角田裕毅のF1キャリア「変革」の可能性を指摘する声…鍵となる2つの要素、後押しとなり得るリカルドの存在
ダニエル・リカルドからの学びによって「より幅広いドライビングテクニック」を身につけ、感情を制御できるようになれば、角田裕毅が自身のF1キャリアを「変革」させる可能性があるとの指摘がある。
レッドブル昇格という観点での角田裕毅のキャリアの見通しは決して明るくはない。パドックでは、シート喪失懸念が絶えないセルジオ・ペレスの後任最有力候補はリカルドとの見方が多く、角田裕毅はこの点において積極的な意味合いで名前が挙がる事はない。
しかしながら、スプリントと決勝の両レースで連続入賞を飾り、2日間で計5ポイントを上乗せしたサンパウロGPでの活躍を経てF1ジャーナリストのエド・ストローは英「The Race」への寄稿記事の中で、角田裕毅はマックス・フェルスタッペンの次期チームメイト候補争いにおける「単なる脇役以上」を演じていると指摘した。
リカルドは骨折からの復帰2戦目となったメキシコGPで予選4番手を刻み、レースではチームにとっての今季最上位となる7位フィニッシュを飾った。対して角田裕毅は、パワーユニット超過による後方スタートにも関わらず力強いペースを発揮したが、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)との接触により入賞のチャンスを逃した。
レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はリカルドに、8度のグランプリウィナーとしてパドックから広く認められていたレッドブル時代当時の姿を重ね合わせた。
メディアはこぞって、1周目の事故によりリタイヤしたペレスと、成功を収めたリカルドとのコントラストを描いた。レッドブルのシートに関するストーリーは角田裕毅不在のままに語られた。
だがその1週間後。角田裕毅はブラジルで雪辱の走りを披露する。
確かにリカルドは1周目の多重クラッシュの影響で1ラップダウン扱いとされたため、結果で角田裕毅を上回る可能性はなかったが、前日までの段階で既に、予選、スプリントの両方でチームメイトの後塵を拝していた。
ストローが注目しているポイントの一つは、角田裕毅がドライビング、特にブレーキングについてバリエーションを増やそうと考えている点だ。
リカルドがメキシコで「傑出」した要因としてストローは、セットアップによってAT04のフロントエンドが強化された結果、早めにブレーキをかけてコーナリング速度を維持し、ミッドコーナーでクルマの向きを変えるというリカルドのスタイルが活きたためだとし、対照的に角田裕毅は、ブレーキングを遅らせてコーナーをV字ターンしようとする傾向があると指摘した。
AT04は今シーズンを通じて、低中速コーナーへの進入に際してブレーキングを遅らせた際に不安定になるという課題を抱えていた。ストローは「メキシコでのリカルドの走りは、ブレーキング・アプローチの変更によって、これを緩和できる可能性がある事を示した」と指摘する。
自身のブレーキング・スタイルについて角田裕毅は、リカルドとは「かなり違う」と感じているが、現時点でそれが上手く機能していないとは考えておらず、今すぐ変える必要があるとも考えていない。
ただ、来季型マシンを含めて将来的にどのようなクルマに乗ったとしても対応できるよう「もう少し幅広い技術」を身に着けたいと考えている。
ストローは「ブレーキング・テクニックを調整する事は、特定のコーナーにおいて、または異なる特性のクルマに乗った際、彼に利益をもたらす可能性がある」としたうえで、単にラップタイムだけでなく、タイヤマネジメントにも役立つ可能性があると指摘した。
ストローが注目しているもう一つのポイントは感情のコントロールだ。これは角田裕毅本人が注力している部分でもある。
ストローは、シーズンを通して力強いパフォーマンスを発揮し続けている事から、角田裕毅がリカルドから学べる事は「些細なこと」だけだと考えている。仮に差があったとしても、ほんの僅かに過ぎないというわけだ。
ただ「大局的に見て重要なのは、ステリングを握っている最中に冷静さを保ち、そのスピードを結果に繋げること」だとして、メキシコでの接触と、ブラジルでのレース中にタイヤをコース外に落としてポジションを落とした件に触れた。
本人が認めている通り、これらのミスがなければ遥かに多くのポイントを持ち帰ったであろう事に疑いはない。
ストローは「ツノダがリカルドから得た教訓を一貫して活かし、ドライビングの基本部分を細やかに調整し、テクニックの幅を広げることができれば、たとえそれがレッドブルでなくても、F1における自身の可能性をフルに実現する可能性が遥かに高まるだろう」と指摘する。
そして「もし来年、ツノダがリカルドに対して優位に立てば、ペレスがもう1年レッドブルに留まると仮定した場合、2025年にレッドブルに移籍するとのリカルドの望みを打ち砕くことになるのは間違いない」として、次のように続けた。
「彼に必要なのは、この兆候を現実のものとして実現し、一貫して信頼のおけるドライバーとして頭角を現すことだ。彼のスピードが疑われた事は一度もなく、改善の余地はあるが、重要なのは感情的な面を完全にコントロールできるかどうかだ」
「ツノダは自身が何をすべきか分かっている。もしそれができれば、レッドブルの(シート争いにおける)一角を占める可能性がある」
ストローが可能性を見出しているのは確かだが、現実にそれが起こるかどうかはドライバー本人以外の要素も複雑に絡む事になる。「だたそれはまだ、壮大な仮定の話だ」とストローは締め括った。