アルファタウリ・ホンダのフランツ・トスト代表と話をする角田裕毅、2021年4月30日ポルトガルGPにて
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”対照的”な2人の良き指導者に恵まれた角田裕毅、フランツ・トストは「単なるチーム代表ではなくパートナーのような存在」

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不振続く角田裕毅はシーズン5戦を終えて心機一転、イギリスからイタリアに拠点を移して新たなスタートを切る事になるようだが、この試みの成否の鍵を握るのがアルファタウリ・ホンダのフランツ・トスト代表だ。

角田裕毅は今後、フランツ・トストの下で、プロアスリートとしての生活や仕事のやり方を学んで失った自信と信頼を取り戻し、チーム首脳陣が求めるレベルの成長を遂げていかなくてはならない。

”転勤命令”を出したのは、時に残酷なまでのドライバー人事で度々話題を集めるレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを努めるDr.ヘルムート・マルコだが、角田裕毅曰く、78歳のチーム顧問は常にドライバーを想う人物なのだという。

時に恐ろしいヘルムート・マルコ

アルファタウリ所属のドライバー達は、ファエンツァのチームを率いるフランツ・トストと、レッドブル系ドライバーの人事を一手に引き受けるヘルムート・マルコという2人のボスの下で仕事に取り組んでいるが、角田裕毅曰く両者の性格は「正反対」だという。

ポッドキャスト”Beyond the Grid”の中で角田裕毅は、ヘルムート・マルコに関しては時に「怖い」と感じる事があると認めるものの、それは自分自身を想ってくれての事だと説明した。

角田裕毅は「特にモナコGPの時がそうでした。フリー走行でクラッシュするなと言われていたのにクラッシュしてしまったため、彼は当然、そのことに不満でした」と語る一方で、「叱咤激励はドライバーを思っての事だと思います。僕がF2で苦しいシーズンを過ごしていた時も彼は常にそうでした」と述べ、ヘルムート・マルコの厳しさは優しさの裏返しだと主張した。

2020年12月13日、F1アブダビGPを前にグリッド上で話をするアルファタウリ・ホンダのフランツ・トスト代表とレッドブルのヘルムート・マルコCourtesy Of Red Bull Content Pool

2020年12月13日、F1アブダビGPを前にグリッド上で話をするアルファタウリ・ホンダのフランツ・トスト代表とレッドブルのヘルムート・マルコ

”パートナー”のようなフランツ・トスト

ヘルムート・マルコが鬼教官だとすると、角田裕毅曰く、65歳のオーストリア人マネージャーは対話によってドライバーに”気づき”と助言を与える「パートナー」のような存在だという。

角田裕毅はフランツ・トストについて、具体的にあれこれ強要したり「ミスを指摘」するのではなく、ドライバーの成長を見守る指導スタイルを持つ人物であり「単なるチームのボスというよりも、ある種のパートナーのような存在」だと説明した。

エミリア・ロマーニャGPでの予選クラッシュの際も、更には物議を醸したスペインGPでの無線での暴言に関しても、決して頭ごなしに叱りつけるような事はなく、あくまでも角田裕毅本人の成長のために、その都度必要なアドバイスを与えてくれているという。

ガレージでフランツ・トスト代表と話をするアルファタウリ・ホンダの角田裕毅、2021年3月14日F1バーレーンテスト3日目Courtesy Of Red Bull Content Pool

ガレージでフランツ・トスト代表と話をするアルファタウリ・ホンダの角田裕毅、2021年3月14日F1バーレーンテスト3日目

角田裕毅は「イモラでの一件の時も、彼は僕の事を笑って、『悪い意味ではなく、こんな事もあるさ』と言ってくれました」と振り返った。

「彼はこれまでに数多くのドライバー、特にルーキーを見守ってきた人で、例えばセバスチャン・ベッテルがどのようにして成功を掴んでいったのかを間近で見てきた人です」

「『何をしていたんだ』とか言われる事はありません。バルセロナの一件の後でさえ、あれは僕が無線で本当に酷い事を言った時の事ですが、彼は『無線のことは気にしなくていい、運転に集中しろ』と言ってくれました」

例の暴言について角田裕毅は「我慢できなくなって無線ボタンを押してしまい、チームのみんなに怒鳴ってしまいました。これが今の僕の課題である事は確かです」と述べ、カッとなって我を忘れる性格に問題がある事を認めており、怒鳴り散らしてもチーム側は困惑するだけで建設的な結果には結びつかず、今後は「落ち着いて何が問題点かをエンジニアに伝える」事でアドバイスを仰いでいきたいとしている。

角田裕毅はフランツ・トストについて「彼は本当に親切な人ですが、同時に良い意味で厳しい人でもあり、メンタリティにも配慮しつつドライバーをマネジメントしてくれるんです」と続けた上で「僕にとっての彼は単なるチームのボスではなく、一種のパートナー(メンター?)のような存在です」と付け加えた。

”厳しい”の意味について問われると角田裕毅は「例えばトレーニング」だと答え、フランツ・トストは「驚異的な(笑)」ランナーなのだと説明した。

「(バーレーンで)彼は1時間半に渡って朝のビーチを走り、その後3・4時間に渡ってジムで汗を流すほどで、殆どアスリートというか、完全にアスリートのような人なんです」


AT02の競争力を考えれば5戦を終えて入賞1回という角田裕毅のこれまでの結果は確かに物足りないかもしれないが、フル参戦4年目にしてキャリア1勝を誇る僚友ピエール・ガスリーをしてDNF-7位-10位-10位-6位である事を思えば、ルーキーのリザルトとしては妥当とも言える。

特に今季が、プレシーズンテストの削減やプラクティスの短縮など、例年と比べてあまりにも走行時間が限られている特異なシーズンであり、角田裕毅ら新人のみならず、セバスチャン・ベッテルやダニエル・リカルドら移籍組の大部分が苦戦を強いられている事を思えば尚更だ。

角田裕毅は、クルマのポテンシャルを80%程度引き出すことに関しては特に問題ないとする一方で「クラッシュやスピンを起こさずに99%、あるいは100%の限界を見つけるのが難しい」と述べ、「まだクルマを完全にコントロールしているとは言えない」と認めている。

クルマのパフォーマンスに足る結果を安定的に残すにはまだ時間が必要と見るべきだろうが、兎にも角にも23戦を終えてシーズン全体振り返った時に、自身で前向きな評価が下せるような1年を過ごして欲しいと思う。