メルセデスF1の本拠地「ブラックリー」のファクトリー
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

予算上限守れる? メルセデスF1、6連覇達成の2019年シーズンに471億円の支出

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メルセデスAMGペトロナスF1チームは、F1世界選手権でのダブルタイトル6連覇目を果たした2019年シーズンに3億3330万ポンド、日本円にして約471億円という大金を費やした。バジェットキャップ遵守のためには6割以上のコスト削減が必要だ。

英国ブラックリーを本拠とするメルセデスは、昨年のF1でルイス・ハミルトンがドライバーズタイトルを獲得。バルテリ・ボッタスがランキング2位につけた事でコンストラクターズチャンピオンシップをも制し、V6ターボハイブリッド時代における支配的立場を維持した。

F1チームを運営するメルセデス-ベンツ・グランプリLtd.が9月4日に発表した33ページに及ぶ2019年度(2019年1月1日~2019年12月31日)の年次報告書によると、スポンサーシップとマーケティング収入の増加により、売上高は2018年の3億3838万ポンドから3億6336万ポンド(約514億円)への増収となり、税引き後利益も200万ポンド増の1471万ポンド(約21億円)となった。

同報告書では、メルセデスF1チームがシーズン中のテレビ報道の23.86%を占拠したと説明しており、これによるチームのスポンサーにもたらされた累積的なテレビ広告価値は54億ドル(約5738億円)に相当するという。

売上高が過去最高となった一方で、昨年新設のアプライド・サイエンス事業部門の影響もあって費用も増加しており、2018年の3億1145万ポンドから3億3,333万ポンド(約471億円)へと膨れ上がった。

人件費の増加も見逃せない。従業員数は2017年の912人から2018年の968人、2019年の1016人へと増加の一途を辿っており、昨年は設計や製造などのエンジニアリング部門で35人、その他の管理職で35人を新たに雇い入れ、総人件費は9530万ポンド(約134億円)に達した。

これは来年に導入が予定されているバジェットキャップの金額の9割に相当する。チャンピオンチームは予算上限を守れるのだろうか?

F1では2021年に1億4500万ドル(約154億円)を上限とする予算上限が導入される。金額は段階的に引き下げられ、2024年に一旦1億3500万ドル(約143億円)に固定される。また、2022年にはF1マシンが一新される新たなテクニカルレギュレーションが導入される。

アプライド・サイエンス事業部門の新設と新たな人材雇用における人件費の増加は、バジェットキャップと新たな技術規約の導入を見越したものだ。

F1で培った技術とノウハウを他に転用するアプライド・サイエンス事業部門は、タイトルスポンサーのINEOSが支援するロードバイク競技並びにアメリカズカップをサポートし、予算上限の導入に伴う人材の配置転換のために利用される。また、今の内により多くの人材を雇用する事で、2022年の新時代に向けて研究開発を先行する狙いもある。

今年初めの段階では、メルセデスがF1でのワークスチームとしての立場から撤退するのではとの憶測が飛び交っていたが、トト・ウォルフやダイムラー会長オラ・ケレニウスによってその可能性は否定され、新コンコルド協定の締結によって、少なくとも2025年までは参戦継続が期待出来る状況となった。

無論、新たな技術規約と予算制限の導入によって、メルセデスが今のような圧倒的な強さを発揮できなくなる事もあり得るが、決算報告にはメルセデスにとって如何にF1が大きな価値を持つ存在であるかが表れており、継続的な投資が有形無形の価値を生み出すものであることを裏付けているだけに、過度に撤退を心配をする必要はないように思われる。