1988年のマクラーレン・ホンダMP4/4をドライブするアラン・プロスト
Courtesy Of McLaren

レッドブル、”鬼門”F1イギリスGPでマクラーレン・ホンダ35年前の大記録に並ぶか…何故か女神が微笑まない過去11年を振り返る

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レッドブル・ホンダRBPTとマックス・フェルスタッペンの勢いが止まらない。3連覇を目指す現役F1王者は開幕9戦を終えて優勝7回、2位2回と、一度も表彰台を逃した事がなく、その合計ポイントはコンストラクター2位のメルセデスを遥かに上回る229点に達しており、セルジオ・ペレスなしの単騎でWタイトルを獲得する勢いだ。

だがシルバーストン・サーキットで行われる次戦F1イギリスGPは、同じ英国のミルトンキーンズに本拠を構えるレッドブル・レーシングにとっての鬼門である。

マックス・フェルスタッペン駆るレッドブル・ホンダ33号車RB16Bとシルバーストン・サーキットのピットビル、2021年7月18日F1イギリスGPにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

マックス・フェルスタッペン駆るレッドブル・ホンダ33号車RB16Bとシルバーストン・サーキットのピットビル、2021年7月18日F1イギリスGPにて

確かにシルバーストンで行われた2020年の70周年記念GPではフェルスタッペンが優勝しているが、マーク・ウェバーが2012年に勝利を収めて以来、F1イギリスGPでは一度も表彰台の頂点に立った事がないのだ。

無論、単にクルマの競争力が不十分で優勝争いに加われなかったシーズンもあるが、思わぬアクシデントや不運に見舞われるなど、勝利に手が届きそうで届かない歯がゆい11シーズンを過ごしている。以下、幾つかのシーズンをサクッと振り返ってみよう。

2022年:角田のデブリの餌食に

フェルスタッペンはスタート直後にトップに躍り出るも、ピエール・ガスリーとの接触の際に角田裕毅のクルマから飛散したデブリを拾った事で、リア側のダウンフォースを失い競争力が大幅にダウン。戦線離脱を余儀なくされ、格下の中団チームに背を突かれながら7位を死守するのが精一杯だった。

2021年:ハミルトンと接触、過熱へ

鮮烈だったのは2021年だ。最終戦の最終ラップにまでタイトル争いがもつれ込む歴史的な激戦となったこのシーズンのイギリスGPでは、1周目のターン9、通称コップスでルイス・ハミルトン(メルセデス)とクラッシュ。アウト側にいたフェルスタッペンは51Gもの衝撃でバリアに激突した。

現地の病院に搬送されたフェルスタッペンは、事故から生還してトップチェッカーを収めた後、盛大に勝利を祝ったハミルトンを「スポーツマンシップに反する無礼な行為」だと痛烈に非難。以降、両者の争いは過熱の一途を辿っていった。

2020年:3輪のメルセデスに敗北

2020年大会では、2番手を走行していたバルテリ・ボッタス(メルセデス)が残り4周というタイミングで左フロントタイヤのパンクに見舞われ離脱するドラマがあり、3番手を走行していたフェルスタッペンが2番手に浮上した。

ただラップリーダーのハミルトンとのギャップは大きく、フェルスタッペンは僅かでも獲得ポイントを増やそうとファステストラップ狙いのピットインを消化。すると驚くべき事に、首位を快走していたハミルトンがファイナルラップでチームメイトと同じ様にパンクに見舞われ、左フロントタイヤを失った。

ファステストを狙わずにステイアウトしていれば勝利の可能性があったことだろうが、猛追虚しく5.856秒及ばず、ハミルトンが3輪走行ながらもフェルスタッペンを2位に退けた。

2019年:古巣を撃墜したベッテル

2019年は勝利の望みこそなかったものの、2位表彰台を射程圏内に捉えたフェルスタッペンはレース終盤に向けてセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)に追突されリアを大きく破損。かろうじてコースへと復帰し、手負いの状態で5位フィニッシュした。

2013年:悲鳴を上げたギアボックス

セバスチャン・ベッテルが4度目のタイトルを獲得した2013年も不運があった。

3番手からスタートしたベッテルは、ポールシッターのハミルトン(メルセデス)がタイヤブローに見舞われた事でトップに浮上。レース終盤に向けて、2番手ニコ・ロズベルグ(メルセデス)に対して安定的なリードを築き首位を快走していた。

だが残り11周を切ったところでアクシデントが襲った。ギアボックスにトラブルが生じた事でベッテルはメインストレートにクルマを止めた。

2013年6月30日、シルバーストン・サーキットで開催されたF1イギリスGPでインフィニティ・レッドブル・レーシングを駆るマーク・ウェバーCourtesy Of Red Bull Content Pool

2013年6月30日、シルバーストン・サーキットで開催されたF1イギリスGPでインフィニティ・レッドブル・レーシングを駆るマーク・ウェバー

もう1台のRB9をドライブしたウェバーは1周目の接触により一時は14番手にまで後退したものの、チームメイトの不運により導入されたセーフティーカーが上位争いへの道を開いた。

残り6周でリスタートを迎えるとウェバーはダニエル・リカルド、エイドリアン・スーティル、キミ・ライコネンを素早く交わしてロズベルグ追撃体制を整えた。たが僅か0.7秒及ばず2位に終わった。

なるか? マクホン以来35年ぶりの大記録

2023年のレッドブルRB19は開幕9戦すべてで勝ち取り、文字通りの無敵を誇っている。2022年シーズンを締め括ったアブダビGPを含めると10連勝。35年間に渡って破られる事なく続いてきたF1歴代記録タイにあと一歩と迫った。

優勝してクルマの上でガッツポーズを取るマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2023年7月2日F1オーストリアGP決勝レースCourtesy Of Red Bull Content Pool

優勝してクルマの上でガッツポーズを取るマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2023年7月2日F1オーストリアGP決勝レース

1988年、マクラーレン・ホンダMP4/4を手にしたアイルトン・セナとアラン・プロストは、開幕ブラジルGPから第11戦ベルギーGPまでの全てのレースを制し、11連勝という記録を達成した。

年間16戦のうち唯一、勝ち星を落としたのは、エンツォ・フェラーリの追悼レースとなった母国でフェラーリとゲルハルト・ベルガーが劇的な勝利を収めたイタリアGPだけだった。

ホンダは35年の時を経て、再び連勝記録で歴史に名を刻むのか。そして、かの記録を越えて新たな金字塔を打ち立てるのだろうか。

レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「勝利と成功は紙一重だ。チームは途方もないレベルで運営されているが、ちょっとした気候の変化や僅かな不運、パンクが起きるだけで事態はあっと言う間にひっくり返ってしまう」と語る。

「もちろん、自信を以てシルバーストンに向かうが、ボールを落とすのは本当に容易い。それに、時にはどうにもならない変数がいとも容易く入り込んでくる事も痛感している」

「壮大なレースになるだろう」

4年前の2019年、V6ハイブリッド時代の絶対王者であったメルセデスが11連勝に王手をかけたが、記録達成とはならなかった。その前に立ちはだかったのは奇しくも、レッドブル・ホンダとフェルスタッペンだった。

ストフェル・バンドーンとジェンソン・バトンが駆るマクラーレン・ホンダMP4/4とMP4/6Courtesy Of Honda

ストフェル・バンドーンとジェンソン・バトンが駆るマクラーレン・ホンダMP4/4とMP4/6


F1イギリスGPは日本時間7月7日(金)20時30分からのフリー走行1で幕を開ける。予選と決勝を含めた全セッションはDAZNフジテレビNEXTで生配信・生中継される。

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