アイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)とアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)、2025年F1イギリスGP
Courtesy Of Red Bull / Mercedes-Benz

過去6戦で4度目DNF―追突されたアントネッリ、突っ込んだハジャーのF1イギリスGP事故見解

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2025年F1第12戦イギリスGP決勝レースの18周目、隊列がシルバーストン・サーキットのターン9に差し掛かる頃、コース上はマシンが巻き上げる白い水しぶきに覆われ、視界は完全に遮られていた。

その数秒後、アイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)が前方を走行していたアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)のリアに衝突。これにより2度目のセーフティーカー(SC)が導入された。

ハジャーのVCARB 02は側面からウォールに激突。右フロントサスペンションは完全に折れており、そのままリタイヤを余儀なくされた。アントネッリは衝撃によってランオフエリアへ飛び出しながらも走行を継続したが、事故から8周後にマシンをガレージへ戻し、レースを終えた。

視界ゼロという極限のコンディション下で起きたこの一件は、瞬間の判断が命運を分けるF1の世界において、あまりに抗いようのない事故だった。

「どうにもできなかった」苦しい胸の内

「ディフューザーが完全に壊れてしまって、クルマはほとんど走れない状態だった」

アントネッリは、リタイヤの理由をこう説明した。これで前戦に続く2戦連続のリタイヤ。過去6戦では実に4度のリタイヤという、悪夢のような状況が続いているが、ハジャーを非難する言葉はなかった。

「本当に残念だけど、僕にはどうにもできなかった。ただ、アイザックのほうも全然見えてなかったみたいだし、気づいた時にはもう僕のリアに突っ込んでいたんだと思う。何にしても、またノーポイントで終わってしまった。悔しい」

週末全体を振り返って何か得られるものはあったかとの質問に、アントネッリはためらいなく答えた。

「前向きな点を見つけるのは、正直、難しい。とにかく、チームと話し合って、とにかくチームと話し合って、僕個人としてもっと上手くできたこと、チームとして改善できたことを見つけて、次に向けて前に進むしかないね」

一方のハジャーにとっては、開幕戦オーストラリアGPでのフォーメーションラップ中クラッシュによるDNSを除けば、キャリア初のリタイヤだった。

「赤いライトが見えた時には、もう…」

「正直、何も見えなかった。赤いリアライトが見えた時には、もう接触してたんだ。視界は……ゼロだった」

悔しさと困惑を滲ませながら、ハジャーは当時を振り返る。豪雨の中、グリップも効かず、視界は「ほとんどない」どころか「ゼロ」だったという。オンボード映像は、ハジャーの証言を裏付ける。

「もう少し余裕を持ってブレーキを踏んでいれば、とも思うけど、結局のところ、あの状況では何もできなかった」と肩を落とした。

“視界ゼロ”がもたらした不可避の衝突

レース後の聴聞において両者は「雨のために視界が本当に悪く、前方がまったく見えなかった」と口を揃えた。ヴィタントニオ・リウッツィを含む4名のスチュワードは、状況を鑑み、「いずれのドライバーにも非はない」との判断を下した。

アントネッリは、ターン9に向けて通常よりも早めに減速したと認めており、これが衝突の引き金になったとされた。ただ、あの状況下では“見えないものは避けようがない”というのが両者、そしてスチュワードの共通した認識だった。

背水のギャンブル、報われぬ決断

ハジャーはこの日、フォーメーションラップ後にグリッドに着かずピットインし、スリックタイヤに交換するという“賭け”に出ていた。雨が弱まるという読みだったが、実際には雨脚が強まり、完全に裏目に出た。

背景には、フリー走行で安定してトップ9をキープした一方、予選13番手という失意の結果を受けて、何としてもポイントを掴もうとする必死の判断があった。予選後に「ポイント争いに絡めそうか?」と問われたハジャーは、「ノーだね」と即答していた。

「僕らの判断は明らかに間違っていた。でも、こういうコンディションだと、多少のギャンブルは付き物だからね。予選とフリー走行ではまずまずの速さがあったし、次のスパを楽しみに待つよ」とハジャーは力なく語った。

この日、2人のレースを終わらせたのは、ドライバーエラーではなく、「視界ゼロ」という極限状況だった。まさに、抗うことのできない悲劇だったと言えよう。


2025年F1第12戦イギリスGPでは、ランド・ノリス(マクラーレン)が3番グリッドから優勝。オスカー・ピアストリが2位でフィニッシュし、マクラーレンが1-2フィニッシュを飾った。3位には自身初となる表彰台獲得を果たしたニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)が続いた。

スパ・フランコルシャンを舞台とする次戦ベルギーGPは、7月25日のフリー走行1で幕を開ける。

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