
インディ500直前に激震…名門ペンスキーに技術違反処分―相次ぐ不祥事に非難集中、昨年の優勝車にも疑惑
世界三大レースの一つに数えられる伝統と格式ある2025年の第109回インディ500を目前に控え、インディカー界に激震が走った。名門チーム・ペンスキーのジョセフ・ニューガーデンとウィル・パワーの2台に対し、予選において技術規定に違反する改造を施していたとして、最後尾スタートのペナルティが科された。
明らかになった技術違反とその内容
問題となったのは、車体後部に装着されている「アテニュエーター」と呼ばれる、クラッシュ時の衝撃を吸収・軽減する装置だ。本来このパーツは、シリーズが支給した状態のまま使用することが義務付けられているが、チーム・ペンスキーは継ぎ目部分に充填材を追加。シリーズ側はこれを「明確な技術違反」と認定した。
この処理によって空力性能が向上し、特に予選における高速走行時にアドバンテージを得る可能性が指摘されている。
Courtesy Of Penske Entertainment
ウィル・パワーのマシンのアテニュエーターを確認するチーム・ペンスキー、2025年5月18日第109回インディ500予選2日目(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)
ペンスキーの2台は、5月18日の「トップ12予選」セッションを前に、チップ・ガナッシ・レーシングのオーナー、チップ・ガナッシからの抗議を受け、技術検査を経て不正が発覚。両マシンはその場で出走を取り消され、翌19日のプラクティス8を前に、インディカーより以下の厳しい処分が発表された。
- 両車はグリッド最後尾(32位・33位)からスタート
- 予選で得たポイントおよびピットボックス選択権の剥奪
- 各エントリーに対する10万ドルの罰金
- 両者の戦略責任者、ティム・シンドリックおよびロン・ルゼウスキーのレース出場停止
ニューガーデンの戦略責任者であり、チーム・ペンスキーのインディカー部門代表でもあるシンドリックによれば、パワーのクルマは一旦、検査を通過したが、ニューガーデンのクルマに問題が確認された後、最終的には両車ともに検査に通らないと告げられたという。そのため、2台はトップ12予選の出走を取り止めることとなった。
一方で、ペンスキーの3台目、スコット・マクラフリンは、直前のプラクティス中にクラッシュを喫し、そもそもトップ12予選に挑戦することができなかった。だがその後、問題視されたアテニュエーターが押収され、調査の結果、当該部品に関しては適法と確認された。これにより、トップ12予選に参加した中での最下位扱いとされ、決勝は10番グリッドからのスタートとなった。
なお、インディ500において28番手以下から優勝を果たしたドライバーは、過去に一人もいない。3連覇を目指すニューガーデンは32番手、パワーは最下位の33番手からのスタートとなる。
Courtesy Of Penske Entertainment
ウィル・パワー(ペンスキー)、2025年5月19日第109回インディ500 プラクティス8(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)
再発する不正、更なる疑惑も
この件が注目を集める最大の理由は、チーム・ペンスキーが過去にも同様のスキャンダルを引き起こしている点にある。
2024年開幕戦セント・ピーターズバーグでは、ニューガーデンが不正にッシュ・トゥ・パス(加速用の一時的パワーブースト)機能を使用していたとして、優勝を剥奪され、関係者にはレース出場停止処分が科された。
その際も処分対象となったシンドリックとルゼウスキーは、今年のインディ500でも再び出場停止処分を受ける事態となった。2年連続での重大違反に、ライバルチームからは厳しい声が相次ぐ。
AP通信によるとチップ・ガナッシは「我々すべてのチームには、このスポーツの健全性を守る責任がある。ましてやペンスキーのようなチームがこれを損なってはならない」と非難。マクラーレンのパトリシオ・オワードも「素晴らしいドライバーを擁する強いチームなのに、なぜそんなことをするのか理解できない」と語った。
また、マクラーレンのザク・ブラウンCEOは、2年連続で「重大な技術違反」が発覚したことは、偶然ではないとの見解を示し、「チーム内の意思決定プロセスそのものの誠実性に疑問が生じている」と指摘した。さらに、インディカーは技術検査能力を強化すべきだと主張した。
Courtesy Of Penske Entertainment
ジョセフ・ニューガーデン(ペンスキー)の2号車シボレー、2025年5月19日第109回インディ500 プラクティス8(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)
今回の”ペンスキー・ショック”は、更なるスキャンダルに発展する可能性もある。一部の報道では、今年4月のオープンテストやプラクティス、予選初日にも、同様の改造が施されていたと指摘されており、事態はより根深い構造的問題へと波及しつつある。
AP通信は、問題が発覚した翌19日にインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)内の博物館を訪れ、展示されていたニューガーデンの2024年インディ500優勝マシンを確認。「今回の問題と同じ違法な改造が施されていた」と報じた。
エイベル、予選落ちの妥当性
ペンスキー勢2台の不正は、ジェイコブ・エイベル(デイル・コイン)の予選落ちの妥当性に疑問を投げかけるものでもある。
ルーキーのエイブルは、不正発覚後の18日に行われた「ラストチャンス予選」で、チームメイトのリーナス・ヴィーケイとの劇的かつスリリングなバトルの末に敗れ、予選落ちを喫した。
ブラウンは「2台を最後尾に下げるという判断には賛成するし、評価もしているが、初日予選の時点で果たして本当に適法だったのかという疑問は残っている」と指摘した。
「もし土曜の予選に、技術的に違反のあるマシンが出走していたのであれば、ジェイコブ・エイベルと彼のチームが弾かれたのは極めて不公平だ」
Courtesy Of Penske Entertainment
ラストチャンス予選で予選を落ちが確定したジェイコブ・エイベル(デイル・コイン)、2025年5月18日第109回インディ500予選2日目(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)
チーム・ペンスキーは声明を発表し、シリーズ側から科されたペナルティを「受け入れる」と表明。あわせて、今週中にインディ500に向けた「人事に関する追加発表」を行う予定であることを明らかにした。