我々は新生アルファタウリをどう呼ぶべきか? ”史上最悪”のF1チーム呼称を回避する「3つ」のアイデア
予想されていたことではあるが、スクーデリア・アルファタウリ改め「ビザ・キャッシュアップRBフォーミュラ1チーム(Visa Cash App RB Formula One Team)」が2024年のF1に誕生した。
各方面から批判続出の「Visa Cash App RB」
拝金主義的な雰囲気をまとい、かつ冗長で、チームの本体名、つまりチーム・アイデンティティが希薄なこのエントリーは早速、各方面で厳しい批判に晒された。それはザウバーが名乗る「Stake F1 Team Kick Sauber」に対するそれの比ではない。
Visa Cash App RBというチーム名について英『The Race』は「F1史上最悪の名前」で「レッドブルとF1全体にとって恥ずべき」と酷評し、同じくイギリスの『Race Fans』は1975年からその名でグリッドに立ち続けているウィリアムズを引き合いに『2073年に「Visa Cash App RB」がまだ存在している確率を誰か教えてくれないだろうか?』と皮肉った。
英紙『テレグラフ』は「ナンセンス」であり「F1ファンに好意的に受け入れられる可能性は低く、嘲笑が起こるだろう」と記し、元F1ドライバーのギド・ヴァン・デル・ガルデは「F1チームには相応しくない」とSNSに綴った。
ドライバーがインタビューに際して毎回、スポンサー名を口にするアメリカなどの一部の国を除いて、アルファタウリの新しい名前は概ね批判的に受け止められている印象だ。
バーニー・エクレストンが今もF1を牛耳っていたならばオーストリアのザルツブルクに電話をかけ、レッドブルに再考を呼びかけたかもしれないが、今のF1のオーナーは米国本拠のリバティ・メディアである。
新生アルファタウリをどう呼ぶべきか
F1競技規定には、スポンサー名を全面に押し出すことを制限するといったエントリー名に関する禁止条項はなく、国際自動車連盟(FIA)は「Visa Cash App RB Formula One Team」での登録を許可した。
だが、ファンやメディアがレッドブルの新しいセカンドチームをどう呼ぶかは別の問題だ。我々は新生アルファタウリをどう呼ぶべきなのだろうか? 3つの候補がある。
一つは、なるべく目立ちたくないと言わんばかりにチーム名に掲げられている「RB」だが、固有名としてはあまりに弱く、全く知らない人が目にした場合、怪訝な顔を浮かべること請け合いだ。ただ、文字数が制限される記事の見出しなどには良いかもしれない。
「RB」は角田裕毅とダニエル・リカルドがドライブするシャシー名にも使われる事が決まっているが、レッドブル・レーシングのシャシー名(例えば2024年型マシンはRB20)と混同しそうで少し気がかりだ。
もう一つは「V-CARB」だ。これは各単語の頭文字を取った略語で、チーム内ではこの呼称が用いられているというが、こうしたアルファベットの単なる羅列文字は日本人には受け入れられそうにない。
3つ目は「レーシング・ブルズ」あるいは「ブルズ」だ。個人的にはこれが最もエレガントな解決策に思われる。「レーシング・ブルズ」はチームの運営母体の名前だ。
新たなチーム名と合わせて運営企業名は「Scuderia AlphaTauri S.p.A」から「Racing Bulls S.p.A」に変更された。「S.p.A」は「Società per Azioni」の略称で、日本語では「株式会社」に相当する法的な企業形態を指す。
”希薄なアイデンティティ”がアイデンティティ
レッドブルの姉妹チームであるアルファタウリ(旧トロ・ロッソ)は元より、グリッドの中でアイデンティティが最も希薄なチームだが、レッドブルは2024年のチーム新時代に向けて意図的にこれを推し進めた。
これは「VISA」と「Cash App」とは対照的に、目立たぬグレーで表現されたチームの新しいロゴの「RB」部分にも良く表れている。
当初はレッドブルが所有するイタリアのセカンドチームという事で「トロ・ロッソ(”レッドブル”のイタリア語訳)」と呼ばれていたが、後にレッドブル傘下のファッションブランド名を取って「アルファタウリ」と改称された。
既にレッドブル・レーシングがF1グリッドに存在する以上、ファエンツァのチームは「レッドブル」をプロモーションする必要がない。また、レッドブルGmbHの製品は「レッドブル」のラベルが付いた飲料のみで、「アルファタウリ」を除けば「レッドブル」以外に宣伝・広告が必要なブランドはない。
スポンサー名が前面に押し出された「Visa Cash App RB」という新たなチーム名の背景には、スポンサーマネーの最大化と合わせてこうした事情があるものと考えられる。
だがロゴにせよチーム名にせよ、実際はどうあれ、レッドブルが旧アルファタウリをレーシングチームというよりは単なる広告販売枠と見なしているように感じさせる。それが故にF1を、ファエンツァのチームを愛する人々の反発を余計に買っているのではないだろうか。
ファンがその受け止め方について困惑しているように、こうしたチームで働く人々もまた、何に誇りを持って仕事に取り組めば良いのか戸惑っているかもしれない。
チーム名にスポンサー名が付くのは珍しいことでも新しいことでもない。「アストンマーチン・アラムコ・フォーミュラ1チーム」然り「BWTアルピーヌF1チーム」然り、ある種の必要悪ではあるが、チーム・アイデンティティが希薄な「Visa Cash App RB」はF1が求めている新たなファンをも混乱させるのではないだろうか。