マクラーレンのピットウォールに座るチーム代表アンドレア・ステラ、2025年F1カナダGP
Courtesy Of McLaren

マクラーレン1-2の裏に”緊迫内戦”「あれはヤバかった」ストレス地獄の舞台裏、タイトル争いは新たな局面に

  • Published:

2025年F1第11戦オーストリアGPの70周にわたる決勝で、マクラーレンは圧巻の1-2フィニッシュを飾った。だが、その栄光の裏では、ランド・ノリスとオスカー・ピアストリがクラッシュ寸前まで攻め合うような、手に汗握るドラマが展開されていた。

「ミリ単位」で回避されたWリタイヤ

レース最大の危機は20周目のターン4で訪れた。ピアストリがノリスに仕掛けた大胆なアタックは、一歩間違えれば前戦カナダGPの”同士討ち”を上回る大惨事となりかねない瞬間だった。

左フロントタイヤをロックさせたピアストリのマシンが、ノリスのリアタイヤにミリ単位で迫る。サーキット全体が息を呑んだ。

「正直、あれは自分でも”ちょっとヤバかったな”って思ったよ」──レース後、ピアストリはこう振り返った。

担当レースエンジニアのトム・スタラードが無線で放った「二度と許されない」という厳しい警告に対しても、「妥当な指摘だよ」と素直に非を認めた。この冷静な自己分析こそが、ピアストリの魅力であり、また強さの源泉でもある。

勝者ノリスが明かす「地獄の序盤20周」

一方で、優勝を飾ったノリスにとっても、この勝利は決して容易なものではなかった。

「あちこちでミスをしてしまったし、何度か彼にチャンスを与えてしまった」と振り返り、「彼はずっとDRSを使ってプッシュしていたから、バッテリーのマネジメント的にも有利だったと思う」と、レース中の厳しい状況を吐露した。

特に序盤の20周は、ピアストリが常に1秒以内に張り付くような状態が続き、ノリスにとっては神経をすり減らす時間だった。

「オスカーをDRS圏外に追い出すために、バッテリーを使い続けなきゃならず、本当に、本当にキツかったよ」と、緊迫した戦いの裏側を語った。

「一瞬のリード」の裏に駆け引き

レースの転換点は11周目に訪れた。ピアストリがターン3でついにノリスをオーバーテイクし、一瞬ながらトップに浮上。だが、その優位は次のコーナーまで保たなかった。

「このサーキットでは、一度抜かれても次のコーナーで巻き返すチャンスがある」──この冷静な分析通り、ノリスは巧みなスイッチバックを決めてターン4で首位を奪還した。

ピアストリも「ターン4まで待つべきだったかもしれない」と後悔を隠さない。一方で「このコースはDRSの影響で、仕掛ける場所とタイミングの判断が本当に難しいんだ。あのときはターン3が最大のチャンスだと感じたんだけどね」と、攻めの意図を明かした。

ピットウォールの「ストレス地獄」

この白熱バトルを見守るマクラーレンのピットウォールでは、チーム代表アンドレア・ステラが「ストレスの連続」を味わっていた。

一方で、「我々は、両ドライバーに勝利のチャンスを与えるべきだと考えている。ただし、今日のように互いに敬意を持って戦ってもらう必要はあるけどね」と語り、チームとしての基本方針を強調した。

「確かに神経をすり減らす場面もあったが、オスカーとランドには全幅の信頼を置いている。ピットウォールにいる間は、できる限り冷静さを保ち、状況を論理的に捉えるよう努めている」

20周目の接触寸前シーンについて、ステラは興味深いエピソードを明かした。

「その後、こちらから少し助言を送ったが、チェッカーを受けたあと、オスカー自身が“あれはやりすぎだった”とすぐに謝ってきた。F1という舞台で限界に挑んでいる中で、あのように自らを省みる姿勢は本当に立派だと思う」

さらに、チームメイト同士の緊迫した攻防については、「F1にとって素晴らしいスペクタクルだった」と評価。「ファンを魅了するレースを届けられたことが何より嬉しい。もちろん、ピットウォールの我々にとっては心臓に悪い瞬間もあったが、それこそがF1に携わる醍醐味なのだ」と語った。

王者撃沈、タイトル争いは「一騎打ち」の構図へ

オーストリアGPを終えた時点で、ドライバーズ選手権は新たな局面を迎えた。首位を走るピアストリと、2位ノリスとの差は15ポイントまで縮小。一方で、1周目のクラッシュにより無念のリタイアを喫したランキング3位、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)とピアストリとの差は、61ポイントにまで拡大した。

「マックスの5連覇の可能性が完全に消えたとは思ってないけど、僕らがこのパフォーマンスを維持できれば、彼が僕やランドに追いつくのはかなり難しいと思う」──ピアストリの自信に満ちた発言が、タイトル争いの新たな局面を物語る。

表彰台の上でシャンパンシャワーを楽しむ優勝したランド・ノリスのマクラーレンのチームメイトで2位フィニッシュしたオスカー・ピアストリ、2025年6月29日(日) F1オーストリアGP(レッドブル・リンク)Courtesy Of McLaren

表彰台の上でシャンパンシャワーを楽しむ優勝したランド・ノリスのマクラーレンのチームメイトで2位フィニッシュしたオスカー・ピアストリ、2025年6月29日(日) F1オーストリアGP(レッドブル・リンク)

次戦イギリスGPでは、ホームレースを迎えるノリスが勢いを加速させるのか、それともピアストリが反撃の牙を剥くのか。今や2025年のタイトル争いは、マクラーレン勢によるチームメイト決戦そのものへと変貌しつつある。

チームメイト同士の戦いは時に危うさを孕む。だが、その緊張感もまた、F1の醍醐味だ。「フェアでありつつも過激」──この絶妙なバランスを、マクラーレンの2人は保ち続けられるのだろうか。特に今後は、1レースごとの結果が初タイトルの行方を決定づけることになるだけに、どう展開するかより興味深い。


2025年F1第11戦オーストリアGPでは、ランド・ノリスがポール・トゥ・ウインを飾り、オスカー・ピアストリが2位と、マクラーレンが1-2フィニッシュを達成。3位表彰台にシャルル・ルクレール(フェラーリ)が続く結果となった。

伝統のシルバーストン・サーキットを舞台とする次戦イギリスGPは、7月4日のフリー走行1で幕を開ける。

F1オーストリアGP特集