角田裕毅「フェルスタッペンとの比較は不公平」発言の真意、レッドブル昇格後の現実と葛藤

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2025年F1第14戦ハンガリーGPを前にレッドブル・レーシングの角田裕毅は、チームメイトで4度の王者に輝くマックス・フェルスタッペンのパフォーマンスが卓越していることを認めつつも、現時点で自身と彼を直接比較するのは「不公平」との考えを明確にした。

この発言の背景には、必要な条件が整っておらず未だに比較のスタートラインにすら立っていないという角田自身の認識がある。

英専門誌『Autosport』によると角田は、フェルスタッペンが9年という長期にわたりチームとクルマを築き上げてきたのに対し、自身は今季途中で昇格した「途中参加者」に過ぎないという構図を示した。さらに、使用しているマシンのスペックに差異があることも指摘し、公平な評価は困難だと訴えた。

メディア対応を行う角田裕毅(レッドブル)、2025年7月31日(木) F1ハンガリーGPメディアデー(ハンガロリンク)Courtesy Of Red Bull Content Pool

メディア対応を行う角田裕毅(レッドブル)、2025年7月31日(木) F1ハンガリーGPメディアデー(ハンガロリンク)

角田が訴えた「比較の不条理」

「彼(フェルスタッペン)がどのセッションでも、どのグランプリでも常に高いパフォーマンスを発揮し続けているのは本当にすごいことだと思います」と角田は語る。

「簡単にできることじゃないのに、彼はあたかも簡単であるかのように見せてしまう。でも、僕は彼と直接比較したくないんです。彼はあのマシンで9年間も走ってきたけど、僕はまだ乗り始めたばかり。比較するのはフェアじゃないと思います」

さらに、「比較できるのは、条件が等しいときに限る」という見解を示し、同一スペックのマシンが与えられて初めて比較が成立すると主張した。

その上で、「それまでは自分に集中して、自分のペースで一歩ずつ前に進むだけです。改善点ははっきり理解しているので」と語り、チームメイトとの比較ではなく自身に焦点を当てていることを強調した。

同じチーム、異なるマシン

エミリア・ロマーニャGPの予選クラッシュ以降、角田はマシンスペックの面でフェルスタッペンに遅れを取ってきた。先週末のベルギーGPでは、スプリントと予選の間に新しいフロアが導入され、7戦ぶりとなるQ3進出を達成。フェルスタッペンにわずか0.357秒差の7番手タイムを記録し、レッドブルに7年ぶりの衝撃をもたらした

だが、そのフロアですらフェルスタッペンが使用している最新型ではなく、ハンガリーGPを前にした現時点でさえ、フロントウイングなど複数のコンポーネントが旧型のままだという。

マシン開発のリソースがフェルスタッペンに集中している現状が、角田にとってパフォーマンス比較上の明らかなハンディキャップとなっているのは否定できない。とはいえ角田自身は、タイトルを争うチームメイトが優先されるのは「当然のこと」として理解を示しており、自らの立場を受け入れる姿勢を見せている。

去就は不透明、一方で“追い風”

レッドブルが今季ここまでに獲得した192ポイントのうち、実に185ポイントをマックス・フェルスタッペンが持ち帰っている。一方、角田裕毅はスプリントを含む直近7レースすべてで12位以下にとどまり、ポイントを獲得できていない。

角田が2025年シーズンの最終戦までレッドブルで走るのは既定路線だが、来季の去就は依然として不透明なままであり、今後の成績やパフォーマンスによっては、これが彼にとってF1での最後のシーズンになる可能性がある。

パドックに到着する角田裕毅(レッドブル)、2025年7月31日(木) F1ハンガリーGPメディアデー(ハンガロリンク)Courtesy Of Red Bull Content Pool

パドックに到着する角田裕毅(レッドブル)、2025年7月31日(木) F1ハンガリーGPメディアデー(ハンガロリンク)

だが、角田にとって希望がまったくないわけではない。ベルギーGP予選では、その印象的なパフォーマンスによって、存在感を示した。決勝ではピット指示が遅れたことで入賞を逃したが、それでも角田は「エンジニアリング面、自分のガレージ側において、明確な進歩と明確な速さがあるという認識が持てていることは、間違いなく自信につながっています」と前向きな面を強調している。

また、チーム内にも追い風が吹きつつある。新たにチーム代表に就任したローラン・メキーズは、レーシング・ブルズ時代から角田との信頼関係を築いてきた人物であり、前任のクリスチャン・ホーナーとは異なり、主にレース運営と技術面に責任が限定されている。

言い換えれば、それだけ現場への専念が可能ということであり、その立場だからこそ、角田にとって必要な技術的・人的支援体制を的確に整える存在となり得る。これは、限られた猶予の中で結果を求められる角田にとって、大きな後押しとなる可能性がある。

果たして、角田がフェルスタッペンと完全に同一仕様のRB21を与えられる日は来るのか。そして、そのとき、真に並び立つだけのパフォーマンスを発揮できるのか。今季後半戦、角田に注がれる視線は、さらに熱を帯びていくだろう。

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