F1レギュレーション解説「テスト編」

英国ブラックリーにあるメルセデスF1の風洞Courtesy Of Daimler AG

テストに関連する主だったF1レギュレーションの要点を以下にまとめる。競技規定で扱われているテストには実車を使うものと、マシン開発に関するものを含めて以下の5種類がある。

  • 実車
    • 公式テスト
    • プライベートテスト
  • 空力開発
    • 風洞試験
    • CFDシミュレーション

公式テスト

現行マシンを使ったテスト(TCC)はシーズン開幕前のプレシーズンテストと閉幕後のポストシーズンテストの2つに加えて、タイヤサプライヤーが実施するタイヤテストの3つが存在する。いずれもF1が公式に開催する走行機会だ。

コスト抑制の観点から公式テストは近年、削減傾向にあったが、2020年を境に加速。シーズン中のテストは廃止され、プレシーズンテストも8日間から6日間へ、そして2021年は3日間にまで短縮された。ただ、車両が一新された2022年の開幕前テストは6日間に増加した。

  • テストに使用できるのは今季あるいは翌季型マシン
  • 1チームにつきマシン1台(閉幕後テストは2台)
  • スーパーライセンスがない者はマシンに緑のリアライトを装備
  • チームの過半数の同意なしにヨーロッパ外で行うことは不可
  • 参加車両は、衝突試験に合格するなど、レース時と同じ仕様要求を満たす事
  • シーズン中テストは連続2日未満を計2回まで
  • シーズン中テストの内の2日間は若手に割り当てる。対象はGP出走経験が3回未満

プライベートテスト

F1が公式に主催するテストとは別に、チームが現行車両を使ってプライベートテストを行うには以下の2つの方法がある。

  • プロモーション・イベント(PE)
  • デモンストレーション・イベント(DE)

PEは年間2回を上限としたプロモーションあるいはマーケティング目的の走行機会で、俗に「フィルミングデー」と呼ばれる。距離は100km以下(2024年は200kmに増加)でグランプリ週末のものとは別の専用タイヤを使用する。

これとは別に、デモンストレーションを目的とするDEも走行距離15kmまで許可される。タイヤはデモスト用の専用タイヤを使用する。

また、マシン開発には活かせないものの、旧車(直近3シーズン用に開発されたマシン)を使ったテスト(TPC)も可能だ。指定タイヤの装着義務はあるものの、走行距離の制限はない。ただし、FIAグレード1あるいは1T規格を取得したコースでの走行に限定される。

空力テスト制限

従来は風洞試験CFDを対象とする空力開発に制限はなく、一部のチームはコンマ1秒のゲインのために24時間年中無休で風洞を稼働させ続けていたが、これには莫大な資金が必要で、小規模資本チームとのパフォーマンス格差を生み出す一因となっていたため制限される事となった。

  • 7月または8月に連続14日間の工場閉鎖期間。風洞と計算流体力学施設(CFD)の使用も禁止
  • 風洞とCFD試験で許可されるのはスケールモデル60%以下、速度は50m/秒


Toyota Motorsport GmbHの風洞

2021年からはコンストラクター選手権順位に応じた空力テスト制限が施行された。これは「制限付き風洞試験(RWTT)」「制限付きCFDシミュレーション(RCFD)」の2つで構成される。

弱小チームほど翌年のマシン開発において相対的なアドバンテージを得る事が出来るという仕組みで、この方式はスライドスケール空力テスト規制(ATR)と呼ばれている。

前年順位 2021年テスト可能量 2022-25年テスト可能量
1位 90% 70%
2位 92.5% 75%
3位 95% 80%
4位 97.5% 85%
5位 100% 90%
6位 102.5% 95%
7位 105% 100%
8位 107.5% 105%
9位 110% 110%
10位以下 112.5% 115%

制限値の決定基準となるコンストラクターズ選手権の順位は、毎年6月30日を起点として以下のように判断される。

  • 1月1日~6月30日…前年のコンストラクターズ選手権順位
  • 7月1日~12月31日…6月30日時点での現行コンストラクターズ選手権順位

制限付き風洞試験(RWTT)

基準値(7位のチーム)としてテスト回数が320回、計400時間、対気速度が15m/秒超えのテストが80時間に制限される。

例えばコンストラクターチャンピオンは各々が70%、つまりテスト回数が224回、計280時間、対気速度が15m/秒超えのテストが56時間に制限される。

制限付きCFDシミュレーション(RCFD)

使用可能な計算量をメガ・アロケーション・ユニット時間(MAUh)で計測する。これはチーム毎に異なるCPU性能の差異を考慮に入れたもので、基準値(7位のチーム)は6MAUhに設定されている。

7位のチームは2000個の異なるパーツ(制限付き空力試験ジオメトリ / RATG)をコンピューターシミュレーションによってテストする事ができる。

エンジン・テストベンチ制限

エンジン単体で行うテストにも制限がある。テストベンチには以下の3種類がある。

  • パワーユニット・テストベンチ…2気筒以上のICE(内燃エンジン)試験環境
  • パワートレイン・テストベンチ(PTB)…ICEとトランスミッションの同時試験環境
  • フルカー・ダイノ…上記以外の試験環境
2022 2023 2024 2025
最大テストベンチ数 9 9 9 9
最大占有時間 1年間 6000 4000 2800 1600
1期間 1200 800 2800 1600
最大合計運転時間 1年間 750 500 350 200
1期間 150 100 350 200
PTBでの年間最大稼働時間 150 100 100 100

手短に2022年のF1レギュレーションを知りたい方は「2022年F1ルール主要変更点のまとめ」を、より詳しくルールの全体像を知りたい方は「F1ルール完全網羅版」を参照されたい。

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