
16年の執念、報われた信念―ヒュルケンベルグ「悪いけど、今日は僕の日だ!」最後尾から掴んだ239戦目の奇跡と軌跡
2010年のF1デビューから16年、ニコ・ヒュルケンベルグがついに悲願の初表彰台を獲得した。37歳のドイツ人ドライバーは、シルバーストンで行われた2025年F1第12戦イギリスGPで3位入賞を果たし、F1史上最長となる239戦目での初表彰台という新記録を打ち立てた。
「本当に信じられない。まるで現実じゃないみたいだ!」
パルクフェルメで喜びを爆発させたヒュルケンベルグの目には、16年間の苦悩と歓喜が入り混じっていた。
Courtesy Of McLaren
表彰台に上がるマクラーレンの空力担当テクニカル・ディレクター、ピーター・プロドロモウと2位オスカー・ピアストリ、優勝したランド・ノリス、初の表彰台に上がった3位ニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)、2025年7月6日F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)
最下位からの軌跡、大逆転の初表彰台
この日のヒュルケンベルクは、19番手という最下位(フランコ・コラピントはピットレーンからスタート)からのスタートだった。だが、前日の予選での低迷から一転、混合コンディションのレースで完璧な戦略とドライビングを披露することになる。
「生き残りをかけた戦いだった」と振り返るヒュルケンベルク。だが、ザウバーとの連携は冴え渡っていた。
濡れた路面で開始されたフォーメーションラップでは、6台がグリッドに着かずにピットイン。スリックタイヤに履き替える懸けに打って出たが、ヒュルケンベルグは冷静にグリッドに着き、その6台を一気にかわしてレースを開始。その後も周囲がタイヤ交換で動く中でステイアウトし、10周目には早くも10番手にまで浮上した。
雨脚が強まりつつあった段階で2セット目のインターミディエイトに履き替え、14周目の豪雨に伴うセーフティーカー導入時にはステイアウトを選択。これが功を奏し、5番手にまで駆け上がった。
その後は、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)のスピンで4番手に、さらにDRSの使用が許可された直後の35周目にランス・ストロール(アストンマーチン)をオーバーテイク。遂に3番手に浮上した。
だが最後に、自身よりも1周遅くピットに入ったルイス・ハミルトン(フェラーリ)の猛追を受けることになる。
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
雨のシルバーストン・サーキットでインターミディエイトタイヤを履いて後続のピエール・ガスリー(アルピーヌ)を抑えるニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)、2025年7月6日F1イギリスGP決勝レース
”否定”し続けた表彰台
「最後のピットストップまで、表彰台なんてないって自分に言い聞かせていたんだ」
ヒュルケンベルグはそう明かす。長年、夢見ながらも届かなかった苦い経験が、彼に過度な期待を許さなかった。
「でも、タイヤの履歴が1周浅いルイスに対して、かなりのギャップを築けたぞって無線で聞いた時、『よし、これで一息つける』って思ったんだ。でも彼は猛烈に追い上げてきてね…すごいプレッシャーだったよ」
地元の大歓声を背に猛プッシュするハミルトンとの最終盤の攻防は、まさに手に汗握る展開だった。それでも、ヒュルケンベルクは冷静さを保ち続けた。
「地元のファンの前で彼が全開でプッシュしてくることは分かっていた。でも、『悪いけど、今日は僕の日なんだ!』って心に決めてさ。もう、あとはやるしかなかった」
16年の執念、そして報われた信念
2010年にウィリアムズからF1デビューして以降、フォース・インディア、ザウバー、ルノー、アストンマーチン、そして再びザウバーと、中堅チームを渡り歩いたヒュルケンベルグ。常に実力は評価されながらも、トップチームに手が届かず、表彰台には縁がなかった。
一時はレースシートを失い、“スーパーサブ”として短期参戦に甘んじた時期もあった。それでもル・マン24時間レースでは勝利を挙げるなど、その実力が確かなものであることは、モータースポーツ界において疑いようのない事実だった。
そしてこの日、これまで続いていた238戦連続未表彰台という“不名誉な記録”を、感動的な形で塗り替えた。
「随分、時間がかかった。そうだろ? でも、僕たちにはその力がある、僕自身にもその力がある――どこかでずっと、そう信じていたんだ」
決して諦めなかった16年の積み重ねが、ついに実を結んだ。
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
レース後のパルクフェルメでキャリア初の3位表彰台を獲得した友人ニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)を祝福するマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年7月6日F1イギリスGP決勝レース
ザウバーにもたらした13年ぶりの歓喜
昨季最下位に沈んだザウバーは、ヒュルケンベルクの表彰台獲得によりコンストラクターズ選手権で一気に9位から6位へ浮上。ドライバーズ選手権でも、ヒュルケンベルクは9位にランクアップした。
チームにとっては、2012年日本GPでの小林可夢偉以来、実に13年ぶりとなる表彰台。まさに歴史的快挙となった。
「昨日の予選では文字通り、グリッドのほぼ最後尾という大惨事だったっていうのにね。本当に現実離れした結果だから、全てを受け入れられるには、まだ時間がかかりそうだよ」
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ホスピタリティでキャリア初の3位表彰台を獲得したニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)を迎え入れるチーム代表のジョナサン・ウィートリー、2025年7月6日F1イギリスGP決勝レース
新たなスタートライン
「幸い、これから2週間の休みがあるから、しっかりと楽しんで、きちんとお祝いしてから次のレースに臨むつもりだ」
長く険しかった道のり。その果てに立ったシルバーストンの表彰台は、彼のF1キャリアにおけるひとつの頂であり、また新たな物語の幕開けでもある。
「本当に嬉しいけど、同時に、本当にホッとした、って感じだね」
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キャリア初の表彰台でシャンパンシャワーを楽しむ3位フィニッシュしたニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)、2025年7月6日F1イギリスGP シルバーストン・サーキット (3)
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
決勝後にチームと共に喜びを分かち合うキャリア初の3位表彰台に上がったニコ・ヒュルケンベルグ(キック・ザウバー)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)
2025年F1第12戦イギリスGPでは、ランド・ノリス(マクラーレン)が3番グリッドから優勝。オスカー・ピアストリが2位でフィニッシュし、マクラーレンが1-2フィニッシュを飾った。3位には自身初となる表彰台獲得を果たしたニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)が続いた。
スパ・フランコルシャンを舞台とする次戦ベルギーGPは、7月25日のフリー走行1で幕を開ける。