恐怖、絶望、安堵…妻マリオン・グロージャンの長く感動的なメッセージ…夫への想いと救助隊への感謝、ビアンキ家への敬意
マリオン・グロージャン(旧姓:マリオン・ジョリス)にとって、これほど辛く険しい1日がこれまでにあっただろうか? 夫ロマンはバーレーンでの日曜日、近年のF1において最も衝撃的かつショッキングなクラッシュの当事者となった。
ロマン・グロージャンはF1第15戦バーレーンGPの1周目にダニール・クビアト駆るアルファタウリAT01に衝突し、時速221kmという高速のままに鉄製ガードレールに激突。53Gと見積もられるその衝撃によってハースVF-20は真っ二つに分断され、彼が座っていたモノコックがガードレールに食い込んだ状態で爆発的な火災が辺りを覆った。
恐怖と絶望の28.7秒
この時、最悪の事態が脳裏によぎらなかった者はいない事だろう。この時の映像は世界中のモータースポーツファンを戦慄させたが、グロージャンが覚醒状態にあった事、ステアリングが破壊されていて脱出が容易であった事、ヘイローがガードレールから頭部を守った事、勇敢なレスキューチームが控えていた事などなど、様々な奇跡が重なった。
インパクトと炎上から9.7秒でメディカルカーが到着すると、22.4秒後には本格的な消火活動が始められ、グロージャンは28.7秒後に自力でクルマから脱出。メディカルカードライバーのアラン・ファン・デル・メルヴェとイアン・ロバーツ医師のメディカルカーチームの助けを借りて現場を離れた。
この28.7秒はマリオン・グロージャンにとって、永遠にも等しい恐怖と絶望の瞬間だった。
それでもなお、地元バーレーン防衛病院での検査結果が出るまでは、安堵など出来ようはずもなかった。幸いにも夫ロマンは、両手の甲の火傷のみで事なきを得て、事故から2日後の12月1日(火)に退院。第16戦サクヒールGPではピエトロ・フィッティパルディに代役を務めた。
夫への想いと救助隊への感謝、ビアンキ家への敬意
劇的な事故から一夜明けた月曜、ロマンとの間に3人の子を持つ母であり妻であるマリオンは、夫の命を救った救助チームに感謝の言葉をつむぎ、ヘイロー導入の契機となったジュール・ビアンキの家族への敬意を表すため、長く感動的なメッセージを綴った。
飛散するデブリなどからドライバーの頭部を守るための装置「ヘイロー」は、2014年F1日本GPでのジュール・ビアンキの事故死を機に導入への機運が高まり、2018年にF1に導入された。
「もちろん、昨夜は寝ていません」
「正直、何を書けば良いのか分かりませんが、書くべきだという事だけは分かっています」
「自分の想いを表現したいのですが、とにかく今は言葉が出て来ないのです。こう言うと夫は笑うでしょうね。彼は私がどれだけお喋りかを知っていますから」
「それに、どんな写真を投稿したら良いのか迷いました。炎の写真? それとも救世主の腕に抱かれた彼? それとも車の残骸?」
「最終的に私はこの一枚を選びました。ちょっと馬鹿げた写真ですが。彼がGP2タイトルを獲った時のTシャツを着ているふたりの写真です。今でもたまに寝るときに着てるやつ」
「書かれている文字が”チャンピオン”ではなく”スーパーヒーロー”の方が良かったんですけどね…でも必要ならオーダーメイドで作ります。子供たちに説明するにはその方が分かりやすいですから」
「何よりもまず子供たちを守るため、私は昨夜Twitterで有用な言葉、差し迫った言葉を使い、彼を守る「愛の盾」に言及しました。そして今日、私はこの感情を表現するために、新たに別の表現とフレーズを見つけ出さなければなりません」
「メディカルカーの方々への感謝の言葉を」
「ジャン・トッドと彼の揺るぎない人間性に向けた友情の表現を」
「愛情と親切心を以て私達を支えてくださった皆様への感謝の気持ちを」
「ジュール・ビアンキのご家族に、彼の父フィリップに、そしてジュールズ本人に感謝します。温かい言葉をくれたケビン・マグヌッセン、気配りに溢れたキャナル・プリュス(フランスのテレビ局)のチームの皆さんにも。お名前を上げ忘れた方がいらしたらごめんなさい」
「子供たちにも感謝します。夫に炎から這い出る力を与えてくれたのは彼らでした。そして夫の勇気、決意、強さ、愛情、おそらくは彼を生かしてくれた肉体的なトレーニングに感謝します(キム、ダン、みんな大好き)」
「奇跡は1度ではありませんでした。幾つも奇跡が彼の命を救ってくれたのです。みんなを愛しています」
グロージャンは長年のパートナーでありフランスのテレビ局「TF1」のモータースポーツ記者を務めていたマリオンと2012年6月に籍を入れた。