マクラーレンのダニエル・リカルド、2021年5月2日F1ポルトガルGPにて
Courtesy Of McLaren

名手ダニエル・リカルドに一体何が…ルノー移籍で苦労せずマクラーレンで苦しみ続けている理由

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僚友ランド・ノリスが印象的なリザルトを量産し続けているが故に、ダニエル・リカルドの苦労はより際立って見える。セバスチャン・ベッテルやセルジオ・ペレスら他の移籍組が徐々に新しいクルマと環境に適応しつつあるのとは対照的に、32歳のオーストラリア人は今も光明を見いだせていない。

リカルドはレッドブル在籍時、今季のポイントランキングをリードするマックス・フェルスタッペンをチームメイトに一歩も引かぬパフォーマンスを示し続けた。2017年はドライバー選手権でこれを打ち負かし、年間6度ものメカニカルトラブルでのDNFを余儀なくされた2018年も、それを除けば遜色ないペースを刻み続けた。

そんなグリッドの中でも間違いなく5本指に入ると目されるリカルドのマクラーレンでのデビューイヤーは、これまでのところ非常に厳しいものになっている。

ノリスは10戦を終えて全ての週末で予選Q3進出を果たし、決勝レースでは3位表彰台を3度獲得して平均リザルト4.55位とミッドフィールドを席巻しているが、リカルドはQ3進出3回もさることながらQ1敗退1回と予選で大いに苦労し、決勝でも最高位は6位、平均10.89位に留まっている。

数値だけを見れば絶望的に酷い成績ではないものの、例えば第2戦エミリア・ロマーニャGPのように今季最上位の6位入賞を果たしたとしても、チームメイトが表彰台に上がればその分、リカルドの活躍は影を潜める事になる。

2021年F1エミリア・ロマーニャGPで表彰台に上がり、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)からシャンパンを掛けられるマクラーレンのランド・ノリスCourtesy Of McLaren

2021年F1エミリア・ロマーニャGPで表彰台に上がり、マックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンからシャンパンを掛けられるノリス

とは言え5度は求めずも必ずや1度はワールドタイトルを、と考えるリカルドにとって、如何なる理由があれチームメイトに惨敗する状況は受け入れがたい。不振の原因は何処にあるのか? 移籍そのものがあまりに大きなハードルなのだろうか?

ただ、2019年のレッドブル・レーシングからルノーへの移籍の際は目立って苦労した様子は見られなかった。リカルドはチームでの3シーズン目を迎えたニコ・ヒュルケンベルグに対して序盤から好勝負を演じ、シーズンを終えてドライバーズ選手権9位と、同14位のチームメイトを撃破した。

リカルドはauto motor und sportとのインタビュー中で、レッドブルのF1マシンよりグリップレベルは低かったものの、ルノー移籍の際はドライビングスタイルを変更する必要はなかったとする一方、マクラーレンでは身に染み付いた運転方法を意識的に変えていく必要がある状況なのだと明かした。

リカルドによるとルノーのF1マシンは低速に強みがある一方、メルセデスを搭載する英国ウォーキングのマシンは高速コーナーに強みがあるとの事で、マクラーレンの場合は「無理をしてでもクルマが望むようなドライビングをしなきゃならない」と指摘する。

「マクラーレンには長所も短所もあるけど、どういう訳か僕のドライビングスタイルと相性が悪いみたいなんだ」

「コーナリングの際のブレーキのかけ方、アクセルの踏み方と言った部分でね。慣れ親しんだ方法だとクルマが反応してくれない」

そこでリカルドは、まず初めに自身のスタイルが通用しない理由を突き止める事に時間を割き、その上で今は新しい技術の取得に努めているという。

「直感的に走れるコーナーと、マクラーレンの良さを活かすために事前に走行方法を検討しておかなきゃならないコーナーが混在しているから、プロセスとして凄く複雑なんだ」

マクラーレンMCL35Mから降りるダニエル・リカルド、2021年5月8日F1スペインGP予選にてCourtesy Of McLaren

マクラーレンMCL35Mから降りるリカルド、2021年5月8日F1スペインGP予選にて

キャリア10年を通して培ってきた経験の全てを捨て去りたくはないとして、リカルドは今後も直感に従ってクルマと対峙したいとする一方「自分のやり方が正しいと考えるのは柔軟性が足らない」「ランドを見ていると、ドライビングテクニックの違いでクルマが上手く機能する事がよく分かる」として、不振の原因がスタイルの違いにあるという事実を認める。

なお「詳細に話すとチームに嫌がられるはず」として、自身のドライビングスタイルについて突っ込んで説明する事はなかったが、可能な限り速度を高く維持してコーナーにアプローチするものであるとして、そうした走り方を実現させるためにはクルマに対しての絶対的な信頼感が必要だと語った。

セルジオ・ペレスやセバスチャン・ベッテルらと同様に、リカルドは経験不足のマシンだけでなく構造が変更された新しいピレリタイヤにも適応しなくてはならない。曰く、ターンインが上手くいかない理由は主に、MCL35Mの空力特性というよりもタイヤだという。

「あらゆる面で全然違うんだ。最初はクルマの空力特性の違いによるものだと思っていたんだけど、ランドは『今年のマクラーレンは去年よりも運転が難しい』って言ってるし」

「タイヤの面白いところは、ラップ毎に上手く機能したりしなかったりする部分だ。ときどきそうした理由が全く分からない事もある」

リカルドは10戦を終えて未だに「絶対的な自信が足りない」とする一方、「フランスGP以降はマクラーレンをドライブしていても、頭の中に昔のルノーが浮かんでこなくなった」としており、今後もドライビングスタイルを合わせ込む努力を続けていく一方、エンジニアと協力して自身の強みが活かせるようなセットアップを追い求めていくという。

ノリスと言えば、フェルスタッペンやシャルル・ルクレールと並び、熱心なシムレーサーとして知られるF1ドライバーだ。貴重なオフは現実世界でのアクティビティに充てたいと考えるリカルドは仮想レースを好んでいないが、現在抱えている問題解決の糸口が掴める可能性もあるとして、選り好みせずに試してみるべきだと考えている。

「マックスやランド、シャルルは積極的に取り組んでいるし、ひょっとするとそれが(現実でのドライビングに)役に立っているのかもしれない。僕の好みじゃないけど、偏屈にならずに試してみたいと思ってる」