FIA介入が示唆する「ホンダのF1撤退」と「マクラーレン・ルノー誕生」のシナリオ
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FIAが来季マクラーレン・ホンダの動向に介入してきた事で、ホンダのF1撤退及びマクラーレン・ルノー誕生の可能性が現実味を帯びた。
イタリアGPの週末にモンツァに姿を現したFIA国際自動車連盟の会長を務めるジャン・トッドは「全員がこのビジネスにとどまる手助けができるのであれば、全力を尽くす」と語ったとされる。これは、裏を返せば「誰かがF1から撤退する可能性が高まった」事に他ならない。事態を掌握しているトッドは、何某かの重要人物がF1を離れる事を危惧している。
降って湧いたホンダF1撤退の可能性
2018年のマクラーレン・ホンダを巡るステークホルダーは、マクラーレン、ホンダ、ルノー、トロ・ロッソそしてフェルナンド・アロンソの5者である。この内、F1を去る可能性があるとすればホンダかアロンソの2者に絞られるが、先のトッドの発言は「ホンダに去ってほしくない」という文脈内で語られており、それがホンダを意味しているのは明らかだ。
マクラーレンとホンダは10年に及ぶ長期契約を結んでいるとされ、如何にマクラーレンが泣こうが喚こうが、ホンダが同意しない限り契約の解約は不可能だ。F1公式サイトは、ホンダのF1活動を統括する山本雅史の「マクラーレンと共にF1に留まり続けるつもり。契約上マクラーレンが他のエンジンを獲得することはできない」という旨の発言を紹介していた。
FIAがわざわざ仲介を買って出たのは、ホンダがマクラーレンからの契約解除の申し出に同意し、その上で他のどのチームにもエンジンを供給しないシナリオ、が現実のものとなりつつある事を意味する。事態は急激に進展している。
FIAもフォーミュラ1グループも、新規のエンジンサプライヤーであるホンダが僅か3年足らずでF1を撤退するのは断固避けたい思惑がある。トッド同様に、F1のマネジングディレクターを務めるロス・ブラウンもまた、ホンダのF1残留を望んでいる。
マクラーレンと離別し一時的な休暇期間を取るとの憶測もあるが、パワーユニットの開発競争の激しさを考えれば、休暇は撤退に等しい行為である。舞い戻るのは難しい。F1継続の意思のもとに休暇を選択することはないだろう。2018年シーズンのシナリオは以下の3つに絞られてきている。
- マクラーレン・ルノーとトロロッソ・ホンダの誕生
- マクラーレン・ルノー誕生とホンダのF1撤退
- マクラーレン・ホンダ継続
高まる”マクラーレン・ルノー”誕生の可能性
各所で報じられている通り、マクラーレンがルノーと交渉を行っていることは公然の秘密である。フェラーリとメルセデスはマクラーレンへの供給を拒否しており、残された選択肢はルノーのみ。イタリアGPでは両者の上級幹部がマクラーレンのモーターホームに姿を現した。テレビ放送では、グリッド上で話し合う姿が映し出されていた。
トッドによれば、エンジンサプライヤーは4つ以上のチームにこれを供給することは出来ないと言う。ホンダ以外のサプライヤーは、現在各々3チームずつにエンジンを供給している。ホンダがルノーエンジンのトロ・ロッソを獲得しない限り、マクラーレンがルノーを手に入れる事はできない。ルール上は、ホンダの撤退はマクラーレンの撤退と同義である。
ただし、トッドは「自分の解釈では」と前置きしており、F1人気に多大な貢献をしているマクラーレンを規約上の理由によって手放す事は考えられず、いざとなればレギュレーションを変更するなり解釈を変えるなりして如何様にでも対応するだろう。
「マクラーレン・ルノー」の見出しが話題を呼ぶ中、「トロロッソ・ホンダ」への言及が殆ど見られないのは、トロロッソ・ホンダよりもマクラーレン・ルノー誕生の可能性の方が圧倒的に高い事の現れだ。これはすなわち、現時点ではホンダのF1撤退の可能性が否定できない状況にある事を意味している。
疑われるアロンソ残留密約
パフォーマンス及び信頼性不足があるとは言え、ホンダは徐々に競争力をつけ始めている。また、他のエンジンサプライヤーでは決して得られないワークス待遇と、年間100億円以上の資金提供を受けられる。にも関わらず、マクラーレンがルノーを求めているのは何故だろうか?
その最大の理由はアロンソにあると言える。最強ドライバーと名高いアロンソは公然とホンダ批判を続けており、他のエンジンを欲していることは明らかだ。ザク・ブラウンが英Skyに語った「ルノーエンジンを手に入れられれば、アロンソがマクラーレンに残留する可能性は極めて高い」という発言はこれを裏付けている。
成績が冴えないながらもメディアがマクラーレンを取り上げるのは、アロンソの存在が大きい。仮にアロンソが抜けるような事があれば、マクラーレンのメディア露出は激減し、ホンダ資金の穴埋めのための新たなスポンサー獲得は絶望的となる。アロンソの残留確約なしに、年間利益が100億円に満たないマクラーレンがホンダと手を切る事など不可能だ。
アロンソ級の知名度と人気を持つドライバーは限られている。セバスチャン・ベッテルとキミ・ライコネンは来季フェラーリ残留が決定しているし、レッドブルはダニエル・リカルドもマックス・フェルスタッペンも手放す気はない。ルイス・ハミルトンも18年までの契約がある。ドライバーマーケットにアロンソの代わりはいない。
マクラーレンが、ホンダとアロンソの両方を失いかねないリスクを取るとは考えにくい。アロンソもマクラーレンも、あたかも来季エンジンが決定した後に残留交渉に臨むかのような発言を繰り返しているが、実際にはルノーエンジンが獲得できれば残留する、という密約が結ばれていると考えた方が自然だ。
発表期限はシンガポールGP
マクラーレン・ホンダとしての活動を継続するか、マクラーレンと袂を分かちトロ・ロッソとアライアンスを組むか、はたまたF1を撤退するのか。いずれにしても発表の時は近い。状況を踏まえれば、全ての鍵はホンダが握っていると考えれる。
現代のF1マシンはエンジンとシャシーとが密接に関わり合いを持っているため、来季の搭載エンジン決定は急務だ。トップチームのみならず下位チームですら夏休み前から来年のマシン開発をスタートさせており、残された時間は少ない。今週中には各ステークホルダー間での合意形成が行われ、来週9月15日(金)から始まる第14戦F1シンガポールGPまでには何らかの正式発表があるものと思われる。