2017年のホンダ製F1パワーユニット「RA617H」の一部
Courtesy Of Honda

ホンダF1エンジン継承に向け「レッドブル・パワートレインズ」設立、バッジネーム含む2022年以降の計画の一端が明らかに

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英国ミルトンキーンズのチームは2022年からのパワーユニット(PU)開発凍結の合意を受けて、ホンダ製F1パワーユニットの資産を引き継ぎ、これを運用していくための新会社「レッドブル・パワートレインズ」を設立する。

2021年2月11日はレッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリにとって新たな時代の幕開けを告げる歴史的な1日となった。チーム代表者を含むF1の利害関係者がオンライン上に集ったこの日、2022年から24年末までのPU開発凍結が合意された。

凍結合意、ホンダ製パワーユニットを継続

ホンダF1の山本雅史マネージング・ディレクターと抱き合って勝利を喜ぶレッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表、2020年F1アブダビGP決勝レースにて
ホンダF1の山本雅史MDと抱き合って勝利を喜ぶレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表、2020年F1アブダビGP決勝 / © Red Bull Content Pool

レッドブルの思惑通りの帰結だった。パワーユニットサプライヤーのホンダは2021年末を以てF1から撤退する。F1屈指の強豪チームに残されたのは、ホンダの知的財産権を借り受け独自でパワーユニットを運用するか、再び犬猿の仲であるルノーからの供給を受けるか、はたまた撤退かという3つのシナリオだった。

レッドブルはホンダに固執した。ワークスのステータスを捨ててカスタマーチームに成り下がる気は更々なかった。パワーユニットと車体とが完璧に統合されずしてチャンピオンシップ争いは叶わない。供給を受ける立場となれば後退は必至だった。

開発のための資金も技術力もインフラもないため、実現のためにはレギュレーション変更によってエンジン開発を凍結させる必要があったわけだが、晴れてレッドブルの思惑通りにルール改正の運びとなった。

ただしF1側は表立って言及していないものの、メーカー間のパフォーマンス差が著しい場合に備えて性能調整(BoP)のあり方についての検討が必要だ。具体的には4メーカー全ての馬力が一定ウインドウに収まる状態が理想的という事で合意が形成されたようで、今後それを実現させるための具体的な手法を含めて更なる議論が行われるものと見られている。

AVLと提携、自社ファクトリーを設立

英国ミルトンキーンズに位置するレッドブル・レーシングのファクトリー内部に展示された歴代のF1マシン
英国ミルトンキーンズに位置するレッドブル・レーシングのファクトリー / © Red Bull Content Pool

チーム全体が歓喜したその日の夜、レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは独Motorsport-Magazinとのインタビューの中で、ホンダから引き継ぐパワーユニットの運用とメンテナンスのために「レッドブル・パワートレインズ(Red Bull Powertrains)」なる新会社を設立する計画を明らかにした。

実際の作業は何処で行われるのか?

当初はホンダが持つミルトンキーンズ拠点の一部を借り受けるのではといった見方もあったが、レッドブル総帥ディートリッヒ・マテシッツは、ホンダのインフラを引き継ぐのではなく、レッドブル・レーシング・テクノロジー・キャンパスの8号館を改修して代用する事を選んだ。

既存施設の改修とは言え、レッドブルは何故、自ら新しいファクトリーを作るという余計に金の掛かる方法を選択したのだろうか?

ヘルムート・マルコによると、ホンダのミルトンキーンズ拠点には内燃エンジン関連のインフラが揃っておらず、対処できるのがハイブリッド関連に限られるのだという。内燃機関に関わる設備は日本のHRD-Sakuraに集約されている。

曰く、設置されているテストベンチも最新のものではないとの事で、既にある自前の建物を改修し、オーストリアを拠点とするパワートレイン開発の専門会社「AVL」のサポートの下で、次世代パワーユニットが導入される2025年までの3年間に渡って独自でエンジンを運用していくとの事だ。

更に「想定範囲内であれば」という条件付きだが、この新しいエンジンショップはパワーユニット規約が変更された場合に対処できるよう、一定程度の開発が可能なように設計されているという。

開発凍結の詳細については今後更なる議論が行われるものの、F1はカーボンニュートラル達成に向けてバイオ燃料を重視しており、2022年からは現行の5.75%が引き上げられる形で、エタノールを10%含有する「E10燃料」の導入が検討されている。

無限?バッジネームの可能性

左からマックス・フェルスタッペン、ヘルムート・マルコ、山本雅史
左からマックス・フェルスタッペン、ヘルムート・マルコ、山本雅史MD / © Red Bull Content Pool

傍から見ればルノーからパワーユニットを購入した方が遥かにコスト安とも思われるが、ヘルムート・マルコは3年間でのトータルの支出額について「大きく異るものではない」と説明。更に「興味を持つ企業がスポンサーとなる可能性もある。もちろん、自動車メーカーではない」と付け加え、バッジネーム契約が得られれば更に両者のコスト差が相殺されると期待感を示した。

レッドブルはルノーからPU供給を受けていた最後のシーズンに、スイスの高級時計メーカー「タグ・ホイヤー」にパワーユニットの命名権を販売し、エンジンカバーに同ブランドのエンブレムを刻印していた事がある。

2022年以降のホンダ製F1パワーユニットの呼称については、本田技研工業の創業者である本田宗一郎氏の長男、博俊氏が設立し、1992年から2000年までF1に参戦した「無限」を望むファンの声が広く聞かれるが、あまり期待できそうにない。

実際のところ、レッドブルは今回の手法をコスト高とは考えていない。短期的にそれに見合った利益が得られると確信しているからだ。

ヘルムート・マルコは「シャシー担当者と調整の上で開発されたエンジンを供給することになるわけで、それは双方にとって最適化されたものと言える。例えばルノーからエンジンを購入したとしたら、シャシーやラジエーターなどのコンポーネントをそのデザインに合わせて妥協せざるを得なかっただろう」と語った。

フルファクトリーチーム化への第一歩?

マクラーレンF1搭載の「ポルシェTAGエンジン」1984年~1987年
マクラーレンF1搭載の「ポルシェTAGエンジン」1984年~1987年

ホンダの技術の結晶であるとは言え、レッドブルはチーム創設史上初めて自らのエンジンを搭載してシーズンを戦う事になる。

いずれ訪れるであろう電動化に際し、仮にその時レッドブルがF1への参戦を継続していれば、パワートレインを自社開発するであろう事は想像に難くない。フルワークスでの参戦は成功の必要条件だ。

Motorsport-Magazinは、今はまだ見ぬ次世代パワーユニットが導入される2025年以降のレッドブルについて、22年からの3年間の独立期間を元にメーカーとタッグを組むのが理想的だと指摘した。

PU開発凍結が合意された11日のF1コミッションでは、次世代F1マシン並びにパワーユニットの方向性を決めていくために、既存のPUメーカーと燃料サプライヤーだけでなく、将来的な参戦を検討しているメーカーをメンバーとするハイレベルのワーキンググループが設立された。

伝えられるところによると、その日のコミッションではワーゲン・グループ傘下のポルシェの新規参入が議題に挙がったと言う。レッドブルはモータスポーツ活動においてワーゲンと密接な関係を築いており、同じグループ内のアウディの名が取り沙汰される事もしばしばだ。

2022年からのレッドブル及びアルファタウリの活躍はもちろん、2025年以降の彼らの動向も目が離せないものとなりそうだ。