チームメイトのランド・ノリスを追うオスカー・ピアストリ(マクラーレン)、2025年3月16日(日) F1オーストラリアGP決勝(アルバート・パーク・サーキット)

今季F1の火種は「マクラーレン式オーダー」か?”待った”が左右したピアストリ対ノリスの攻防

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2025年F1開幕戦オーストラリアGPで、マクラーレンは久々に「チームオーダー」という禁断のカードを切った。厳密には「一時停止ボタン」を押しただけかもしれないが、オスカー・ピアストリの無線を聞けば、それが彼にとってどれほど納得のいかないものだったかは明白だ。

ランド・ノリスが優勝し、ピアストリがスピンによって9位に沈んだことで、リザルト上、両者の間には大きな差がついた。しかし、実際には予選からレースの44周目まで、2人は互角の戦いを繰り広げていた。

さらに、幾つかの段階でピアストリの方が明らかに速かったことを踏まえると、今回の戦いは、チームオーダーによって左右されたと言えなくもない。

マクラーレンは昨シーズン、チームオーダーをほとんど使用せず、ノリスのタイトル争いにおけるサポート不足を指摘されていた。しかし、2025年シーズンの開幕戦ではその方針を変更。レース中盤に両ドライバーへ「ポジションキープ」の指示を出した。

ドライバー集合撮影に臨むマクラーレンのオスカー・ピアストリとランド・ノリス、2025年3月16日(日) F1オーストラリアGP決勝(アルバート・パーク・サーキット)Courtesy Of McLaren

ドライバー集合撮影に臨むマクラーレンのオスカー・ピアストリとランド・ノリス、2025年3月16日(日) F1オーストラリアGP決勝(アルバート・パーク・サーキット)

ピアストリ vs ノリスに「待った!」

ピアストリはレース開始直後、マックス・フェルスタッペンに2番手の座を奪われたが、17周目にポジションを奪取。チームメイトのノリスを猛追した。母国オーストラリアのファンは地元ヒーローの逆転劇に胸を躍らせていた。

しかし、そんな最中、マクラーレンのピットウォールから無線で「ポジションキープ」の指示が飛んだ。これは、ピアストリがまさにノリスのDRS圏内に入った直後の29周目のことだった。

マクラーレンはその理由について、「バックマーカーをクリアするため」と説明した。当時、ノリスとピアストリの前にはハースの2台が走行中で、チームは安全策としてバトルを控えるよう求めたという。

しかし、ピアストリがこの指示に不満を持ったことは明らかだった。何しろ、ハースを攻略した後も指示が解除されなかったのだ。

ピアストリは無線で「まぁ、僕のほうが速いからいいけど」と返し、ハース勢を悠々と周回遅れにした後、「トラフィックは抜けたけど、まだこのままなの?」とチームに尋ねた。返ってきたのは「まだだ」の一言だった。ピアストリは「僕のペースは分かってるだろ?」と不満をにじませた。

そして迎えた32周目、ピアストリはターン6でわずかなミスを犯す。これがピットウォールの”解除スイッチ”になったのか、マクラーレンはその直後、「自由にレースしていいぞ」と伝えた。しかし、フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)のクラッシュによりセーフティーカー(SC)が導入されたため、バトルは強制的に一時停止となった。

全車がスリックに履き替え、レースは41周目にリスタートを迎えた。ノリスはピアストリの接近を許さずリードを守った。豪雨が到来したのは、この3周後のことだった。この時の位置関係が二人の明暗を分けた。

ノリスにとっては、ちょうどコーナーを抜けたタイミングであったため、軽いスライドで事なきを得たが、ピアストリはコーナーの真っ只中で、フルスピンを喫して芝生に飛び出してしまった。これで戦線離脱。ピアストリは「僕自身のミス」と厳しく評価したが、もし2人の位置が逆であれば、結果も同じく逆になっていた可能性がある。

ブラウンのホンネ、ミスに安堵

マクラーレンのザク・ブラウンCEOは「Channel 4」に対し、チームオーダーはあくまで「周回遅れを安全にクリアするための一時的な措置」であり、二人が競い合うことを禁止するものではないと説明した。しかし、その一方で、ピアストリがミスをしてノリスとの差が広がったことに「正直ホッとした」と本音を漏らした。

「指示を解除した後、オスカーのホイールがグラベルに乗ったのを見て、正直ホッとしたよ。『ああ、これで接近しすぎることはないな』ってね。もちろん、彼らはレースをすることが許されていたが、あのままなら残りの周回はずっとハラハラしっぱなしだっただろうね」

不可解な「ポジションキープ」―どこまで続く?

やや不可解な形となった今回の「ポジションキープ」。マクラーレンは今後のレースでも、バックマーカーを処理する必要があるたびに”バトル禁止モード”を発動するのだろうか?

シーズンは始まったばかりだが、「マクラーレン式チームオーダー」は今年のF1を騒がせる”火種”のひとつになるかもしれない。

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