風洞
風洞とは、巨大な扇風機のような物で人工的に風を発生させ、それを模型にあてて空気の流れ方などを再現・観測する装置ないしは施設のこと。風洞を用いたこのような実験は、風洞実験あるいは風洞試験と呼ばれる。
F1においてはダウンフォースの増強並びに空気抵抗(ドラッグ)低減のための空力開発に用いられる。一般には航空機や鉄道、量販車などの高速で移動するものや、高層ビル・橋など風の影響を受け易い建築物の設計の際などに使われる。
F1マシンにおいては、ダウンフォースと空気抵抗との間に発生する諸問題を10%改善すれば1秒のゲインがあると言われる。
スケールモデルに当てる気流は乱れがなく綺麗である必要があるため、発生させた空気を一度タービンブレードを通すことで層流へと変えて毎秒50mほどの速さでモデルに向けて噴出させる。これは走行中のトラックが横転したり、鉄骨の構造物が変形する程の威力である。
ザウバーの風洞施設
アルファロメオ(ザウバーF1チーム)のスイス・ヒンウィルにある風洞設備は世界最先端とされ、チーム創設者のペーター・ザウバーのご自慢の一品だ。実車の60%の大きさのモデルを使っての実験が実施できる。
ザウバーはBMWとの提携時代に十分な投資を受け、風洞とCFD施設を世界最先端にまで高めた。そんなザウバーの風洞に匹敵するのはトヨタだ。実験データの解析にかかる時間がザウバーのものより短いとされる。フェラーリはF150の開発のためにトヨタの風洞で実験していた。
ホンダのフルサイズ風洞
2022年3月に米国オハイオ州イーストリバティ市にオープンしたホンダ・オートモーティブ・ラボラトリーズ・オブ・オハイオ(HALO)は、エアロダイナミクス、空力音響、レーシングカー特性評価という3種の試験機能を1箇所に集約した最先端の風洞で、アキュラを含むホンダの市販車開発のみならず、インディカーやIMSA等のレーシングカーの開発にも使われる。
競技車両と量販車の両方のテストに対応するために、風洞には交換可能なモジュール式のグランドプレーンシステムが採用された。市販車開発には5本ベルトのローリング・ロード・システムを、高性能スポーツカーやレース専用車両には1本のワイドベルトを使用する。切り替えは4時間ほど。
ファンの直径は約7.9mで、最大で時速310kmを風を発生させる。車両が乗せられるターンテーブルは180度回転(殆の風洞は+ /-15度しか回転しない)が可能で、空力音響解析用に502個のマイクとカメラが周囲に配置される。これにより、車外と車内のどの位置で風切り音が発生するかを測定する事ができる。
風洞施設の価格
レーシングカー用で100%モデルが使えるもので、400~800億円。50%風洞だと100億円に収まるあたりの価格帯のようだ。トヨタの風洞なんかはレンタルに出しているようだが、200~500万円/時間ほどのようである。
風洞にて設計されたマシンの実際のパフォーマンスを測るための道具・デバイスには、エアロレイクやピトー管、フロービズ等がある。
選手権順位に応じた空力テスト制限
2021年より、前年のコンストラクター選手権順位に応じた空力テスト制限が実施された。弱小チームほど翌年のマシン開発でより多くの風洞実験とCFD(数値流体力学)が許可され、相対的にアドバンテージを得る事が出来るという仕組みだ。これはスライドスケール空力テスト規制(ATR)と呼ばれる。
従来は空力開発に制限はなく、一部のチームはコンマ1秒のゲインのために24時間年中無休で風洞を稼働させ続けていたが、これには莫大な資金が必要で、小規模資本チームとのパフォーマンス格差を生み出す一因となっていた。コストキャップの導入に合わせて更に制限が加えられた。
これは翌年の開発に関わるものを対象とするもので、例えば2021年シーズンに関して言えば制限の影響が出るのは2022年となる。
前年順位 | 2021年 今季比テスト可能量 |
2022-25年 今季比テスト可能量 |
---|---|---|
1位 | 90% | 70% |
2位 | 92.5% | 75% |
3位 | 95% | 80% |
4位 | 97.5% | 85% |
5位 | 100% | 90% |
6位 | 102.5% | 95% |
7位 | 105% | 100% |
8位 | 107.5% | 105% |
9位 | 110% | 110% |
10位以下 | 112.5% | 115% |