祝杯を上げるメルセデスのルイス・ハミルトンとレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン、2021年5月9日F1スペインGP決勝レース後の表彰台セレモニーにて
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主導権巡るターン1の攻防…アプローチの差が示す挑戦者フェルスタッペンと7冠ハミルトンの思考

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F1スペインGPでのオープニングラップのターン1へのアプローチは、置かれた立場とスタンス・思考という点で、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)の違いが如実に表れたものになった。

ポールポジションからスタートしたハミルトンに対し、フェルスタッペンはより多くのラバーが載った2番グリッドから絶好の蹴り出しを見せ、ターン1でサイド・バイ・サイドになるとイン側からシルバーアローを突き刺しレースの主導権を握った。

トラブルやセーフティーカー導入といったイレギュラーな展開がない限り、スタート直後のターン1が逆転優勝の唯一のチャンスになるであろう事はほぼ明らかで、その一点に集中してモノにしてしまう凄みがフェルスタッペンの強さの一つでもあるわけだが、初のタイトル戦という観点で言えば、全23戦の中の第4戦での1周目の仕掛けとしては少なからずリスクあるものだった。

危険を冒す事で多くのポイントを失うわけにはいかないとして、昨年とは異なるアプローチに切り替えたと語っているように、仮に選手権争いで大幅なリードを築いていればフェルスタッペンが無理に攻め込む事はなかったであろうものの、壊れたマシンの脇でステアリングを投げ捨てるシナリオが現実のものになる可能性は十分にあった。

チーム代表のクリスチャン・ホーナーはターン1での追い抜きについて「まさに”マックス・フェルスタッペン流”」という表現で讃えているが、同時に「ハミルトンが引いてくれて感謝している。でなければ2人ともフェンスの中でレースを終えていた事だろう」とも認めている。

ホーナーが指摘する通り、ハミルトンが引かず、あるいはフェルスタッペンの位置を把握していなければ、ほぼ確実に接触に至っていた事だろう。この場合、責めを負うのは恐らくフェルスタッペンの方だが、仮にそうであったとしても、7度に渡って世界選手権を制覇してきたチャンピオンは自ら身を引く選択肢を手に取った。

幾ら相手に責任があったとしてもノーポイントに終われば意味がない。ハミルトンは譲る事が必ずしも正義でなかったとしても、譲らない事で失うものの方が遥かに大きなものとなる可能性を認識していた。

36歳のイギリス人ドライバーはターン1で必要以上にトップの座を守ろうとしなかった理由を次のように説明している。

「ターン1に向かう際はできる限りマックスにスペースを与えるようにした。レースはスプリントじゃなくマラソンだ。僕は何時だって長いゲームとして捉えている」

「確かにもう少しアグレッシブに行く方法もあるかもしれないけど、そんな必要あるかな? 必要ない時にアグレッシブ過ぎないからこそ、僕は今、このポジションにいるんだからね」

とは言え、ハミルトンもまた完璧ではない。そもそもフェルスタッペンに先行を許したのはスタート直後に判断を誤ったからだ。

ハミルトンは「後から振り返ってみると、マックスが一瞬、僕の背後に入って来た時に、僕がラインを変えていれば良かったのかもしれない」と述べ、血の気の多い23歳のオランダ人ドライバーに付け入る隙を与えた事を認めている。

「スタートの際のターン1が理想的じゃなかった事は明らかだから、それを見直して今後どうすれば良いのかを考える必要があるけど、抜かれた時は『よし、別のモードに変更だ』って気持ちを切り替えたよ」

興味深いのは、今回と同じ条件、つまりチャンピオンシップでハミルトンが首位に立ち8点差を付けてリードしている場合、ターン1での相手がハミルトンではなくボッタスであったとしてもフェルスタッペンが同じアプローチを採るかどうかだ。

4戦を終え、コンストラクターズタイトルではメルセデスがレッドブル・ホンダに29点差を付け、そしてドライバーズタイトルではハミルトンがフェルスタッペンに14点を付けそれぞれリードしている。

両者の姿勢は今後どのように変化し、または変化せず、そしてそれらはタイトル争いにどう影響するのだろうか?注目したい。

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