファレンスに出席するランド・ノリス(マクラーレン)、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)、ニコ・ヒュルケンベルグ(キック・ザウバー)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP決勝(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of Sauber Motorsport AG

決勝後のドライバープレスカンファレンスに出席するランド・ノリス(マクラーレン)、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)、ニコ・ヒュルケンベルグ(キック・ザウバー)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP決勝(シルバーストン・サーキット)

「そうそう、ニコに質問があるんだ」

会見は報道陣の質問にトップ3フィニッシャー達が答える場。ピアストリは「答える側」だが、どうしてもヒュルケンベルグに聞きたいことがあった。

「15年目待って手にしたトロフィーがレゴ製ってどんな感じなの? ほら、レゴでできてるから分解できちゃうし、来週にでも市販されそうだからさ」

16年間待ち続けた栄光の瞬間に、まさかのレゴトロフィー。普通なら落胆してもおかしくない状況だが、2021年9月に愛娘ノエミ・スカイを授かったパパドライバーの答えはひと味、違った。

「レゴは好きだよ! いいじゃん。娘も一緒に遊べるしね!」

この答えには思わずピアストリもニッコリ。この瞬間、ヒュルケンベルクは史上218人目の偉大なF1登壇者ではなく、愛娘のことを思うただの一人の父親だった。

ドライバープレスカンファレンスに出席する3位表彰台のニコ・ヒュルケンベルグ(キック・ザウバー)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP決勝(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of Sauber Motorsport AG

ドライバープレスカンファレンスに出席する3位表彰台のニコ・ヒュルケンベルグ(キック・ザウバー)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP決勝(シルバーストン・サーキット)

レゴトロフィーへの愛すべき反応の背景には、壮絶な16年間の物語がある。2010年にF1デビューを果たしてから、彼は常に「あと一歩」の男だった。ウィリアムズ、フォース・インディア、ザウバー、ルノー、レーシングポイント、アストンマーチン、ハース…数々のチームを渡り歩いても、優勝争いができるマシンには巡り合えなかった。

しかも2011年と2020年から2022年までの3年間は、フルタイムでレースに参戦する機会さえ失っていた。COVID-19による緊急招集で数戦だけ参戦する日々。家族との時間は増えたかもしれないが、プロドライバーとしては苦しい時期だった。

それでも彼は諦めなかった。そして日曜日、19番手スタートという絶望的な状況から、雨という混沌の中で奇跡を起こした。

世界選手権創設75周年を記念して、F1とレゴの商業提携により作られた特別仕様のトロフィーは、2,717個(2・3位は2,298個)のレゴブロックで構成され、重さは2kg(2・3位は1.5kg)。1位から3位、そしてコンストラクターズ賞の4つのトロフィーを、7人のビルダーが210時間以上をかけて制作した傑作だった。

F1世界選手権創設75周年を記念して制作された2025年F1イギリスGPのトロフィーCourtesy Of LEGO

F1世界選手権創設75周年を記念して制作された2025年F1イギリスGPのレゴ製トロフィー

「銀や金でできていたら嬉しかったけど、文句は言わないよ」と苦笑いを浮かべながらも、ヒュルケンベルクの表情は満足そうだった。

きっと今頃、彼の愛娘は世界で最も特別なレゴセットを手にして、パパの偉業を実感していることだろう。それこそが、このレゴトロフィーの真の価値なのかもしれない。

「いつでも明るい面を見なきゃ」ともヒュルケンベルグは語った。37歳のパパが教えてくれた、人生で最も大切なことかもしれない。

世界選手権創設75周年を記念して制作されたレゴ製の3位トロフィー(2,298ピース/1.5kg)を表彰台の上で掲げるニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP決勝(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of LEGO

世界選手権創設75周年を記念して制作されたレゴ製の3位トロフィー(2,298ピース/1.5kg)を表彰台の上で掲げるニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP決勝(シルバーストン・サーキット)


2025年F1第12戦イギリスGPでは、ランド・ノリス(マクラーレン)が3番グリッドから優勝。オスカー・ピアストリが2位でフィニッシュし、マクラーレンが1-2フィニッシュを飾った。3位には自身初となる表彰台獲得を果たしたニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)が続いた。

スパ・フランコルシャンを舞台とする次戦ベルギーGPは、7月25日のフリー走行1で幕を開ける。

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