鬼才ニューウェイをして「過去40年で最大の変化」と言わしめるグランドエフェクトカー復活の2022年F1レギュレーション
2022年に導入される新時代規制について、F1で41年のキャリアを誇る空力の鬼才エイドリアン・ニューウェイは、自身がこれまでに経験した中で最大のレギュレーション変更だと考えている。
メルセデスが一貫して支配的な競争力を誇ってきたV6ハイブリッドの8シーズンを経てF1は、「より良いレース」の実現を目標に悪名高きダーティーエアーを駆逐するための新たなレギュレーションを2022年に導入する。
そんな次世代シャシーの目玉の一つは、限定的ながらもグランド・エフェクト・カー、日本語で言うところの地面効果を最大化していた1980年前後のF1マシンの空力特性が復活する点にある。
1977年のロータス78が先鞭をつけたグラウンド・エフェクト・カーはその性質上、車高を常に一定にする必要性からサスペンションが極限にまで固められていた。
そのためドライバーへの身体的要求は非常に厳しく、また、デブリや縁石に乗り上げる等、何らかの理由によってマシンと地面との距離が変化してしまうとダウンフォースが一気に失われてしまうため、安全性という点で大きな問題を抱えていた。
結果、ジル・ヴィルヌーヴの事故死などを経て1983年のフラットボトム規定導入によってグラウンド・エフェクト・カーは消滅。以降のF1マシンの空力特性は大きく変化した。
レッドブル・ホンダのチーフ・テクニカル・オフィサーは来季の規制についてチームのポッドキャストの中で「1982年末にかつてのグランドエフェクト・ベンチュリーカーが禁止されて以来、単一のレギュレーション変更としては過去最大のものと言えるだろう」と語った。
「あらゆる意味でこれは莫大な変化だ。変わらないのはパワーユニットだけで、他に全てが一新される」
先に”復活”という言葉を使ったが、グラウンド・エフェクト・カーが禁止された後もF1チームはグラウンドエフェクトを利用し続けている。ただ来季はアンダーフロア・トンネルの採用によって従来以上にグランドエフェクトを利用する事ができる。
新時代の主導権を巡るという点で来シーズンに向けた開発競争が熾烈であるからといって、何もそれはメカニカルコンポーネントの大部分がホモロゲートされた今季のそれが穏やかだというわけではない。
前季型以前とは打って変わり、あらゆるタイプのサーキットで高い競争力を発揮する2021年型レッドブル・ホンダRB16Bのパフォーマンスを削ぐべく、メルセデスは国際自動車連盟(FIA)に対してウイング剛性に厳しい目を光らせるよう働きかけた。
いわゆる”フレキシブル・リアウイング”に分類されるこの疑惑は、技術指令書の発行によってフランスGPの週末より厳格な負荷テストが実施されるに至った。
この新たなルールに対応するためレッドブル・ホンダは予算上限が科せられる中、ウイングの再設計と製造に日本円にして約5,500万円程度の予定外の費用負担を強いられたが、エイドリアン・ニューウェイはメルセデスのこうしたアクションを”褒め言葉”として捉えている。
「トップチームが直近のライバルの動向にしか興味を持っていないというのは全く以て正しい指摘だ。後方のチームが何をしているかなんて、特に気にすることはない」
「フレキシブルリアウイングを例に取って見てみよう。我々はそれを不当に利用していたチームではなかったが、アルファロメオと、恐らく私が考えるにもう一つ別のチームが全く同じ事をしていた」
「その後、メルセデスがその事について騒ぎ始めたわけだが、彼らが懸念していたのはアルファではなく、我々がその恩恵を受けているかどうかという事だった」
「ある意味、褒め言葉のようなものだよ」
エイドリアン・ニューウェイは「このように例えるのはあまり好きではない」と断った上で、競争力を高めるために手段を選ばないという点でメルセデスとの今季の争いを「戦争」と評した。