メルセデスW11をドライブするバルテリ・ボッタスcopyright Daimler AG

F1解説:走行中にトー角を調整する合法ステアリング・トリック「DAS」とは?

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2020年F1プレシーズンテスト2日目を迎えたカタロニア・サーキットでは、メルセデスAMGの新型F1マシン「W11」に搭載されている謎めいたトリックに注目が集まった。一部では「トロンボーン・ステアリング・システム」など呼ばれているこの仕組みは、一体どのような効果が得られるのだろうか?

午前の走行を担当したルイス・ハミルトンのオンボード映像に、走行中にステアリングコラムを前後に動かす様子が映し出された事で、ファンや関係者の目が釘付けとなった。ハミルトンはコーナーへのアプローチ直前にステアリングを前方へと押し、ストレートに入ると引き戻していた。

これはトー角を調整するもので、以下の動画が分かりやすい。

メルセデスのテクニカル・ディレクターを務めるジェームス・アリソンはFIA公式記者会見の場で、このシステムはチーム内で「DAS=デュアル・アクシス・ステアリング」(読み方:ダス)と呼ばれている事を明かした。日本語に訳すと2軸ステアリングシステムといったところだろうか。

トー角とF1マシン…DASの効果

トー角とは、クルマを真上から見下ろして見た場合のタイヤと車軸との角度の事で、普通車は全般的にトー角が0度(クルマの進行方向とタイヤが並行)に設定されている。一方のF1マシンは基本的に前輪が「トーアウト」、つまりクルマの進行方向に対してタイヤの前方側がアウト側を向いている。これにはコーナーリング時の安定性を確保する狙いがある。

メリットとデメリットは対の関係にあるため、もちろん良いことばかりではない。タイヤトレッドの外側端の部分が他の部分と比べて熱が加わりやすい状態となるため、タイヤマネジメントという観点で言えば、決して好ましいわけではない。また、ストレートを走行する際には抵抗値が増えてしまう。

つまり、ブラックリーの技術チームが生み出したこのシステムは、走行中のセクション特性に合わせてトー角を操る事で、ラップタイムを最大化しつつ、タイヤマネジメントの新たな地平線を描こうとするものだと言える。

これは特にロングストレートを持つサーキットや寒いコンディション下でのレース、セーフティーカーのリスタート時など、フロントタイヤに効率的に熱を入れる事でアドバンテージを得る事が可能になると考えられる。

違法か?合法か?

気になるのはこれがレギュレーションに抵触していないかどうかだが、ジェームス・アリソンは「これはFIAにとって目新しいニュースではない。我々は彼らとの間でこの件について話し合いの場を持ってきたのだ。ルールではステアリングシステムで何をして良いかを明確に定義している」と合法性を主張した。

また、アリソンの隣に座っていたハミルトンは「安全性という観点では問題ないし、FIAはこのプロジェクトにOKを出してくれている。チームが今の場所に留まることなく革新し、このゲームをリードし続けようとする姿は本当に励みになる」と語り、不正ではなく統括団体のお墨付きを貰った完全に合法なソリューションだと主張した。

最終的にこの論争は国際自動車連盟(FIA)によってレッドブル・ホンダの抗議が棄却される形で合法性が認められたが、2021年レギュレーションが改定されて当該年より禁止される事となった