KERS運動エネルギー回生システム
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KERS

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KERSとは、ブレーキング時に発生する熱エネルギーを回収し加速時のホイール駆動に再利用する装置のこと。運動エネルギー回生システム。Kinetic Energy Recovery System「カーズ」と発音する。搭載は義務付けられておらず、各チームの判断に任されていた。

2014年のレギュレーション改定によって、マシンの動力源が自然吸気エンジンからパワーユニットへと変更されたことにより、KERSはERSへと取って代わられた。

KERSの能力

  • 出力は約80馬力(60kW)
  • ラップタイムにして0.3秒~0.5秒のアドバンテージ

回生されたエネルギーを使用した場合のアシスト能力は上記のとおりである。効果的に使用できればかなりのアドバンテージとなるが、KERSが導入された2009年には数チームが搭載するも、翌2010年には全てのチームが搭載を取りやめてしまった。何故であろうか?

KERSのデメリット

その理由は”重量”にある。

当時F1マシンの重量はレギュレーションによって605kgに制限されていた。KERSは凡そ35kgもあったため、KERSをそのままマシンに搭載してしまうと規定重量を超えてしまう。

通常F1マシンには60~70kgのバラストと呼ばれる重りを積んでいる。バラストはマシンバランスを最適化するためにマシンに積まれる。重心は低い方が好ましいのでバラストはマシンの低い場所に配置される。

KERSを搭載するにはバラストを半分程度まで減らすことになり、重心上昇安定性・バランス・運動性能の低下を招くことになる。KERSを搭載した場合のアドバンテージは約0.3秒/周、これとKERSを搭載しない場合の高いマシンバランスとを天秤にかけた時、KERS搭載はデメリットの方が多かったのである。

カーズシステムの写真
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このような理由によって、KERS導入当時は搭載しないチームがあったり、サーキット毎に搭載したりしなかったりという事態になった。2009年のドライバー・コンストラクターのダブルタイトルを獲得したブラウンGPも、2位となったレッドブルも、この年は1度たりともKERSを搭載していない。

そのため2011年のレギュレーションによって、KERS搭載のメリットを上げるために重量規定を640kgに上げることとなり、ようやくKERSに光が当たるようになった。

バッテリー方式とフライホイール方式

一言でKERSと言っても、その仕組は大きく分けてバッテリー(電気)式とフライホイール(機械)式の2つがあり、各々で回収したエネルギーの保存場所が異なる。

バッテリー方式KERS

ブレーキング時の運動エネルギーでモーターを回転させバッテリーに蓄え、必要なときにホイールの駆動力として放出。主流となったのはこちらのバッテリー方式。トヨタのプリウスなどのハイブリッド乗用車にも似たようなシステムが使用されている。

フライホイール方式KERS

ブレーキング時の運動エネルギーでフライホイールを回転させ、追加の馬力が必要なときに回転するフライホイールをホイールと組み合わせて出力を増加させる。2009年にウィリアムズが独自のフライホイール方式KERSの試行錯誤を繰り返していたが結局実戦投入されることなくお蔵入り。

他カテゴリへの供給

ウィリアムズは市販車への応用を念頭にフライホイール方式のKERS開発を進めていたこともあり、第80回ル・マン24時間レース(2012年)のウィナーであるアウディR18 e-tron quattroにはウィリアムズ製KERSが搭載されていた。

これに際し、ウィリアムズのマネージングディレクターを務めるイアン・フォーリーは「私達が開発したフライホイール技術は、誕生以来様々な目的のために使用されています。モータースポーツは私達にとって最高の実験場なのです。革新的なハイブリッドシステムはエコに貢献するだけでなく、レースカーのパフォーマンスすらも後押しできるのです」とコメントし、”お蔵入り”を擁護した。